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ホーム全日病ニュース(2018年)第922回/2018年8月1日号【資料】医師の働き方改革に関する意見書(2018年7月・医師の働き方検討会議)(抜粋)...

【資料】医師の働き方改革に関する意見書(2018年7月・医師の働き方検討会議)(抜粋)

医師の働き方改革に関する意見書

【資料】(2018年7月・医師の働き方検討会議)(抜粋)

 

はじめに~「医師の働き方検討会議」について
○設置の経緯
 働き方改革において、医師に限っては、その特殊性から、厚生労働省内に「医師の働き方改革に関する検討会」が別途設けられた。平成29年8月から検討が行われ、平成30年2月に中間的整理、緊急的対策がまとめられた。
 平成29年6月に、日本医師会は「医師の働き方検討委員会」を設置し、議論を進め、平成30年4月に答申をまとめた。「医師の働き方検討委員会」答申(以下、「答申」)においては、医師の働き方改革に関するおおよその方向性が示されるととともに、医師の働き方改革については、医療界が意見を集約するべきとの提言がなされた。
 これを受けて、医師の働き方について医療界として主体的かつ具体的に検討し合意形成を図ることを目的として、「医師の働き方検討会議」が日本医師会主催で設置された。

○意見書の方向性~勤務医の働き方について労関連法令を中心に提言
 医師の働き方改革の論点は極めて多岐に渡っている。既存の審議会等で具体的議論が進みつつある論点と、労働関連法令を中心にまだ具体的な議論に至っていない論点がある。
 働き方改革関連法においては、医師の時間外労働時間の取扱いについて別途定めるとしているが、労働関連法令全般において、医師の働き方の実態に合っているのか見直す必要がある。
 さらに、多種多様である医師の働き方を一律に同じ法令で規制するのではなく、一定の標準的なルールの下で、多種多様な働き方を各医療機関が主体的に決めることができる仕組みが求められている。
 医師の働き方改革を進めていく場合、救急医療体制を始めとする医療提供体制の在り方、増大する診療報酬事務に求められる要件の見直しといった根本的な課題もある。これらは、別途協議することとし、本検討会議では、勤務医の働き方について、主に労働関連法令についての重点分野を洗い出すこととした。
 そして、法令に合わせた制度という発想ではなく、具体性や実効性があり、「プロフェッショナルオートノミー」(専門家による自律性)に基づく、医師に合った制度自体をまず検討するという発想で議論を進め、重点分野の在り方や今後の進め方について提言を取りまとめた。

○今後の医師の健康管理について
 医師の健康管理には、労働時間管理、健康診断だけでなく「包括的な」管理が不可欠である。

【包括的な健康管理の方向性】

1.役割分担の明確化
   労働安全衛生法で規定されている、事業者における勤務医の健康管理に対する責任について、①病院長、②施設長・診療科長等、③産業医、といった役職ごとの役割をより明確化する必要がある。
2.多面的な健康確保策
   仕事の要求度・負担度、業務効率性、やりがい、自己研鑽等、医師の心身に影響を与える多様な事象を考慮した多面的な健康確保策が必要であり、その制度を構築する必要がある。
3.医師自身の健康管理
   労働安全衛生法第26条において、労働者には自己保健義務が課せられており、健康異常の申告や健康管理措置への協力が求められている。
   医師においては自己保健義務の意識と技能が不足しているという調査もある。勤務時間 管理も含めた自己保健義務の意識と技能を涵養する制度を構築する必要がある。
4.宿日直の健康への影響と管理
   宿日直特有の健康課題を踏まえ、何らかの方策を検討する必要がある。
5.在院時間管理の必要性
   医師における自己研鑽や宿日直の取扱いによっては、労働時間と在院時間に乖離が発生する。面接指導等の健康管理における在院時間の位置付けの検討が必要である。
6.衛生委員会の活用
1から4の取り組みを行う上で、既存の衛生委員会の場を活用し、「労働時間等設定改善委員会」を設置する必要がある。

○医師における時間外労働時間の上限について
(1)省令における上限時間~「医師の特別条項」と「医師の特別条項の『特例』」
 現状の医師の労働時間の分布状況、時間外労働時間規制を導入した場合の地域医療への影響等を考えると、一律の上限規制を設定すること自体が難しい。
 日本医師会「医師の働き方検討委員会」が都道府県医師会長を対象に実施したアンケート調査によると、医師の時間外労働時間の上限規制については、「目標・目安として、一律の上限規制 の設定が必要。ただし、変更の余地を残す」という意見が33件・71.7%を占めていた。
 こうした調査結果等を踏まえ、同委員会答申では長時間労働の歯止めとして「医師の特別条項」、特別条項で対応が困難な場合の「医師の特別条項の『特例』」という医師独自の制度を提言している。本検討会議においても、この考え方を踏襲することが妥当と考える。
 働き方改革関連法(平成30年6月29日成立)において、医師については時間外労働時間の上限を省令で定め、平成36年4月から施行するとされている。省令を定めるには、法定休日、勤務間インターバル、連続勤務時間、自己研鑽時間、宿日直業務の影響、タスクシフト等の取り組み等を詳細かつ精緻に分析する必要がある。
 「医師の特別条項の『特例』」は、こうした様々な要因の分析を踏まえて今後設定するべきである。
 まず、歯止めとして「医師の特別条項」の時間設定をすることが求められる。

「医師の特別条項」を適用する医師 「医師の特別条項の『特例』」を適用する医師
労働時間が過度に増加することを防ぐ「歯止め」として、省令で上限を規定する。 「医師の特別条項」を超えざるを得ない場合、「医師の特別条項の『特例』」で対応する。
この場合、第三者機関の承認を得ることとする。

これにより、医師の多様な働き方に一定程度柔軟な対応が可能となる。
【時間の目安】
脳・心臓疾患の労災認定基準(いわゆる過労死ライン)を基に時間を設定する。
【時間の目安】
 精神障害の労災認定基準、海外の働き方の事例等を手掛かりとし、上限時間を今後検討する。

【第三者機関の関与】詳細は後述

【研修医等の取扱い】

(2)実効性のある上限設定~休日、勤務間インターバル、連続勤務規定からのアプローチ
 一定の長時間労働是正の努力は当然不可欠であるが、「医師の特別条項」の範囲内に無理に収めようとするのではなく、まず、休日の確保、勤務間インターバル、連続勤務の抑制を優先とした取り組みについて議論することが望ましい。

【休日、勤務間インターバル、連続勤務時間規定の活用例】

〇各医療機関の実態に応じて設定する。
 ・休日は月〇日
 ・勤務間インターバルは最低△時間とする。
 ・ 基準となる連続勤務時間を□時間とする。基準時間を■時間超えた場合には、勤務間インターバルを☆時間確保する。
〇第三者機関が、各医療機関で決めたガイドラインの遵守状況を適宜チェック

(3)省令の上限時間設定に当たり注意を要する点
①「医師の特別条項」の課題
   歯止めとして「医師の特別条項」の時間が設定されると、各医療機関はその時間を念頭に様々な取り組みを進め、良い方向に向かうと期待される。
   ただし、「医師の特別条項」を過度に意識し、地域医療体制のバランスが崩れないよう細心の配慮が必要である。また、医師確保ができる地域とそうでない地域の間で勤務環境の格差が拡大する懸念がある。医師確保を急がせ、各医療機関が過度に費用をかけ経営体力に支障を及ぼすことのないようにする必要もあり、その意味では医師確保に関する施策を早急に講じる必要がある。
   また、長時間労働の是正を進むことで、産業医の取り組み、衛生委員会の取り組み、健康診断の実施といった健康管理の基本的事項がおろそかになってはならない。
   こうした副作用が起こらないよう、各都道府県の第三者機関には監視する役割も担ってもらう必要がある。
②「医師の特別条項の『特例』」の課題
   高い上限に設定した場合、地域医療への影響は少なくなる一方、長時間労働の是正の努力が医療界全体として進まなくなる恐れがある。また、医療機関が支払う賃金が経営を圧迫し、地域医療に支障を来たす恐れもある。
   上限が低すぎると、対応できない地域や医療機関が出てくる。
③段階的な是正と労働監督行政の理解
   以上を踏まえると、上限時間の設定には慎重を期すべきで、長時間労働の是正は拙速ではなく段階的に進めることが必要である。そのためには労働監督行政の理解を得る必要がある。

○第三者機関の設置
 多種多様な医師の働き方を一律に同じ法令で対応することは現実的ではない。標準的なルールの下で、各地域、各医療機関、各医師が自律的に働き方を決める仕組みが求められている。
 国の各種ガイドラインをもとに、各都道府県における目線合わせや各医療機関の個別相談等を担う第三者機関を設置し、多種多様な働き方に柔軟に対応する。
 第三者機関は、宿日直や医療勤務環境改善支援センター等、労務管理が関わる事項が医療法で規定されていることも踏まえ、医事法制で規定することが望ましい。

【第三者機関の方向性】(試案)

1.設置主体
   各都道府県の医療勤務環境改善支援センター、地域医療支援センター等を中心とした組織を構築する。その際、都道府県の地域医療対策協議会等、各種会議体との関係を整理する。

2.構成員
   病院団体、都道府県医師会、都道府県社会保険労務士会、都道府県衛生部局等

3.役割
   医療機関の勤務環境の改善支援、医師確保への支援、各医療機関における労働関連法令に関わる制度の総合的な相談、指導等を担う。
  例) 勤務間インターバル、連続勤務時間規定、「医師の特別条項」「医師の特別条項の『特例』」、自己研鑽、宿日直、院外オンコール待機等

4.労働監督行政との調整
   第三者機関において、労務管理について医療機関指導の役割を担うことも検討する。その際、労働監督行政との関係性の整理が必要となる。

まとめ~現行法令の枠に拘らない柔軟な議論を
 医師の働き方検討会議は、現行制度を当然踏まえつつも、「働き方を法令に合わせる」のでなく、「法令を働き方に合わせる」という発想で提言をまとめた。
 「医師の健康と地域医療を両立する」「多種多様な医師の働き方に柔軟に対応する」という観点で医師の働き方を考えた場合、現行法令の枠組みを過度に意識してしまうと、結局、法令に医師の働き方を合わせるような議論となり、医師の働き方にあった制度が構築できなくなる恐れもある。
 第1回の厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会」で、厚生労働大臣は「検討会では規制はかけるものの、特例の在り方について議論していただくことが目的だ。具体的な医師の勤務環境の改善策を推進することで医療の生産性を高めて、提供する医療の質を維持・向上しながら医師の働き方を改善していくことが重要だ」と発言している。
 地域医療体制の維持に過度に重きが置かれ、医師の健康を害する「特例」であってはならないのは言うまでもないが、医師の働き方は「特例の在り方」であるという原点を確認しておきたい。
 現行法令の枠内における「特例の在り方」だけでなく、必要であれば、その枠組みには必ずしも拘らない「特例の在り方」であっても良いはずである。
 医師の働き方の議論に関わっている関係者におかれては、より良い制度の構築、ひいてはより良い医療のため、柔軟な発想で検討を進めていただくよう、ご理解、ご協力を切にお願い申0し上げる次第である。

医師の働き方検討会議 構成員(14名)

岡留健一郎(日本病院会副会長)、猪口雄二(全日本病院協会会長)、馬場武彦(日本医療法人協会副会長)、長瀬輝諠(日本精神科病院協会副会長)、河北博文(東京都病院協会会長)、山本修一(全国医学部長病院長会議大学病院の医療に関する委員会委員長)、赤星昴己(東京女子医科大学東医療センター救急救命センター医師)、猪俣武範(順天堂大学医学部附属順天堂医院眼科医)、三島千明(青葉アーバンクリニック総合診療医)、明石勝也(日本私立医科大学協会業務執行理事)、山内英子(聖路加国際病院副院長)、今村聡(日本医師会副会長)、市川朝洋(愛知県医師会副会長)、松本吉郎(日本医師会常任理事)

 

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