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ホーム全日病ニュース(2018年)第922回/2018年8月1日号人口減少社会において地方で街づくりと多角的連携を実践...

人口減少社会において地方で街づくりと多角的連携を実践

人口減少社会において地方で街づくりと多角的連携を実践~ 6月2日の病院見学会報告

【シリーズ●若手経営者に聞く④】社会医療法人恵仁会 理事長/くろさわ病院 院長 黒澤一也

 若手経営者が本音を語るシリーズの4回目は、長野県佐久市を中心に医療・介護サービスを展開する社会医療法人恵仁会くろさわ病院の黒澤一也理事長です。公民館を併設した新病院建設の経緯や、6月に行われた病院見学会について報告していただきました。

当法人の概要

 当法人は、長野県佐久市にある83床のケアミックス型病院であるくろさわ病院を拠点とし、同市内と上田市真田町に医療機関や様々な介護保険事業、保健部門を展開する保健医療福祉の複合体である。当院は昭和12年に佐久市中込に産婦人科医院を開業したのが始まりで、その後昭和47年に産科婦人科中心の病院となった。
 しかし、昭和末期に大病院志向による患者数伸び悩みや将来の高齢化を見据え高齢者医療・介護への転換を始め、昭和63年に介護老人保健施設を開設し、その後平成になってからは病院を中心に訪問系・通所系サービスを充実させ、平成10年にはケア付き住宅を病院の近隣に開設し、病院を退院したが自宅で暮らせない高齢者の住まいを確保した。その後ケア付き住宅を増やし、様々な介護サービスを充実させ拡大していったが、平成12年に第二代理事長が急逝し、その後しばらく経営が低迷したが、病院経営を立て直すべく医師の確保や診療の充実を図り、また平成14年に市内初の宅老所開設を皮切りに市内で複数の宅幼老所や有料老人ホームを開設した。さらに託児所の開設や研修の充実など職員満足度を上げる取り組みも実施し職員確保にも注力した。
 また平成15年頃から障がい者事業への展開を始め、さらに医療・介護ともに質の高い充実したリハビリが実施出来る体制を作り、現在ではスポーツのサポートも実施している。
 このように第二代理事長逝去後の低迷期を乗り切り、また高齢化社会における医療・介護の競争社会の中で当法人は様々な変化を遂げてきた。

佐久の医療体制が激変
救急搬送が急増

 さて当院の属する佐久二次医療圏は人口約20万人で、高齢化率は30%を超える地方都市型地域であり、山間部を中心に人口減少が進んでいる。比較的充実した医療が提供されている地域であるが、これは拠点病院となる佐久総合病院の影響と思われる。その佐久総合病院は平成26年3月に病院を分割し救急・専門医療に特化した佐久医療センターが開院した。
 これをきっかけに佐久医療圏の医療体制が激変し、それまでは救急車はほとんど佐久総合病院に搬送されていたが、佐久医療センターが高度救急を主に扱い、それ以外は周囲の医療機関で対応する形になり、当院への救急搬送は以前60件ほどであったのが、昨年度は400件に迫るほどになった。その影響で手術件数も増加し整形外科・形成外科で400件以上の手術を行うようになった。

新病院建て替えと
移転後の運営について

 当院は老朽化に伴い約10年前から新病院建て替え計画を進め、平成27年2月に着工し平成29年4月JR小海線中込駅前に新築移転した。当初は現地建て替えを模索していたが、旧施設の周囲は住宅街で工期・資金的にも不可能と判断され、近隣への新築移転場所を検討した。その中で中込駅前に旧商業施設が残っており、市と協議した結果、そこを取得するに至った。しかし地域住民よりその場所に、やはり老朽化した公民館の移転新築の希望があった。そこで当法人、市、地域住民と様々な会議等で話し合った結果、当法人施設内に公民館を併設し市に貸与するという形で話がまとまった。
 民間病院に地元公民館が併設されるのは全国的にも珍しく、寂れた駅前に人が集まることが期待され、また少子高齢化・人口減少社会において、地域の皆さまが医療や介護のみならず、安心して暮らせるような生活を支える地域包括ケアシステムの拠点になればと考えて新築移転事業に取り組んだ。
 今回移転した新施設は病院をはじめ、介護老人保健施設、健診センター、訪看ステーション、法人本部がともに移転した。当院の売りであるリハビリセンターは前施設より大幅に広くなり機器も充実させた。救急車の受け入れ増加に対しては様々な救急患者さまを受け入れるべく救急室を外来から独立させ対応できるようにした。また手術件数増加に対応すべく手術室は2室に増やした。


くろさわ病院の概観

退院支援体制を構築し
病床運営を転換

 そのような取り組みの中で当院の病床運営は移転後半年で劇的に変わった。旧病院では療養床は医療・介護20床ずつであったが、移転とともにすべて医療療養床に転換した。しかし療養床はここ数年医療区分が低く、行き先のない介護度の高い患者が多く収支は悪化の一途を辿っていた。それとは逆に前述したように救急・手術患者の増加等に伴い、一般床・地域包括ケア病床の稼働率・収支は増加していた。
 そこで移転後、早期退院を促す退院支援体制を構築し取り組んだところ、行き先が見つからず長期入院となる患者が減少し、療養床を地域包括ケア病棟に転換する方針を固め、病床運営・看護師確保に取り組んだ。その結果として平成29年10月より療養床すべてを地域包括ケア病棟に転換し、最終的には一般床37床・地域包括ケア病棟46床とした。現在同病棟の運営状況は良好と考えられ、5月からは新設された入院料1を算定している。
 今回の病院建て替えの最大の特徴は前述したように公民館が併設されたことである。300名収容の大ホールをメインに、工作室・和室・調理室なども完備しており、病院に隣接しているため防音には特に気を遣った。また駐車場に関しては協議の結果、市に立体駐車場を準備して頂き、共同で設置した連絡橋で繋がり法人施設・公民館ともに利用者の利便性を図った。新築移転後約1年が経過したが、病院利用者が徐々に増加しているとともに公民館の方も利用件数・利用者数とも昨年度を大きく上回っており、相乗効果が出ているものと考える。さらに最近は地元商店街のイベントにも参画し、様々なコラボレーションを実践している。今後も引き続き公民館・地元商店街等との連携を推進し街づくりを進めていきたいと考えている。

今後の展開、将来への展望

 今回の新施設の特徴としては、市街地駅前で行政と連携し同一建物内に文化会館を併設したことであり、跡地利用も含め街づくりを通して地元との連携を深め、地域に根ざし創意工夫しながら独自の地域包括ケアシステムを創造していく予定である。平成29年度末で市立病院併設の老健が閉鎖し、その受け皿としてサテライト老健建設が旧病院跡地に建設し8月1日に開設予定となっている。
 また旧病院の前にあるケイジン健康運動センターは以前プール・温泉が併設された疾病予防施設として運営されていたが、平成28年末のボイラー故障に伴い平成29年度よりプール・温泉を廃止し、マシーン中心の運動施設に生まれ変わった。現在は高齢者向けの運動教室や子供向けの運動教室も行っている。同センターを中心に法人内では保険によるリハビリは今後制限が厳しくなると考えられるため、自費事業としての各世代に向けた運動教室等を展開し、その中から雇用を創出する取り組みを始めている。
 新病院を含めた当法人の施設は駅前から遊歩道を有する商店街を挟み込んでおり、今後商店街や地域住民を巻き込んで、人口が維持できる、そして多世代の住民が健康でいられる街づくりができたらよいと考えている。
 一方で高齢化により介護保険事業者が増加し競合するようになり、利用者確保や職員確保が困難になってきたため、入居者の減ったケア付き住宅は廃止し、また宅老所や訪問系事業所は統廃合するなど事業整理を行っている。

6月2日の病院見学会について

 今回、平成30年度の若手経営者育成事業委員会の病院見学会において当院が選出され、去る6月2日に全国より60名ほどの若手経営者の皆さんが参加され盛大に開催された。見学会では、併設された中込会館において、まず法人の概要・新病院移転への取り組み、今後の展開などについてお話させて頂き、その後4班にわかれ新施設を見学して頂いた。経営者の皆さんは特にコスト面について細かく質問されていたのが印象に残った。
 約1時間の見学のあと、栁田清二佐久市長より特別講演をして頂いた。その中で市長は、佐久の卓越性をアピールし企業誘致や移住促進に注力している話をされた。実際佐久市において旧佐久市では新幹線駅周囲を中心に過去10年で人口が増加しており、今後も様々な取り組みを継続していくとのことだった。
 その後懇親会会場のホテルまで新施設と旧病院を結ぶ商店街を歩いて移動して頂き、中込の街の状態を参加者の皆さんに見て頂いた。懇親会は佐久市長も参加され、多くの皆さんが時間一杯まで交流し非常に熱気あふれる懇親会となった。さらに有志を募って二次会に行ったものの参加者が多く、二手に分かれ中込の街を堪能して頂いた。三次会まで多くの皆さんが参加し多くの交流が持てた。翌日ゴルフ申し込みされた方は女子ツアーも行われる軽井沢72ゴルフ北コースでゴルフを楽しんで頂いた。
 今回の見学会には全国から多くの若手経営者に参加して頂き様々な意見交換ができ、充実した見学会になったのではないかと思われる。これから病院建て替えを控えた経営者にとって少しでも参考になれば幸いである。

おわりに

 民間小病院が今後の少子高齢化・人口減少社会を生き残るためには、周囲の状況を的確に把握し、時代の流れを先取りし、臨機応変に事業の拡大・統廃合をしていく必要があると考える。また医療や介護といった枠にとらわれず、異業種や地域住民、また民間であっても行政と積極的に連携していく必要があると思われる。そして保険事業にとらわれず自費事業の拡大も視野に、地域包括ケアシステムの構築を含めた街づくりと多角的な連携が必要と考える。
 全日病においても次世代を担う経営者が安心して病院経営できるよう、若手経営者育成事業委員会を中心に全国の若手経営者の集いの場として、今回のような見学会や研修等が永続的に行われることを期待し、私も微力ながら尽力していきたいと考えている。


中込会館において病院見学会の参加者と。前列中央が筆者。

 

全日病ニュース2018年8月1日号 HTML版

 

 

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    社会医療法人恵仁会くろさわ病院の黒澤一也理事長は、長野県佐久市を中心に生活を
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  • [2] 全日病ニュース・紙面PDF(2017年6月1日号)

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2017/170601.pdf

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  • [3] 全日病ニュース・紙面PDF(2017年10月1日号)

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