全日病ニュース

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高齢者の患者負担見直しに賛否。外来定額負担には戸惑いと慎重論が大勢

高齢者の患者負担見直しに賛否。外来定額負担には戸惑いと慎重論が大勢

【社保審医療保険部会】
「経済財政再生計画」工程表の課題で議論。年内に部会意見のとりまとめ

 11月20日の社保審医療保険部会(写真)に、事務局(厚労省保険局総務課)は「経済財政再生計画」の工程化にかかわる課題の議論を求めた。
 骨太2015で定められた「経済財政再生計画」に関しては、その計画初年度(2016年度)を前に、計画でかかげられた社会保障分野改革課題の実施見通しを年内に工程表に落とし込む作業が、経済財政諮問会議に付設された「経済・財政一体改革推進委員会」社会保障WGの手で進められている(6面を参照)。
 工程表には改革課題に関する取り組みの方向性と実施時期等が書き込まれる。したがって厚労省は、医療保険制度の審議を担う医療保険部会の意見を踏まえた上で施策方針を工程表に反映させる必要があるからだ。
 この日事務局が提起した課題は、大きくは、(1)医療・介護を通じた居住費負担の公平化、(2)高齢者の患者負担のあり方、(3)外来時の定額負担の3件。
 (1)については、①医療区分Ⅱ・Ⅲの患者に居住費負担を求めるべきか、②65歳未満の療養病床患者に居住費負担を求めるべきか、③療養病床の65歳以上患者の居住費負担額を1日320円から370円への引き上げるべきかの3点が論点として提起された。
 医療保険における居住費負担は、現在、「入院時生活療養費」の給付というかたちで療養病床に入院している65歳以上患者を対象に導入されているが、医療区分Ⅱ・Ⅲの患者は除外されている。これを、Ⅱ・Ⅲだけでなく、65歳以下にまで対象拡大するとともに、現行の65歳以上患者の負担額を引き上げるというのが、「経済財政再生計画」が突きつけた宿題である。
 この日の医療部会では、「一般病床や精神病床も対象とすべきではないか」との意見も出た。
 (2)では、75歳以上は1割という後期高齢者の自己負担割合と、2割負担の70~74歳について、14年4月以降70歳になる者が対象という段階適用によって14年3月末で既に70歳に達している者は1割を継続するという特例措置の見直しが課題にあげられた。
 さらに、被保険者の所得に応じて設定され、同一医療機関における一部負担金では限度額を超えない場合でも同月の複数医療機関における一部負担金を合算することができ、かつ、70歳以上には外来上限が設けられている高額療養費制度も見直しの対象となる。
 (3)に関しては、「かかりつけ医の普及の観点から」ということで、例えば地域包括診療料や地域包括診療加算を算定する医療機関を通さずに外来受診した場合に定額を徴収するという考え方が経済財政諮問会議等で提言されていることを受けたもの。
 11年に医療保険部会で取り上げられて否定された受診時定額負担の事実上の再現だが、医療費抑制という視点ではなく、「かかりつけ医の普及」という視点が打ち出されている点が目新しくなっている。
 こうした課題について、事務局(厚労省保険局総務課)は、(1)に関する論点では、「医療・介護を通じた療養病床の在り方等については、現在、療養病床の在り方等に関する検討会で議論が行なわれており、その後、医療部会、介護保険部会等で制度改正に向けた議論が行わなれることとされているが、こうした議論との関係をどう考えるか」と提起。
 居住費の負担は医療の必要性が低い者が入所する別の施設体系の中で解決するという選択肢もあるとの考えを示唆している。
 あるいは、(2)についても、「国民全体の納得が得られるよう検討する必要」「高齢者の適切な受診の確保を基本としつつ、生活への影響などを考慮すべきではないか」「患者負担だけではなく、保険料も含め総合的に検討する必要があるのではないか」と指摘するなど、課題を提起する一方で、論点で慎重な検討を求める必要を示唆している。
 保険者とくに被用者保険の委員からは、「高齢者の自己負担割合は見直すべき」「居住者負担は医療区分Ⅱ・Ⅲだけではすまないだろう。いちど幅広く議論してはどうか」「(後期)高齢者の2割負担はどこかで覚悟する方向で議論されるべき」など、患者負担の見直しに前向きな意見が示された。
 これに対して、後期高齢者の保険者は「高齢者の負担は総合的に検討されるべきで慎重にお願いしたい」(横尾全国後期高齢者医療広域連合協議会会長)と反応、別の顔をのぞかせた。
 ただし、それら保険者も外来受診の定額負担に対しては、「政策の狙いがよく分からない。政策効果をよく見据え、慎重に議論すべきだ」(白川健保連副会長)と戸惑いを隠さない。
 連合の委員は「将来にわたって7割給付を維持するという大原則にそぐわない政策には反対だ」(新谷副事務局長)と強く反対した。
 保険者以外の委員では、医療費抑制のために患者の負担を引き上げるという方向性は理解するものの、具体的な制度改正には慎重かつ(保険料負担、予防や保健事業の強化、財源議論など)総合的な検討を求める声が大勢を占めた。
 事務局は年内にもう1回議論して部会の意見をまとめた上で、それを踏まえつつ、工程表の策定に厚労省施策の考えを反映させる方針だ。

 

全日病ニュース2015年12月1日号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
  • [1] 全日病ニュース・紙面PDF(2014年7月15日号)

    http://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2014/140715.pdf

    入院食費の自己負担も引き上げへ. 医療保険部会. 7月7日の社会保障審議会医療
    保険部会に、事務局(厚労省保険局総務 ... 事務局は、また、療養病床に入院する65歳
    未満患者と療養病床以外の病床に入院する .... 調理費相当の食費と居住費負担が課
    .

  • [2] 厚労省 紹介なき大病院受診に新たな自己負担を提案|第828回/2014 ...

    http://www.ajha.or.jp/news/pickup/20140715/news01.html

    2014年7月15日 ... 7月7日の社会保障審議会医療保険部会に、事務局(厚労省保険局総務課)は、紹介状
    なく大病院を受診する患者の ... 事務局は、また、療養病床に入院する65歳未満患者と
    療養病床以外の病床に入院する全患者の入院食費の標準 ... ①紹介状なしで大病院を
    受診する患者の新たな自己負担の新設②入院時食事療養費・生活療養費の見直し③
    国保保険料の賦課限度額と被用者保険 .... したがって、療養病床の65歳未満と他の
    一般・精神等病床の入院患者には、調理費相当の食費と居住費負担が ...

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