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支部訪問/第3回 埼玉県支部: 世代交代を迎える支部会員。「一般社団全日病埼玉」を設立

支部訪問/第3回 埼玉県支部
世代交代を迎える支部会員。「一般社団全日病埼玉」を設立

県行政への働きかけや地域医療への取り組みが今後の課題

 


▲支部総会後の懇談会で挨拶する中村支部長

 埼玉県支部は、4月15日の支部総会で新たな支部長に中村康彦氏(医療法人社団愛友会上尾中央総合病院理事長)を選出、2002年度から11年務めた天草大陸氏(医療法人敬愛会リハビリテーション天草病院理事長)から支部運営の責任を受け継いだ。
 中村支部長は現在49歳。全日病の常任理事として総務・財務委員会副委員長や医療制度・税制委員会委員長の要職もこなしながら、埼玉県支部の若きリーダーともなった。
 埼玉県は“私的病院王国”として知られる。2011年の医療施設調査によると、県内の病院数は346。そのうち公的は32に過ぎず、残りの314が私的と、その割合は90%を超える。しかも、私的の88%(275)が医療法人で、その県内病院に占める割合は80%にもなる。病院開設者における医療法人の割合は全国平均で66%であるから、いかに、埼玉県の医療が私的病院、中でも医療法人で成り立っているかが分かる。
 その例にもれず、112ある埼玉県支部会員のうち公的病院は1つに過ぎない。したがって、県内私的病院に占める会員病院の割合は33.4%になる。
 その支部会員をさらに増やしたいと、中村支部長は意欲的だ。
 「県内病院の過半数が全日病に加入すれば、県にもっと色々な申し入れができるようになる。今後、少なくとも、あと50病院は増やしたい」埼玉県には県病院協会がない。埼玉県精神科病院協会はあるが、日本病院会も日本医療法人協会も支部をもっていない。したがって、一般病院としては、全日病埼玉県支部が唯一の病院団体である。
 他方、県の医療審議会をみると、委員18人のうちの医療提供者は10人、そのうち県医師会が5 人を推薦している。しかし、5人のうち病院代表は1人に過ぎず、しかも、公的病院である(別途、医師会枠とは別に日精協から委員が1人出ている)。このように、県内病院の90%を占めるにもかかわらず、医療審議会に私的病院を代表する委員はいない。
 県医師会の病院部会はほとんどが全日病の会員である。天草前支部長は県医師会の副会長を務めていたこともあった。しかし、現在にいたるも、医療審議会など県の審議機関に病院団体の代表は入っていない。
 こうした現状に、中村支部長は「それもあり、我々としては会員を増強し、行政への発言権を確保したい」と、強い意欲をみせている。

 

少ない医師と低医療費で増加する県民を支える民間病院

 埼玉県は3月に第6次の地域保健医療計画(2013~17年度)を策定、そこに、10万人当たり医師数の「全国最下位を脱出する」と書き込んだ。全国平均156.1人に対して108.8人という医師数だけでなく、10万人当たりの病院数(全国平均6.7)も4.8と全国の下から5番目だ(いずれも2011年医療施設調査)。
 中村支部長は「埼玉大学には医学部がない。防衛医大は別として、県内には医科大が1つしかないですからね。しかも、勤務医が埼玉を越えて東京に吸い寄せられてしまう。東京在住の先生が埼玉に通うケースも少なくないのですが、夜間等の呼び出しに対応できないといった問題も出ています。東京のベッドタウンである埼玉県は、病院や医師の充足より先に、人口が増えてしまったのです」と分析する。
 一方、埼玉県の1人当たりの医療費は23.1万円と全国平均の27.3万円を大きく下回り、下から2番目という低さである。
 「少ない医師数と低い医療費で増加をたどる県民をみている。これを下支えしているのが民間病院ではないですか」と水を向ける。
 すると、中村支部長は、「そうなんです。埼玉県は民間病院同士の連携が強く、とても仲が良いのです。ですから、支部活動にも、本当によく協力してくれます。限られた病院が苦労するのではなく、先輩病院も積極的に協力してくれます。ですから支部運営がとてもやりやすいですね」と、支部の団結力を自慢する。
 「さらに、医療機能の連携においてもそうです。例えば、脳卒中の地域連携パスにしても、院内で作成していくうちに、自然と、まったく違う地域の病院同士によって作り上げられることもあります。民間病院同士なので話がしやすいのです。消費税の話をしても、“そうだ、そうだ。じゃあ何かやろう”って話が早い。そういう良さが、埼玉にはあります」地域連携パスを策定する動きのコアに、全日病の会員がいることが多いという。
 「支部の中の人間関係から始まるケースが多い。例えば、“川越で脳卒中の地域連携パスを作りたい”という声があがる。と、支部の中の脳外科の院長達に声がかかり、賛同した院長達は、自院の専門医に依頼する。そして、でき上がったものが県医師会や県に吸い上げられて1つのルールになる、といったパターンですね」しかし、こうした取り組みがシステム化されているわけではない。
 「支部として、連携パス作りの協議会や勉強会を設けるという意識的な取り組みにまではなっていません。本来であれば、そうしたものをきちんと組織化していかなければならない。全日病が公益法人となり、我々埼玉県支部も独立法人となったことですから、事業計画のスパンの中で、そうした地域連携に意識的に取り組むということもこれからの課題になりますね」と中村支部長。
 全日病の公益社団法人移行に先立って、埼玉県支部は、昨年中に、支部組織を一般社団として登記した。「一般社団全日病埼玉」である。
 「法人登記した理由は、独自活動の歴史、会員規模、そして支部会費を徴収していることなどから、資産関係をクリアにする必要があったためです」と、拠点支部ならではの事情を明かす。その1つの区切りとして、支部の執行部も若返りをはたした。
 執行部だけではない。埼玉県支部は、20%前後と、高齢化率が低い県ならではの若さが売りだ。
 「会員は、親の代から2代目、3代目へと入れ替わる時期にきています。50歳代が2代目として一番上の世代であり、下の世代には、ようやく大学病院から戻り、院長である父親の下で副院長を任された30歳代半ばの2~3代目が増えている。わが支部はそんな感じです」中村支部長は、世代交代が病院病床の機能分化と連携を促すとみている。
 「色々な環境変化から病院も機能分化しつつあります。跡を継いだ若い世代には、昔からの機能に拘泥することなく、専門特化や、あるいは、近くに循環器科や脳外科をもつ急性期病院があった場合には回復期へのシフトを図るなど、地域がやっていないところを埋めていく感覚がある。結構ドラスチックに進路を決めていく世代です。しかも、トップ同士が顔を知っていて仲が良いので、そこから新たな病病連携がスタートする。皆さん、民間同士、その辺の情報や患者の流れを分かっている。ですから埼玉は機能分化しやすい少ない医師と低医療費で増加する県民を支える民間病院ですよね」と、今後の動きを予測する。

 

11月に第55回全日本病院学会を開催

 埼玉県支部は、この11月2日・3日に、さいたま市で「第55回全日本病院学会in 埼玉」を開催する。

第55回全日本病院学会in埼玉のサイト

支部の団結力が試される大きなイベントである。
 「埼玉学会の準備も支部会員のスムーズな協力を得て順調に進んでいます」この学会に、中村支部長は1つの意味づけをもって臨もうとしている。それは、埼玉県医師会と全日病埼玉県支部との連携をより強固にする場にしたいという想いである。
 「いくら県医師会病院部会のメンバーに全日病の会員が多いといっても、病院部会の会合は年に数回どまりで、その活動性は決して高くない。これからは積極的に県医師会病院部会との連携をとり、足並みをそろえる必要がある」地域医療を支えていく上で県医師会と全日病支部の連携が不可欠、というのが中村支部長の認識だ。
 これまで、在宅や介護等の勉強会や、地域一般病棟など時宜を得たテーマで講演会を開くことはあったが、地域連携に対する意識的なアプローチや、県との協議、県への申し入れや要望等の活動といった、地域の医療・介護提供体制にかかわる地道な活動は必ずしも十分ではなかった。
 しかし、2025年に向けて、いやおうなく医療・介護の改革に向き合わざるを得ない。会員が若返る中、そうした支部活動のダイナミズムをどう創っていくか、中村支部長は、埼玉県支部の当面の活動戦略に頭をめぐらせる。支部活動のダイナミズムこそ、50人の会員増強を可能にし、その道筋の先に、県への影響力獲得があると信じている。

 

支部訪問/第3回 埼玉県支部
全日病各支部の現状と地域医療の課題を探る

 埼玉県支部は会員数112を誇る全日病拠点支部の1つである。支部長に就任したばかりの中村康彦氏に、埼玉県の医療概況と支部の状況をうかがった。
 (支部訪問は不定期に連載します。前回は2012年12月15日号に掲載しました。)