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ホーム全日病ニュース(2018年)第922回/2018年8月1日号医師に対する時間外労働規制の議論を再開...

医師に対する時間外労働規制の議論を再開

医師に対する時間外労働規制の議論を再開

【厚労省・医師の働き方改革検討会】医療界がまとめた意見書を報告

 厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」(岩村正彦座長)は7月9日、医師に対する時間外労働規制の議論を再開した。四病院団体協議会などが加わり、日本医師会が主催する検討会議がまとめた医療界の意見が報告された。医師の働き方に関する様々な調査結果も示された。今年度中に、医師に適用する時間外労働規制の上限設定とあわせ、制度的対応を含めた勤務環境改善策をまとめる。

 医師への特別条項の「特例」を提案
 全日病の猪口雄二会長ら四病協の代表を含め、医療界の代表が参加し、日医が主催した「医師の働き方検討会議」がまとめた意見書を今村聡委員(日医副会長)が会議で説明した(意見書の概要を5面に掲載)。
 意見書は、「地域医療の継続性」と「医師の健康への配慮」の両立を図ることを最重要の課題とした。働き方改革による労働者全体に適用する法律の要請に応じ、医師に適用する時間外労働の上限(特別条項)を設定するものの、それを超えて働かざるを得ない場合には「特例」を設けることを提案した
。  労働者全体への働き方改革の法律が成立し、36協定で特別な場合の時間外労働を定めても、時間外労働は年720時間以下とすることなどが決まった。一方、医師については、働き方の特殊性を踏まえ、2024年度末までは法令を適用せず、その後は厚労省令で別途定める基準を適用するとしている。
 意見書によると、まず医師に適用する省令の上限(特別条項)は、労働時間が過度に増加することを防ぐ「歯止め」と位置づけ、目安は「脳・心臓疾患の労災認定基準」(いわゆる過労死ライン)を基に設定する。その上で、この基準を超えざるを得ない場合の「特例」を設ける。特例を受ける場合は、新たに創設する第三者機関の承認を得るとし、目安は、「精神障害の労災認定基準、海外の働き方の事例等を手がかりに、上限時間を今後検討する」。
 さらに、これらの上限の枠内で対応する「専門業務型裁量労働制」や米国のACGME(米国卒後医学教育認定評議会)を参考とした研修医に対する別制度の検討も提案した。
 そのほか、◇健康確保策◇自己研鑽◇宿日直◇院外オンコール待機▽休日、勤務間インターバル、連続勤務時間◇地域住民への医療の理解◇労働関連法令の幅広い見直し・医事法制との整合性─など検討すべき課題を列挙した。
 日本病院会の岡留健一郎委員は、「医師の働き方が理解されていないという気持ちが根底にある。勤務医が労働者であるのは間違いないが、患者への応召義務や生涯にわたる自己研鑽、地域医療を守るための様々な活動を担っている。医療の需要に対し医師の供給が足りないという体制の問題もある」と訴えた。

 緊急的な取組みの実施状況を示す
 厚労省が、「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組み」の実施状況を報告した。緊急的な取組みは、同検討会が2月27日にまとめ、医療機関に周知したもの。①出退勤時間の記録など労働時間管理の適正化②36協定の自己点検③産業保健の仕組みの活用④タスクシフティングの推進⑤女性医師等の支援⑥医療機関の状況に応じた医師の労働時間短縮の取組み─の具体策を盛り込んでいる。
 調査の対象は、四病協、日医、全国自治体病院協議会、全国医学部長病院長会議の会員病院となっている。
 結果をみると、36協定の点検で「自己点検を実施」は32.3%、「自己点検の予定なし」は17.9%だった。36協定を見直した医療機関のうち、「上限時間の変更」をしたのは67.7%に上った。服薬指導や静脈採血、検査手順の説明などタスクシフティングは多くの医療機関で、すでに行われていた。ただ実施していない医療機関で「予定なし」との回答が、それぞれの項目で5割程度だった。
 タスクシフティングが未実施の医療機関の5割程度が、今後も「予定なし」と回答したことについて、「危機感が足りない」との意見と「5割程度も実施している」との意見の両者があった。
 また、緊急でない患者に勤務時間外の病状説明を行わないことや、勤務間インターバルの設定、複数主治医制など、「医療機関の状況に応じた医師の労働時間短縮に向けた取組み」を実施しているのは、対策ごとに3〜5割だったが、実施していない医療機関で、「予定なし」は5〜7割に上った。
 病院勤務医の勤務実態調査(タイムスタディ調査)の結果も報告された。325名の医師を対象に、2日間の調査で、観察者が1分単位で業務内容を記録したものと、医師本人が30分単位で記録したものを分析した。
 厚労省は、結果の概要を次のようにまとめた。当直については、◇日中と同程度に診療が発生している場合、断続的に診療が発生している場合、ほぼ診療がない場合(いわゆる寝当直)がある◇診療をしていなくても深夜以外は、自己研修や研究など多様な時間となっている◇休憩・仮眠時間が一定程度確保できていても、連続した仮眠ができていない場合がある。
 自己研修・研究の時間について、◇自己研修・研究の時間は平均すると1時間半だが、ばらつきが大きい◇長時間の自己研修は大学病院・大学病院以外を問わず、若手医師の場合が多い。
 タスクシフティングについては、診療時間のうちの事務作業が、当直ありの場合は4時間、当直なしの場合は2時間程度で、いずれも診療時間の21%程度を占めていた。
 厚労省は、医師の働き方改革を進めるには、国民への理解が必須と説明。国民全体を対象とした意識醸成と関係する主体による地域や職場での個別具体的な取組みを求めた。また、医師の業務の負担感として、「診断書、診療記録および処方箋の記載」、「主治医意見書の記載」が大きいことを踏まえ、民間保険会社の書式を含め、様式の統一化・簡素化の検討を進めていることを明らかにした。
 今後の進め方としては、9月に2回の開催を予定し、◇さらなるタスクシフトのあり方◇自己研鑽◇宿日直◇応召義務◇諸外国における勤務医に対する労働時間規制─を議題とする。10月以降は、これらの論点の方向性とともに、それを実現するための施策・制度のあり方を議論する。時間外労働の上限時間の設定とあわせ、医師の勤務環境改善策を年度末にまとめる。

 

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