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ホーム全日病ニュース第800回/2013年5月1日号医療事故調査制度とりまとめへ...

医療事故調査制度とりまとめへ。次回会合に骨格案

医療事故調査制度とりまとめへ。次回会合に骨格案

【医療事故調査の仕組み等のあり方検討部会】
医療法等改正法案に盛り込み、今秋の臨時国会に提出。併行してGL案の議論

 4月18日の厚労省「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」は、事務局(医政局総務課医療安全推進室)が整理した論点にもとづいて、とりまとめの議論に入った。
 事務局の整理は、医療事故調査制度の骨格案に向けて意見を集約するために、これまでの合意点と追加的な論点をまとめたもの。
 検討部会は事務局整理の内容で大筋合意したものの、①遺族が直接第3者機関に調査を申請するケース、②院内調査に参加する外部専門家、③調査費用の遺族負担など、いくつかの点で詳細を詰める必要があるということで一致。
 その結果、次回会合に、こうした点の考え方を含む骨格案を事務局に示してもらい、取りまとめの議論を行なうことを確認した。骨格案がまとまれば、制度創設に要する予算が2014年度概算要求に盛り込まれる。
 事務局は、追加的な論点で調査に関する詳細や実務的な問題をガイドラインにまとめる必要を提起。「制度骨格案がまとまった後はガイドライン案の検討に入る」と展望した。
 同日の会合で、吉岡てつを総務課長は、医療事故調査制度の枠組みを含む医療法等改正法案は社会保障制度改革国民会議の議論結果を踏まえてまとめられるため、今国会ではなく、秋の臨時国会に提出する考えを明らかにした。

 事務局が提示した論点において、診療行為に関連した予期しない死亡事例を院内調査と第3者機関の2段構えで調査を実施して原因究明と再発防止を図る制度の骨格は、別掲のとおりに整理された。
 これを踏まえた議論では、主に、①調査対象に「故意」を含むか否かの取り扱い、②院内調査に対する外部支援の仕組み、③院内調査に参加する外部専門家の範囲、④遺族が直接第3者機関に調査を申請するケース、⑤調査費用の遺族負担などが論じられ、それぞれで構成員の意見は微妙に分かれた。
 院内調査について「在宅における予期しない死亡例はどうするのか」との質問が出たが、事務局は、「在宅の場合も含め、具体的な問題への対応はガイドラインで細かく定めたい」と答えた。
 調査対象に関して、事務局は「診療関連死である以上故意も対象に含まれるが、誰が判断するかを含めて細かな議論になるので(論点から)省いた」と説明したが、構成員からは「故意は調査対象から外すべきである」とし、その旨の明記を求める意見が出た。
 これについて、飯田構成員(練馬総合病院理事長・全日病常任理事)は「何であれ予期しない死は調査する。結果的に故意であると判断されたら告発すればよいだけのこと。想定に入れる必要はない」と述べ、調査対象にわざわざ「故意を除く」と明記する必要を否定した。
 院内調査を支援する外部専門家に関しては、医療専門職に限らず、機器などの工学系や原因分析など関連分野の専門家も対象に入れるべきという意見が示されたものの、支援体制のあり方や外部からの参加を義務づけるか否かについては議論が深まらなかった。
 第3者機関の調査費用について、事務局は、申請した医療機関だけでなく遺族も負担を分かつとする考えを提起したが、これに反対する意見はとくに出なかった。第3者機関の業務範囲については十分な検討ができず、費用の問題ともども、次回での議論になる。
 一方、第3 者機関について、大坪医療安全推進室長は、論点としてその業務を説明する中で日本医療機能評価機構や日本医療安全調査機構の現行調査事業に言及して、「こういったところの知見を踏まえて適切な一体化が図れればよい」と発言。第3者機関として、評価機構(医療事故情報収集等事業)と調査機構の統合をイメージしていることを示唆した。

 

“患者の納得”等心情論を挟む議論に多くの反対意見

 この日の議論では、調査をめぐる医療機関と第3者機関の関係が大きな争点となった。この点を、論点は「院内調査の結果や状況に納得が得られなかった場合など、遺族又は医療機関から調査の申請があったものについて、第3者機関が調査を行う」と整理している。
 これに対して、「遺族が希望すれば、最初から第3者機関へ申請できるようにしてはどうか」と、院内調査を待たずに第3者機関が調査に着手するルートを設けるべきとの声があがった。
 吉岡総務課長は、前出の論点について、「院内調査を行なうことが基本であり、それに納得できない遺族が第3者機関に申請するのが通常と考えるが、仮に、遺族が第3者機関に速やかな調査を申請した場合は、それも受け付ける」と説明した。
 こうした考え方を支持する構成員は少なくないが、その一方で、「院内調査を先行させるべきである」という意見もある。これは、院内調査を一義的とするか否かの議論であり、この日は明確な結論にいたらなかった。
 長い経過をたどって死亡にいたる場合は院内調査が先行していることが想定されるが、そうでない場合は、遺族が申請した第3者機関の調査と院内の調査が重なることがあり得る。調査は、中小の医療機関になるほど外部依存の割合が高くなるが、第3者機関も医師会や大学病院などに委託するかたちをとる。
 両者の調査が重なったときに関与する機関が重複することはないのか、あるいは、第3者機関の調査実施によって院内調査の自粛・萎縮が生じることはないのか、医療機関の自律的対応を旨とする医学的調査のあり方として、シミュレーションを踏まえた議論が望まれるところではある。
 これ以外にも、患者側の立場に立つ構成員からは、「専門性の観点から納得がいかない場合に第3者機関が乗り出すことができるという点も明確にするべきである」という見解が示された。この考え方は、原因究明を確実にしていく意義をもつものではあるが、一方で、医療事故調査を医療機関主導から第3者機関主導にしていきたいという意図をにじませるものであった。
 議論で一審や二審という言葉が使われることがある。院内調査で得られた事故の原因を第3者機関の調査で検証かつ見直す仕組みが望ましいということで、事故調査制度を裁判制度に例えているわけだ。その背景には“遺族の納得”が得られる仕組みであるべきとする考え方がある。
 医療事故調査については、長い議論の結果、ようやく責任追及という視点から解放され、原因究明・再発防止に徹する、そのための過程を確保するという考えを関係者が共有するにいたった。しかし、議論で“遺族の納得”という心情論が飛び交うという状況は、今も変わっていない。
 遺族心理の重視は、事故にともなう説明と対応など遺族とのコミュニケーションや精神的支援といった機能を事故調査の枠組設計に絡ませる意見となり、議論をしばし、行きつ戻りにした。しかし、この日は、少なからぬ構成員がそうした議論に批判を加える、かつてない場面がみられた。
 樋口構成員(東京大学大学院教授)は「院内調査を一審とし、二審として第3者機関とする発想が前面に出たかたちの第3者機関というのはいかがなものか。医療界の努力が理解されない結果になるのではないか」と、懸念を表明した(文書発言)。
 松月構成員(日看協常任理事)は「ここでは原因究明に限定した話を進めている。遺族の納得とか遺族への説明という視点は外していかないと純然たる調査の話はできない」と、苦言を呈した。
 患者側に立って発言してきた加藤構成員(弁護士)も、「グリーフケアの機能を指摘する声もあるが、私は、第3者機関は原因究明と再発防止に特化して設計されるべきであると思う。遺族に対する支援は別の組織体で行なえばいいのではないか」と論じた。
 こうした発言を踏まえ、飯田構成員は、「事故調査は効果として遺族の納得や心のケアにつながることはあるだろう。しかし、この仕組みの目的はあくまでも原因究明と再発防止であり、その話は別の場でしてほしい。それを混同すると議論は複雑になるばかりだ」と戒めた。
 一方、有賀構成員(昭和大学病院長)は医学部長病院長会議における医療事故制度設計の議論に言及、「次回に医学部長病院長会議の考えを示したい。基本的には病院団体の提言を斟酌すべきというのが我々の考えだ」と述べた。

 

□医療事故に係る調査の仕組み等に関する基本的なあり方と論点

(要旨。事務局は、文中の○の部分は概ね合意、*の部分は議論が十分詰められていない、と整理した)

○調査は、診療行為に関連した予期しない死亡事例を対象に、原因究明と再発防止を図ることを目的として実施する。死亡事例以外は段階的に拡大していく方向で検討する。
○医療機関は第3者機関に届け出た上で院内調査を行ない、その結果を第3者機関に報告する。
○遺族または医療機関から申請があったものは第3者機関が調査を行なう。
○院内調査に際して医療機関は外部の支援を求めることができる。(外部の支援を受けることが望ましいとの意見があることに留意して判断する必要がある)*外部支援や連絡・調整を行なう主体として、都道府県医師会、医療関係団体、大学病院等を支援法人・組織として予め登録する仕組みを設けてはどうか。
*院内調査に際して、医療機関は、遺族に、調査方法を記載した書面を交付するとともに、死体の保存(遺族同意が前提)、関係書類等の保管を行なってはどうか。
*院内調査の報告書は遺族に開示する。院内調査の費用は医療機関の負担としてはどうか。
*院内事故調査の手順は、第3者機関への届出を含め、厚労省でガイドラインを策定してはどうか。
○第3者機関として民間組織を設置する。
*第3者機関は以下の内容を業務としてはどうか。
①院内調査結果の報告書に係る確認・分析(当該確認・分析は医療関係職種の過失を認定するために行なわれるものではない)、②遺族または医療機関からの求めに応じて行なう調査、③再発防止策の普及・啓発、④支援法人・組織や院内調査等に携わる者への研修*第3者機関は全国に1つとし、調査は、都道府県医師会、医療関係団体、大学病院等に委託して行なってはどうか。
*医療機関は第3者機関の調査に協力すべきものと位置づけた上で、仮に、協力が得られず調査ができない場合は、その旨を報告書に記載・公表してはどうか。
*第3者機関による調査報告書は遺族と医療機関に交付してはどうか。
*第3者機関による調査の費用は学会・医療関係団体からの負担金、国の補助金に加え、調査申請者(遺族や医療機関)からも一定の負担を求めてはどうか。
○第3者機関から行政機関には報告しない。また、第3者機関から警察へは通報しない。