第9章 産業としての医療:「病院のあり方に関する報告書」(2011年版)

主張・要望・調査報告

「病院のあり方に関する報告書」

第9章 産業としての医療

 産業は一般的に市場経済の中で再生産できる業態を意味するため、再生産もままならない医療業態は健全な産業とは呼べないという議論がある。
 しかしながら、「日本標準産業分類」(2002年改定)の「産業の定義」でも以下のように医療が産業に含まれることが明示されている。したがって、産業としての医療を考える場合、経済活動として医療がどのような意味を持つのかが問われる。
*「日本標準産業分類」(2002年改定)の「産業の定義」
「産業とは、事業所において社会的な分業として行われる財貨及びサービスの生産又は提供に係るすべての経済活動をいう。これには、営利的・非営利的活動を問わず、農業、建設業、製造業、卸売業、小売業、金融業、医療、福祉、教育、宗教、校務等が含まれる」。

 一般市場では需要と供給により価格が決定される。日本の医療市場では医療サービスの特殊性から効果を最大限にするために、国民皆保険制度のもと診療報酬を国が単一価格として決定し、自己負担額を平等にしている。医療の市場規模の総枠は、自由診療部分が圧倒的に小さく保険診療部分が大半を占め、2010年度は約35兆円であった。年3%の自然増が見込まれているが、財源は社会保険 50%、税金等の公費35%、自己負担金15%であり、このような医療市場には自律的拡大は認められておらず、市場規模は国によって調整されていると言ってもよい。確かに、フリーアクセスと自由開業制によって競争は起きており、満足を求めて患者が病院を選び支持される病院が市場に残ってはいるが、経済活動に与える直接の影響はほとんどない。
 これまで医療は「雇用創出」には寄与してきたが、『医療と介護・福祉の産業連関に関する分析研究報告書』でも「医療サービス活動の拡大は、・・・国内経済の下支えをする効果がある」と記されているように「経済成長」の牽引車となったことはないⅹⅶ。現在でも、医療が雇用の面で基幹産業と位置づけられる地域や、観光産業等との連携により新しい取り組みを始めた地域もあるが、その経済活動に与える影響はまだ小さい。
 医療は健康維持、疾病予防、治療を通じて実質的に労働人口増に貢献してきたことを踏まえ、「経済成長」の基盤産業の一つとして位置づけるべきである。そして、労働人口の減少する 2025年には、産業間競争を勝ち抜き有能な人材を獲得できる産業としなればならない。そのためには、改めて医療は社会のセーフティーネットとしての重要性と、医療の質の向上のための不断の努力とその成果を積極的に国民に示し、医療費増加への理解を図る必要がある。また、医療関連産業との間で健康創出、在宅支援サービス、更に素材や機器の開発、創薬、ICTの導入等に関して積極的に協働を図り、関連産業の活性化やノウハウと成果物の知的財産化に寄与すべきである。医療等を成長牽引産業と位置づけ「新成長戦略」を打ち出した菅内閣は2011年4月に「規制・制度改革に係る方針」を閣議決定した。これにより、善し悪しは別として医療への市場原理導入がなされると経済活動への影響は少なくないと考えられ、その推移を十分見守る必要がある。

ⅹⅶ 宮澤健一:医療と介護・福祉の産業連関に関する分析研究報告書 平成16年3月(http://www.ihep.jp/demo/member/03104.pdf)