全日病ニュース

専門攻医採用で診療科別都道府県のシーリング導入

【厚労省・医師専門研修部会】連携（地域研修）プログラムを組み込む

　医道審議会・医師分科会・医師専門研修部会（遠藤久夫部会長）は５月14日、日本専門医機構が示した2020年度の専攻医募集時の診療科別都道府県の上限設定（シーリング）案を了承した。外科、産婦人科、救急科、病理、臨床検査、総合診療を除く、13基本診療領域で、相対的に医師が多い都道府県にシーリングを設定する。東京都への一極集中が続く専門医研修における医師偏在を是正する狙いだ。
　現行のシーリングに診療科別の設定はない。専攻医数が群を抜いている東京都を始め、神奈川県、愛知県、大阪府、福岡県の５都府県に対して、採用数が過去５年間の実績を超えないとのシーリングを設けている。しかし、機構発足後、東京への専攻医集中は改善されず、むしろ加速している状況だ。
　また、今後の都道府県を中心とした医師偏在対策の基本となる、新たな医師偏在指標で算出した医師多数三次医療圏に、神奈川県や愛知県が含まれていないこともわかった。
　専門研修部会の議論では、現行のシーリングが不十分であるとの認識ですでに一致していた。ただ、診療科別のシーリングについては、将来的な課題との認識を機構は示していた。しかし、厚労省が労働時間で調整した現状の医師数と将来必要となる医師数を比較できる試算を示したことから、来年度の募集での検討課題として浮上した。
　機構も現行のシーリングの方法を当面続けるのは、エビデンスのあるデータがないためと説明していたので、厚労省が試算を示したことにより、来年度募集からの見直しを検討する方向に舵を切った。機構の寺本民生理事長は、４月の理事会で診療科別のシーリングを設けることで概ね了解を得たと報告。今回、具体案を示した。
　まず、シーリングの対象となる各都道府県の診療科は、労働時間で調整した足下の2016年の医師数が、「『同年の必要医師数』または『2024年の必要医師数』」以上である場合とする。例えば、東京の麻酔科の2016年医師数は1,320人で、同年の必要医師数1,094人をすでに上回っているため、シーリング対象となる。
　労働時間は、医師の働き方改革を踏まえ、すべての医師が年間960時間以上の時間外労働時間を超えて働かないという前提で、調整されている。現状では、多くの医師が960時間を超えて働いているので、必要医師数に満たなくても、医療の現場を回している。
　このため、相対的に労働時間が長い医師が少ない診療科ほど、シーリングの対象になりやすくなる。皮膚科や眼科、精神科が比較的、労働時間が短い。
　シーリング数については、従来の研修プログラムを減らし、シーリング対象外の都道府県において、研修期間の50％以上を満たす専門研修を実施する「連携（地域研修）プログラム」を一定数組み込む形とする。
　さらに、「連携（地域研修）プログラム」のうち、2016年の足下の医師充足率が８割を下回る医師不足が顕著な都道府県でのプログラムとして、（地域研修）プログラムに「都道府県限定分」を位置付ける。
　採用上限は、シーリング数が20人を超える場合は「2019年の採用数」とし、20人以下の場合は「過去２年の平均採用数と2019年の採用数のいずれか大きい方」とする。
　東京の内科の場合だと、通常のシーリング数が438人で、一定の計算により、連携（地域研修）プログラム数が87で、合計が525人になる。上限となる2019年採用数は515人であるので、連携（地域研修）プログラムのうち、「都道府県限定分」を10人減らし、77人とし、合計で515人とする。超過分を「都道府県限定分」で減らすのは、従来のプログラムを削減するのが、簡単ではないためで、激変緩和を避ける措置と考えられる。
　機構のシーリング案に対し、委員からは、「専攻医の側からすると、突然大きな縛りが生じることになる。十分な周知期間を設けて、理解を得る必要もある。しかし、事態は切迫しており、できるだけ早く医師偏在を改善する方策を講じる必要がある」などの意見が出た。そのほか、様々な意見が出たが、考え方に対し、概ね了承を得た。
　ただ、厚労省の推計に対し様々な疑問が示されたため、それらを踏まえ、改めて推計結果の精査が求められた。