全日病ニュース

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2025年とその先を見据えた改革が来年度から始まる

【四病院団体協議会 会長座談会】

2025年とその先を見据えた改革が来年度から始まる

医師の働き方は人員配置を含めた規制改革と一体で議論

猪口 新年明けましておめでとうございます。
 少子高齢化、人口減少が進み、病院を取り巻く環境は大きく変わりつつあります。解決しなければならない問題は山積しており、医療提供体制を大きく変える様々な改革も2018年度から予定されています。病院にとって、非常に重要な時期に差しかかっていますが、まずは、それぞれの団体から新年の抱負をお願いします。
2030年には医療ニーズのピーク 個々の病院の役割を明確にする
相澤 私は「もう後がない」ということで、今年は、病院が覚悟を決めて決断する年だと思っています。それを日本病院会の一番大事な姿勢として、会員病院に説明していく必要があると感じています。
 日病は、会員病院の開設主体がそれぞれ違います。特に、公立・公的の病院の役割が不明確になっていて、「何をやらなければいけないのか」を決めるのが難しい状況になっています。「住民の健康を守る」、「命を大切にする」などの理念は出てきても、それは病院として当たり前のことであり、それぞれの病院が、何の役割を果たすのかが不明確です。病院の役割をこの段階ではっきりさせないと、2025年に間に合わなくなります。
猪口 まさに、そのことが今後本格化する地域医療構想における地域医療構想調整会議の役割になりますね。
加納 2025年の先を見越すと、2030年に医療ニーズのピークを迎えると言われています。それまで残すところ、12年です。今年は戌年ですが、次の戌年には医療ニーズは下り坂になるわけです。それを見越して病院の立ち位置をしっかりと考えないと生き残れません。
 その意味でも、地域医療構想調整会議は重要です。今年は医療法人として、未来を見据えてどう頑張っていくかを考える時期にきたということです。
 また、昨年10月から、持分なし医療法人制度への新たな移行計画の認定制度が始まりました。その際、移行に際して懸念されていた相続税や贈与税のみなし課税がなくなりました。持分のある医療法人に対しては、中小企業の事業承継における相続税・贈与税の納税猶予制度と同様の制度を創設して頂けるよう、さらなる要望を行っていくつもりです。来年10月に予定される消費税の10%への引上げについては、医療機関の控除対象外消費税問題に抜本的な解決を求め、しっかりと対応していく必要があります。
山崎 日本精神科病院協会としては「淡々」とやります。
 一般病院はこの15年ぐらいで、恐らく1,000病院ほど減っています。それに対して、精神科病院はほとんど減っていません。それはなぜでしょう。
 診療報酬で冷遇され、低医療費で何とか経営を支えてきた歴史がありますが、最近の改定で、あまりひどい点数にされることもなく、だからといって、いい話もない。ほそぼそと生き延びているというのが現状だからです。
 一方、全体を見渡すと、社会保障財政はパンク寸前です。国民は消費税の引上げに反対で、給付は伸び続ける。
 このままでは財政破たんでしょう。そのような状況だから、診療報酬は財政中立で、医療の財源の中でやり繰りしています。財務省は、自然増で伸びているのだから、収入増になっているというけれど、それ以上に、コストが増えているのだから、いつまで経ってもイタチごっこです。
 また、病院経営が大きな資本に翻弄される状況を懸念しています。病院名が変わらないので患者は気づかないけれど、投資家に買収されて、ある日、経営が全く変わってしまう。そんな病院が増えています。実際は誰に経営されているのか、状況をきちんと調べる必要があるのではないでしょうか。
猪口 持分のある病院では、それを誰が持つかで経営が変わりますが、持分なしの病院であっても、社員の構成を変えるだけで、実質的に経営が変わってしまうこともある。経営の基盤を考えると、「弱いな」と感じるところもあります。
日本の急性期医療をどう考えるか 改革を進めつつ、よいものは残す
猪口 各団体から、個々の病院が未来を見据えて、役割を考えなければならないという話がありました。
 さて、現状をみても、地域の急性期病院が平均在院日数を短縮させる中で、病床稼働率は下がり、競争が激しくなっています。日本は諸外国と比べ、病床数が明らかに多く、1ベッドあたりの医師・看護師数は、先進諸国の中で極端に少ないというデータがあり、変革が促されていますが、それについてどう考えればよいでしょうか。
相澤 ベッド数は多すぎるのでしょう。ただ日本では、急性期の概念が諸外国とは違っています。入院の契機となったイベントがあり、治療を終えて、安心して退院できるまでをみるのが、急性期でした。それが、優しくて、温かくて、思いやりのある日本の医療の特徴だったのです。
 しかしそれを続けるのが難しくなってきて、患者・家族にとっても必ずしもよいことではないということがわかってきました。特に、高齢者ではその傾向が強くなります。病態としての急性期で、急性期病床の必要数を試算すると、現状の半分で足りるというデータもあります。これらを踏まえながら、今後の急性期医療を設計し直す時期に来ていると思います。
猪口 一定の地域で急性期を集約して、急性期治療を終えたら、地域の病院に戻るという機能分化が進まざるを得ない状況ですね。
相澤 急性期が何かということを考えたときに、厚生労働省は、高齢者の肺炎や尿路感染症など、急性期の中でも医療資源投入量の低いものを軽症急性期といったり、急性期から外して亜急性と名づけて、よくわからない概念を作ったりしました。現在、使われている高度急性期、急性期、回復期、慢性期というのも少し違うのではないかという気がします。
 入院の契機となるイベントがあって、その状態がある程度落ち着くまでの期間を急性期とすれば、軽症急性期はその期間が短いということになり、重症急性期はその期間が長いということになります。医療資源投入量もそれにより、異なってきます。
 高齢者の肺炎などは患者数が多く、濃厚な医療を提供する必要性は低いので、そのような急性期は地域の病院で診るべきでしょう。
加納 診療報酬の議論では、急性期入院医療を評価する7対1入院基本料が医療費を削減できない大きな要因の一つにされて、削減する方向で議論になっています。しかし現場をみれば、看護配置7対1は最低限必要な急性期の体制です。昨今、一病棟を40床以下単位で構成している急性期病棟が多く、夜間の勤務体制を作る上でも、7対1が必要だと思います。
 諸外国と比べると、日本の医療提供体制は確かに薄く広く配置されているのかもしれません。では、アメリカのすべてを真似るのがよいことなのでしょうか。日本のよいところはちゃんと残すべきです。
 例えば、欧米では医薬分業が当たり前ですが、日本の院内処方・院内薬局は患者に便利な仕組みです。日本式の医療提供体制が、今日に至るまで低医療費で質の高い医療を提供し、長寿社会をもたらしました。
 最近では、高齢者が増え、肺炎や簡単な骨折などを生じ易く、一見軽度と思われる患者が増えています。しかしその中にも、実は重い症状の患者がいて、高齢者では、その診断が難しい症例が少なくありません。しっかりとトリアージできる体制が必要で、一つ間違えると医療事故になってしまいます。最初の入り口は急性期でしっかりトリアージをした後、どこで入院医療を受けるかの調整を図ることになります。
山崎 諸外国との比較に話を戻すと、病院という概念が欧米と日本では違うのだと思います。外国の病院はいわゆる急性期に特化したもので、日本における回復期や慢性期は入院医療ではありません。そうすると平均在院日数の計算などでも、おかしなことが出てきます。
 例えば、OECD(経済協力開発機構)の指標では、精神病床は急性期病床だけを意味し、リハビリテーションや長期入院のための病床は含めません。日本では精神病床が30万床といわれますが、OECD の定義では13万床ほどになります。平均在院日数もOECD の定義だと55日ほどであるのに、厚労省は200日と言っています。このような違いがあるのに、一方的なイメージが作られています。
猪口 日本では、急性期と位置付けられている病院のベッドが多く、実態は必ずしも急性期ではない患者が入院しているということで、急性期は集約し、介護施設を含めて、他の機能に転換させていく方向の議論になっています。
山崎 病院の開設主体による問題もあります。ヨーロッパの多くは、病院は基本的に公設民営であり、民営であっても非営利法人で営利企業は参入できません。アメリカは違いますが…。
 それに対して、日本は公立・公的、民間があります。民間は病院建築やその増改築も、診療報酬で賄う必要があります。公立・公的病院は公的資金が投入されているのに、収入は同じ診療報酬です。これはおかしいのではないでしょうか。診療報酬でそこに差をつける必要があります。
 先ほども触れましたが、日本の社会保障財政はパンク寸前です。現状の診療報酬にある矛盾点を解消して、あるべき医療費の配分にすべきです。また、社会保障財源を今後も確保していくには消費税を上げるしかありません。
 2002年の国家予算をみると、歳入と歳出は国債に頼ることなく、安定していました。その後、国債増発が続いています。税収が当時と変わっていないのに、歳出が増え続けているからです。
 国は自転車操業を続けており、このままだと消費税率20%にしないと安定しないでしょう。