全日病ニュース

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枠を越えて生きるをデザインする病院

枠を越えて生きるをデザインする病院

【学会企画シンポジウム4】

 学会企画のシンポジウム「枠を越えて生きるをデザインする病院」が行われ、3人の演者が従来の病院の枠を越えた取組みを紹介。生き残るための病院経営の真髄を語り合った。座長は、安藤高朗副会長と国際医療福祉大学大学院の高橋泰教授。
自立可能な医療システムを輸出
 医療法人社団KNI北原国際病院の北原茂実理事長が、北原グループが取り組む海外事業やAIを駆使した病院建設を紹介した。
 北原グループは、カンボジア、ベトナム、ラオスでアウトバウンドの海外事業を展開している。昨年10月にカンボジアに救命救急センター「サンライズジャパンホスピタル」を開設。現在は、ベトナムで病院建設を進めている。
 北原グループのアウトバウンドは、日本の医療を持ち込むのではなく、相手国の実態にあった形で自立可能な医療システムを作ることが特徴。現地のスタッフを教育して雇用を生み出す。
 「本当に必要な医療が安価に提供される仕組みを提供する」と北原氏はいう。
 一方、国内では本拠地である東京・八王子ではICTやAIを活用した医療に取り組んでいる。その一つがデジタルリビングウィルだ。医療情報や緊急時の対応、終末期の意思表明などを記録・活用するサービスで、指紋認証で個人を特定し1人暮らしの高齢者が倒れて意識がない場合でも延命治療を望んでいたかを確認することができる。
 11月にオープン予定の病院はデジタルホスピタルを目指している。AIによる自動運転の病院で、顔認証の入館システムを導入。関係者以外は病院に入ることはできず、認知症の人の外出も防げる。職員は、ヘッドセットを着けて、AIから指示を受ける。検温をすればその結果が電子カルテに自動的に記録される。ミスがなくなり、申送りの時間が不要になる。
病院経営から「おとなの学校」へ
 株式会社おとなの学校の大浦敬子代表取締役は、23年前、病院の事務長をしていた母の急死により医療法人の経営を担うことになった。認知症ケアに取り組む中で、「おとなの学校」という介護の仕組みにたどり着いた。
 おとなの学校は、「単に施設を学校にしたもの」(大浦氏)。黒板やスクール形式の机と椅子、校歌を用意。制服を着て、1日の時間割があり、在宅に帰るときは卒業式がある。「仰げば尊し」を歌うと号泣する人も。「学校に行って楽しかった。今日も生きていてよかった」という人生を提供するメソッドだ。
 重度の認知症の人は現在のことはわからなくても、昔のことは覚えている。
 「学校という枠組みの中に入ると、安心して座っていられる」(大浦氏)。認知症ケアに大きな効果があり、授業中は1人のスタッフで20 ~ 30人の高齢者をケアできる。その間、他のスタッフの時間ができるので、施設運営の効率化につながる。
 「おとなの学校」は、フランチャイズで全国展開に乗り出し、2002年から介護施設アクティビティの教科書「おとなの学校メソッド」を発行。急速に部数を伸ばし、現在280施設の6,000人に届けている。
枠を越えて地域づくりに取り組む
 社会医療法人恵仁会くろさわ病院の黒澤一也理事長は、長野県佐久市を中心に生活を支える医療を展開。病院の枠を越えて街づくりに取り組んでいる。
 くろさわ病院は、今年80周年を迎えた。建物の老朽化に伴う病院の建替えに当たり、4月に駅前の商業施設の跡地を利用して病院を新築移転した。
 住民の要望に応えて、公民館を施設内に併設。病院の裏手には市が立体駐車場を整備し、連絡橋でつないだ。
 「駅前商店街の一角に人が集まる施設をつくったことで、街の活性化が期待できる」と黒澤氏。
 一方、旧病院の跡地には、サテライト老健の建設を計画している。隣接する健康運動センターは新たな形の予防施設として生まれ変わる予定だ。
 「人口減少の中で、このままでは街もろともになくなってしまう。どうしたら地元の街を存続させられるかを考えてきた。医療と介護だけをやっていたのでは街は残せないと思い、いろいろな枠を越える形で取り組んできた」という黒澤氏。病院の枠を越えて地域全体の持続可能性を考えている。

 

全日病ニュース2017年10月1日号 HTML版