全日病ニュース

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質の高い高齢者医療を通じて地域の医療・介護体制を築きたい

【シリーズ●若手経営者に聞く①】

質の高い高齢者医療を通じて地域の医療・介護体制を築きたい

医療法人赤枝会 赤枝病院 病院長 須田雅人

 若手経営者は、どのように病院経営に取組み、医療政策に何を求めているのか。若手経営者の本音を聞くインタビューをシリーズで掲載します。
 第1回は、神奈川県で高齢者医療に取組む赤枝病院の須田雅人院長。終末期医療の取組みや全日病に対する想いを語っていただきました。

勤務医から病院経営者に

―法人の概要を教えてください。
 法人としては3つに分かれていて、医療法人が1つと社会福祉法人が2つです。医療法人の赤枝病院は194床の慢性期の病院で、医療法人ではそのほかに透析クリニック、老健施設やサービス付き高齢者向け住宅、訪問看護ステーション、有料老人ホームなどを運営しています。社会福祉法人は、特別養護老人ホームやケアハウス、グループホーム、クリニック、訪問系サービスなどを持っています。3つの法人をあわせた職員数は、1,300人程度です。
―病院長に就任するまでの経緯を教えてください。
 医学部を卒業した後、大学には残らずに、虎の門病院の外科で研修を受けました。その後、勤務医をしながら、整形外科の専門医をとって、12年間ほど病院で手術をしていましたが、縁があって2005年に赤枝病院の院長に就任することになりました。
―勤務医から病院経営者となって戸惑いはありませんでしたか?
 その時はまだ30代でしたから、病院全体を把握してリーダーシップの勉強をすることからはじめました。頭ごなしに指示を出す性格ではないので、なにか新しい方向を示したいと考えていましたが、自分なりの考えで病院を運営するようになるには10年くらいかかったと思います。全日病にも関わるようになって、医療のためにこれから何をしていくか、少しずつ見えてきているのかなと思います。
 経営者として考えることは、まず職員を養っていくことであり、そのために利益を出していかなければなりません。満床にして、診療報酬の加算をとっていく必要があります。

コストの削減に取組む

―これまでにどんなことに取組んできましたか?
 院長になって最初に取り組んだのは、経費の削減です。療養型病院は、包括医療で薬剤費に使える金額も限られています。同じ種類の抗生剤などは見直して少しずつ薬剤の数を減らす努力をしました。急性期の病院で処方された薬を引き継いで出す傾向があり、ビオフェルミンやロキソニンなど定時の処方に入れるべきでないものが続いていたりします。そこで、院内の医薬品リストで定時の処方に入れられないものを決めました。
 ジェネリックを基本に考え、薬剤師と相談して先発品とジェネリックの変換表を作成しました。病院にはいろいろな医師がいますので、すべての医師にわかりやすい形で示すようにしています。
 コツコツと薬剤費を見直した結果、年間で数百万円単位の削減になりました。院長になってから5年目くらいまでそういうことを徹底的にやりましたね。
 今、取組んでいるのは、薬剤と物品の購入方法の見直しです。これまで、施設ごとに発注していたものを本部に一元化し、業者も常に見直すことにしました。
 コストの見直しは、職員が一番嫌がることで、大義名分が必要だと考えるようになりましたね。つまり、今後も働いていける環境をつくるためには、コストの削減も必要だということを説明してから着手するということです。はじめから頭ごなしに、あれはダメ、これはダメでは反発がありますから。

高齢者医療の質が求められる

―慢性期医療を提供するに当たって心がけていることは何ですか?
 赤枝グループでは、在宅で生活できなくなった方すべてを対象としています。介護施設でかかわりをもち始めて、年々、医療度・介護度が高くなり、最後は赤枝病院に入院されます。「ここで最期を迎えてよかった」と思ってもらうことが理想です。
 ご家族と話していることですが、人生は丸い円のようなものだと思うのです。生まれたときは寝返りも打てない状態ですが、よちよち歩きをするにようになり、大人になって働いて子どもを育て、やがて足腰が弱くなり、転んで寝たきりになったりする。自然に年をとっていけば拘縮して体が縮んで、子どもの頃に戻っていきます。そして穏やかに天国に逝って命をつないでいく。子どもが立派に育って、順番に天国に逝くことは自然なことです。看取りに際し、ご家族とそんな話をして、「最期は安心して逝かれましたよ」とお話しします。
 高齢者医療、慢性期医療に質が求められる時代になったと思います。高齢者医療の質をどのようにアピールしていくかを常に考えていますね。
 心穏やかに看取るためには、時間的なゆとりも大切です。終末期にまったく食べられなくなって点滴の輸液ラインがとれないという場合、結局、脱水になってしまいます。そうすると、長くても10日~2週間が限界です。そんな場合でも持続的皮下輸液(HDC)を行って、1日500cc でも投与すると人によっては2カ月持つのです。短い人でも1カ月は命をつなげることができます。
 その間に家族は心の準備ができますし、いろいろな手続きを用意することができる。亡くなると銀行口座が凍結されますし、遺産相続の問題も整理できます。亡くなるまでの時期に一定の余裕を持つことは大切だと思いますし、看取りを行う家族にとっても最期の時間をともに過ごすことで充実感が得られます。
 将来的なことですが、終末期医療に緩和ケアの考え方を取り入れたいと考えています。心不全の最後では、咽びながら苦しんで亡くなっていく方がいますが、老衰であっても積極的に麻薬を使って苦しまずにすむような終末期医療を考えるべきだと思っています。
 また、今は病院が手狭で実現していませんが、亡くなる前の最後の2~3日は、家族が一緒に泊まれるような看取りの部屋を設置したいと思います。
 療養型病院としての質を高め、本人も家族も納得できる最期の迎え方を実現したいですね。

医療依存度が高い患者が増加

―最近の医療行政について感じることはありますか?
 療養型病院に医療依存度が高くて不安定な患者が増えています。以前は、平均在院日数240~ 270日でしたが、今では100日を切る勢いです。それだけ不安定な患者が増えて、入退院が早くなっているのです。これは、地域包括ケア病棟や回復期リハビリテーション病棟が増えていることと関係していると思います。
 以前は、地域の一般病院がある程度、機能していたのですが、今はリハビリの適用がなくて医療依存度の高い人の行き場がなくなって、直接、慢性期の病院に来るようになっています。慢性期病院からみると、医療提供体制に抜けている部分ができていると感じます。
 急性期から直接慢性期に来るのではなく、どこかで受け止めてほしいと思いますし、今後、地域包括ケア病棟がどんな役割を持つようになるのか関心があります。

MSWの働きが重要

―高い病床稼働率を維持していますが、秘訣はありますか?
 病床稼働率は99%以上で、ベッドが空いたら、次の日には入院を入れるようにしています。稼働率を維持する上で一番重要なのはMSW の役割であり、MSW が力を発揮できる環境をつくるようにしています。MSW は医療専門職ではないので、医学的なことは医師に確認する必要があり、そこでタイムラグが生ずることもあります。どうやったらタイムラグがなくせるかを考えた結果、院長室と医療相談室を一緒にすることにしました。私も医療相談の電話をとるようにしています。
 同じ部屋にいると、聞き流せない相談に気づくことがあります。最近、ある病院が閉院するので、患者を受け入れてほしいという相談がありました。それを受けたMSW は、「すぐは難しいですね。また、相談させて下さい」と言います。「それはどういう話なのか、もう一度電話してほしい」と私は言いました。事情を確認したところ、ある病院グループのM&A に伴って突然病院を閉じることになり、先方のMSW が困って連絡してきたことがわかりましたので、なんとかベッドを調整して、介護療養の患者17人を受け入れることにしました。
 MSW の役割は重要なのですが、待遇面はそれに見合ったものになっていないと思います。現在の給与体系では、MSW は資格手当がつかないので、例えばケアマネジャーの方が報酬が高くなります。透明性を持った給与体系にするには、資格手当をつけないと難しいので、見直したい部分です。

訪問診療専門の診療所に疑問

―今後の展望を教えてください。
 高齢者の医療・介護に軸足を置きながら、地域を盛り立てていって、高齢者が不安を抱えることがないような地域の医療介護体制を築いていく必要があります。地域をつくることが一番大事だと思っていて、それがないと私たちの病院も成り立っていきません。
 そういう面では、最近の訪問診療を専門に行う診療所の持続性について若干疑問を感じています。今、40 ~ 50代の医師が携帯電話を片手に日夜、在宅医療に取組んでいますが、あと10年して50 ~ 60代になったときに同じことができるでしょうか。若い世代の医師はドライになっていますし、運転免許を持たない人も増えている。地域の過疎化が進む中で、将来的に訪問診療を継続するのは難しいのではないかと思います。
 その時になって困らないような仕組みを考えておかないといけないでしょう。在宅で暮らす人が不安のないようにどうやって支えていくかが課題だと思います。

新しい芽を出す組織づくりを

―最後に全日病に対する期待をお願いします。
 全日病は、病院団体としてこれからの医療の方向を決めていく役割があり、新しいことを提案して芽を出していかなければならない組織だと思っています。新しい芽を出すためには新しい土壌をつくる必要がある。いろいろな委員会で集まったり、議論することが土づくりであって、総会で決議したり提言することが芽を出すことであり、国と折衝してそれを実現していくために全日病がある。よりよい医療を発信していくために必要な組織であると思います。
 ―次の全日病を背負っていくのは、若手の経営者の方々ですね。
 本業もありますので、どこまでできるか、わからない面もありますし、行政との折衝は場数を踏む必要があるでしょう。確実に時代は変わっていくので、みなさんがそれぞれの得意分野で力を発揮していくことが大切ではないでしょうか。私としては、高齢者医療のエキスパートになれたらと考えています。 s

 

全日病ニュース2017年4月1日号 HTML版

 

 

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  • [1] 全日病ニュース・紙面PDF(2013年7月1日号)

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