全日病ニュース

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病院のあり方に関する報告書2015〜2016年版を発刊

病院のあり方に関する報告書2015〜2016年版を発刊

4年ぶりの発刊、2025年の医療介護提供体制のあり方を検討

 全日病はこのほど、「病院のあり方に関する報告書2015- 2016年版」を刊行し、会員病院をはじめ、関係方面に送付した。そのポイントを紹介する。

 報告書は、「高齢社会がピークに達する2025年の医療介護提供体制のあり方の検討と提言」について、西澤寬俊会長から委嘱を受け、病院のあり方委員会(徳田禎久委員長)が2014年4月から2年をかけて検討してきた。
 全日病は、1998年の「中小病院のあり方に関するプロジェクト委員会報告書」刊行以降、2000年からほぼ隔年で「病院のあり方に関する報告書」を発刊。一貫して理想的な医療提供のあり方に関して政策的な提言と病院自らが行うべき質の高い医療提供のために取り組むべき具体的事項を示してきた。「報告書」は、全日病の活動の基本と位置付けられ、各種委員会を中心に種々の取組みが行われている。
   2015- 2016年版の報告書では、2025年に想定される人口減少と高齢社会の進展、疾病構造の変化という確定的な社会構造の変化を踏まえた現実的な対応を中心に検討した。
問題が複雑化し検討に時間を要す
 今回の報告書は4年ぶり、7回目の発刊となる。これは、NDBなど医療に関するビッグデータの利用が始まったものの分析方法とその結果を政策に反映する方法が未だ確立していないこと、少子高齢化の対応は医療機関のみでは不十分であり、地域全体について検討する必要があることなど、問題が複雑化したことにより、検討に時間を要したためである。
 2011年版報告書において必要なテーマは網羅されていたと判断され、基本的に章立ての変更はない。
 報告書の構成は表1の通り。以下、章ごとに報告書のポイントをみる。
「2025年の日本」を想定し現実的対応示す
 第1章では、「2025年の日本」を展望し、想定される人口構造の変化やそれに対応する疾病構造の変化、あるいは医療介護需要の変化について、記載内容を更新するとともに、これらの環境変化のもたらす影響に関して改めて会員病院に注意喚起している。同時に、確実視される従業員の不足を想定した対応を会員病院に求めている。
 新たに現場の問題として浮上している認知症患者への対応と看取りの場の問題に言及した。認知症患者への対応では、自院で認知症を合併する患者に対応できるように専門知識の獲得が必要としている。
 看取りの場の問題は、地域全体の問題としてとらえるべきものとしている。2025年には、年間死亡者数は150万人を超え、病院のみで受け入れることは困難となる。高齢者が望むような在宅での対応は、在宅医療・介護の担い手不足から物理的に困難になると指摘。このため、老い方や死に方に関する意識調査を行い、健康状態や集団生活の許容の可否、介護の担い手の有無などを確認するとともに、医療機関、介護系施設、在宅等の看取りに関する資源の現状分析を行って現実的な対応が望まれるとしている。
財源問題で後手を踏まない対応を
 社会保障に関する財源問題を再検討し、国が進める医療費の適正化対策の内容を示した。財務省が主導する病床削減・地域差是正などによる医療費適正化政策の是非を検討し、後手を踏まないような積極的関与が必要とするとともに、医療者側、患者側のそれぞれが考えなければならない問題もあることを指摘した。
 社会保障費の費用分担の公平性に関して、可処分所得・資産にあわせた負担が必要であるとするとともに、マイナンバー制度の適切な運用、あるいは高齢者の可処分所得の減少に対応するリバースモーゲージの普及が急がれるとしている。
地域特性を踏まえた対応を求める
 第2章「医療の質と安全確保」では、会員施設が遵守すべき事項として、医療の質、安全に加えて、新しく始まった医療事故調査制度への取組みを記載している。医療事故調査制度施行後の課題を指摘して、具体的運用体制の構築と適切な実施が必要としている。
 第3章「医療費」では、医療費の現況を更新したほか、過去の主張と同様、「望ましい医療水準と医療費」の議論が必要であると指摘。医療費財源として、消費税の目的税化を是認している。
 第4章「医療圏」では、地域医療構想にも関係することから、地域特性という視点で再考察している。人口減少の少ない都市部と減少が著しい地方では、異なる対応が必要であることを具体的事例にて提言した。都市部では、今後の推移を見守り短期間で見直しが必要であること、地方では、公私の区別を超えて集約的連携と、広域で対応する効率的な体制づくりが必要であることを示した。
地域包括ケアにおける病院の役割
 第5章「医療提供体制」では、「地域医療構想」に関連した入院医療に関する国の方針を示し、日医や病院団体の提言との違いを示している。
 前回報告書との大きな違いは、具現化しつつある地域包括ケアシステムに対して病院がどうあるべきかを示したことであり、ICT の利用など連携ネットワークの構築が必要としている。また、中小の地域密着型病院が多い会員病院には、「地域包括ケア病院」としての対応が必要としている。
在宅医療にケースミックスを導入
 第6章「診療報酬体系」は、前回の診療報酬・介護報酬体系から診療報酬のみに限定した記載となっている。これまでの主張と大きな変更はないが、改めて入院に関しては病棟単位の機能分化とそれに対する支払制度が必要であることを示した。また、在宅医療および地域包括ケア病棟の診療報酬体系のあり方を追加している。
 在宅医療については、医療療養病床に用いられている医療区分・ADL区分のようにデータに基づくケースミックス方式を導入し、報酬格差を設けるべきとしている。
 地域包括ケア病棟については、急性期後や回復期が中心となっている現在の報酬に加え、在宅や介護施設からの急性期対応も必須であると指摘。2016年度改定で、手術・麻酔の出来高請求が認められたことを評価している。
高齢者の定義の見直し求める
 第7章「医療従事者」では、医療従事者の需給見通しを更新した。介護職員の需給にも言及し、確実視される従事者不足に対しては、国の対応を要望している。
 介護職は2025年には30万人の不足が予測されるが、人口減少のなかで充足される可能性は小さいとみている。さらにこの推計には、医療現場で必要となる介護職員は含まれていないので不足数はさらに多くなると指摘し、外国人労働者導入の可能性に言及している。EPA による看護・介護職員の導入は年間1,000人程度であり、介護職員不足を解消するには程遠い。10万人規模の導入を実現するため、現地での日本語学校設立、日本語習得者に対する看護・介護の教育を現地で行うなど、抜本的な議論が必要としている。
 医師については、医学の進歩や専門分化の進展により、医師の業務量は格段に増加し、必要医師数は上振れすると予測。医師の養成数は、今後の医療ニーズとの対比で、検討する必要があるとしている。
 さらに第7章では、「医療従事者確保のための高齢者の定義の見直しと人口増政策」を提言している。現在は65歳以上を高齢者と定義しているが、「70歳以上を高齢者と考える」という調査結果を紹介(内閣府が2002年に行った意識調査)。報告書は、高齢者を75歳以上とし、「後期高齢者」という言葉は廃止し、政策を変更すべきと提言している。
医療基本法をめぐる経緯を紹介
 第8章「病院における情報化の意義と業務革新」では、前回に引き続き情報化の意義、あるいは急速に進展するICT への基本的対応、これを利用した施設運営に資する内容を記載した。
 第9章「産業としての医療」では、医療を産業としてどうとらえるかを記載した。今回は、日本経済の視点と地域経済の視点で2つの視点からくわしく考察している。
 第10章「医療基本法」では、国会における議論が始まることを想定してこれまでの流れを詳細に記載した上で、全日病の考え方を述べている。権利と義務の関係ではなく、信頼の創造を求める考え方を説明し、全日病版の医療基本法案を提示している。
2025年に向けた今後の病院経営
 巻末では、2025年に向けた今後の病院経営について、専門家の指摘のエッセンスをまとめて記載。過去の報告書が示してきた医療機関の運営に必要な取組み内容を踏まえ、さらに具体的な対応を示している。
①地域で求められる機能の実現
 自院の立ち位置の客観的評価が重要であり、そのために経営判断に資するデータ作成を行う部門の設置を推奨。
②幅広い知識と実務経験を持つ病院経営専門家の養成・確保と費用の管理
 診療報酬改定にあわせた姑息的な対応では立ち行かなくなることは明らかで、トップマネジャーは経営に特化するか、専門家を配置して運営する必要がある。
③将来に向けたマンパワーの確保
 若年者の採用は厳しくなると予測されることから、専門職を含めたアクティブシニアの登用が必須である。また、可能な限り、業務の簡素化を図り、生産性向上を図るべきである。
④人口減少が明らかな地域における他産業との協調による地域活性化、街づくりへの参画および「地域包括ケアシステム」への積極的関与
 人口減少圏域は医療需要が減少するのみならず、地域全体の経済活動も縮小することから、無策のままでは経営への影響は必至であるとし、地域活性化・街づくりへの参画を求める。
終わりに
 今回の報告書は、2025年に向けた国の議論を踏まえ、会員病院に向けて現実的な対応策を中心に構成している。 「社会保障費増大に一定程度のキャップをはめようとする国の動きは必然であるが故に、我々医療提供側にもより大胆な改革が求められる」とし、経営体制の強化を呼びかけている。

徳田委員長のコメント
 現場感覚で理想的な医療提供体制を論じ、しかも自ら良質な医療提供のために行うべき課題と実践に関する提言を行ってきて、ほぼ20年になる。
 今回は、これらの取組みの総括とも言うべき報告書ととらえている。何故なら、近未来の医療介護政策がほぼ確定した中での検討であったが、過去の主張を大きく変更すべき項目・内容がなかったためである。
 今後、財政難・少子高齢社会の進展に見合う医療提供体制はどうあるべきか、より第3者的視点での検討を要するであろう。
 真摯な検討をいただいた各委員を始め、関係者の皆様の協力に深謝する。

表1 報告書【目次】
 はじめに
 第1章「2025 年の日本」を想定した報告書
 第2章 医療の質と安全確保
 第3章 医療費
 第4章 医療圏
 第5章 医療提供体制
 第6章 診療報酬体系
 第7章 医療従事者
 第8章 病院における情報化の意義と業務革新
 第9章 産業としての医療
 第10章 「 医療基本法」制定に向けて―医療基本法案(全日病版)提案の経緯―
 巻末 2025 年に向けた今後の病院経営―各施設が取るべき対応
 おわりに

 

全日病ニュース2016年8月1日号 HTML版

 

 

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