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ホーム全日病ニュース第800回/2013年5月1日号「医療計画の中で医療提供の...

「医療計画の中で医療提供の重点化・効率化を図る」

「医療計画の中で医療提供の重点化・効率化を図る」

▲医療・介護に関する意見の中間集約を説明する国民会議の清家会長(中央)

「医療計画の中で医療提供の重点化・効率化を図る」

【社会保障制度改革国民会議】
国保を担う都道府県が機能分化推進の担い手-医療・介護で中間的な意見集約

 4月22日に開かれた政府の社会保障制度改革国民会議は4回続いた医療・介護制度改革の集中討議を踏まえ、意見を中間集約した。
 国民会議後の記者会見で、国民会議の清家会長(慶応義塾長)は、意見集約の内容を、(1)国民健保を都道府県単位に集約する方向で検討する、(2)総報酬割は、その全面導入によって生じる財源を国保に投入することを視野に、さらに検討を続ける、(3)医療提供体制の重点化・効率化は基本的に地域医療計画の中で実現を図る、(4)フリーアクセスは堅持するが、その綻び故にそれが否定されることがないよう必要な改革を行なう、(5)社会保障について国民に対する教育と広報が必要である、と整理してみせた。
 国民会議は引き続き少子化と年金に関する議論に入るが、6月以降の最終ラウンドの議論で再び医療・介護を取り上げ、報告書に向けて合意点を積み上げる予定だ。

4月19日の国民会議

 

 医療・介護制度改革議論の中間的まとめを行なった4月22日の国民会議には、これまでの議論で出た意見をテーマ別に整理した資料が出た(以下、引用はすべて同資料から)。
 そこには、「医療提供体制改革の実効性を高めるためには、医療計画の策定者である都道府県を国保の保険者とすることにより、保険者機能を通じた受益と負担の牽制を働かせることが効果的」など、医療提供体制と地域保険を一体とし、重点化・効率化の実効性を担保させるという意見が多く見られる。
 その背景には、昨年の国民健保法改正で国保財政運営の都道府県単位化が決まり、昨年4月から県による医療費負担の共同事業が一部医療費を対象に施行され、2015年4月からすべての医療費で実施されるという流れがある。
 この流れを、給付や業務、保健事業まで都道府県に移管にしていくというのが国民会議の合意だ。
 移管によって都道府県が国保の担い手となる。他方で、地方分権の流れがある。それを見据え、医療政策と医療提供体制の再編を地域の事情を把握できる都道府県に委ねていくべきという意見が、国民会議で有力になりつつある。

 

基金を創設。医療計画と一体に分化を促す案も

 政策ツールとしての地域医療計画を機能分化・連携を促す手段として推奨する権丈委員(慶大教授)は、現在医政局で検討されている、病床機能情報報告制度と地域医療ビジョン策定という手順にも注目。医療機関自らの機能選択を促す一連の流れに、基金を創設して強い誘導を加える仕組みを加えることを提案した(2面を参照)。
 医療計画を重視する意見は他の委員からも出ている。その中には、「各都道府県が2次医療圏ごとに基準病床数を高度急性期・一般急性期・亜急性期といった新たな医療機能別に算定し、地域医療計画に盛り込むべき」あるいは「診療報酬や医療計画など全国一律の規制等をどこまで緩和するか、地域ごとの医療政策の柔軟性を検討する必要がある」「保険医療機関の指定・取消権限を都道府県に付与する」など、規制と権限の見直しを提起する声もある。
 医療計画で機能分化を図る考え方に対して、遠藤委員(学習院大学教授)は、国保の移行方法によっては、財源等の問題で地域医療計画がもつ力は異なるものになると指摘、移行方法をよく検討すべきと主張する。
 また、「地域医療計画の見直しは時間を要することから、まずは次期診療報酬改定で機能分化のための取り組みを実施し、しかる後に地域医療計画と連動させるべき」と、次期改定の役割を重視する考えを示した。
 診療報酬に関しては、「都道府県が地域保険に参画するとともに、都道府県への医療供給に係る統制力と地域特性に応じた診療報酬設定の一部権限委譲も必要」「地域の実情を踏まえた診療報酬が決定できるようにすべき」など、地域単価の設定を提起する声もある。
 国民会議では、医療計画を重視する考え方だけでなく、「フリーアクセスを守るためにも初診時に一定病床数以上の一般病床で、紹介のない外来受診に、初診時特定療養費に代えて一定の定額自己負担を導入するべき。同様の仕組みを再診時にも検討」「医療・介護の連携・調整の機能を法律上に位置付ける」「すべての診療所を在支診とすること等を検討。地域包括ケアへの参画を条件に、こうした診療所や患者への優遇策を検討する」など、多様な施策案が語られている。
 その中には、「医療法人制度(及び社会福祉法人制度)の経営統合を促進する制度、医療法人(及び社会福祉法人)が都市再開発に参加できる制度など、規制の総合的見直しが必要」「社会福祉法人の大規模化や複数法人の連携を推進。
 低所得者の住まいや生活支援等にも取り組むべき」と、医療法人や社会福祉法人の見直しを提起する意見もある。

 

報告に「緩やかなゲートキーパー」を盛り込む可能性も

 国民会議の清家会長は4月22日の記者会見で、フリーアクセスに関する同日の議論で、権丈委員が「フリーアクセスを維持することが難しいとすれば、フリーアクセスを維持するためにも緩やかなゲートキーパー機能について議論していくべきではないか」と発言したと報告。その際に、「緩やかなゲートキーパー機能については、日医の今村副会長も触れていた」ことに言及した。
 その上で、「フリーアクセスは世界に冠たる制度であり、これを堅持していくということで合意があるが、逆に言えば、フリーアクセスを基本的に維持していくためにも、その綻びが出てくる中で、その綻び故にフリーアクセスそのものが否定されてしまうことがないように必要な改革を行なっていく必要があるという合意がある」と述べた。
 今村発言とは、3月27日の国民会議で、「フリーアクセスに色々な問題が生じているのは間違いない。私は、強制的なゲートキーパー、ここを通らなければ次に行けないというガッチリしたものではなく…、緩やかなゲートキーパーの機能をかかりつけ医がもって、最終的に必要な医療に繋げるという意味でのフリーアクセスが維持できていければいいのではないかと思う」と、今村日医副会長が述べたことを指す。
 この発言は、「かかりつけ医」の意義を説明する中で、病診機能分化の必要を強調したものと思われる。
 一方、国民会議で合意された“緩やかなゲートキーパー機能”の導入は、フリーアクセスを維持するためにフリーアクセスを一定程度緩和するというもの。現在も、一定規模の病院に紹介なしの外来患者に対する選定療養の適用が認められているが、そうしたレベルにとどまらないフリーアクセス規制策が提唱されることも考えられる。
 昨年11月から現在まで10回におよぶ国民会議の議論で、医療・介護の改革について様々な意見が飛び交った。
 しかし、体系だった改革論や、疾病調査やレセ等の患者情報あるいは医療施設と医師の分布データ等から医療ニーズと医療資源配置の現状把握や将来推計を行なうアプローチ、さらには、急性期から療養・在宅にいたる患者の流れを地域ごとに把握した上で入院、外来、在宅医療の配置を設計するなど、医療提供体制の土台を構築するための方法論は必ずしも聞かれない。
 そうした中、国保運営の移行に着目して都道府県を主役に据え、医療計画に補助金を付加したインセンティブ・スキームをもって医療機能の分化・連携、したがって2次医療圏ベースの医療提供体制再編を試みる考えは、8月の国民会議報告書において、医療提供体制にかかわる提言の中軸となる可能性が強い。