全日病ニュース

全日病ニュース

ホーム全日病ニュース(2019年)第941回/2019年6月1日号技能実習生受入事業でベトナムからの受入れを準備 質の高い人...

技能実習生受入事業でベトナムからの受入れを準備
質の高い人材育成プログラムを目指す

技能実習生受入事業でベトナムからの受入れを準備
質の高い人材育成プログラムを目指す

【シリーズ●全日病の委員会】第5回 国際交流委員会 山本登委員長に聞く

 全日病の委員会を紹介するシリーズの第5回は、国際交流委員会の活動を紹介する。山本登委員長にベトナムからの技能実習生の受入れの取組みについて、これまでの経緯や外国人材を受け入れるに当たっての考え方や課題について聞いた。国際的な労働力需要増大の動きの中で、理想的な人材育成プログラムを目指していることを強調した。

新たなプロジェクトを検討
ベトナムに注目して調査

―技能実習生受入事業に取り組んだ経緯を教えてください。
 2013年に神奈川県の支部長と同時に常任理事に就任し、国際交流委員会の担当になりました。それまでの委員会の仕事はハワイ研修がメインでしたが、新しいプロジェクトを考えようということでアンケートをとって検討したところ、急速な高齢化に伴って介護人材が不足するので、東南アジアに目を向けようということになり、いろいろ調べて、ベトナムに的をしぼることにしました。ベトナムは仏教国であり、歴史的に日本との関係も深い。人口構成は40~ 50年前の日本と同じです。ワーキンググループをつくって最初は自費で渡航経費を出してベトナムの事情を調べ始めました。その結果、「これはいける」ということになって、委員会のプロジェクトとして提案し、理事会の承認を得て、技能実習生の受入れに向けて準備を進めてきました。
―外国人材受入れの枠組みはいくつかありますが、その中で技能実習生の制度を活用するわけですね。
 受入れの枠組みとしては、EPA(経済連携協定)と海外留学生制度、技能実習生の3つがあって、最近、特定技能が増えました。EPAでは、フィリピンやインドネシアから看護師や介護福祉士を受け入れていますが、経費はすべて受入側が負担し、人数も年に数百人の単位です。2025年には30 ~ 40万人の介護人材の不足が見込まれている中で、焼石に水であり、もっと規模の大きい仕組みが必要です。
 留学生の制度は、日本語学校や介護の専門学校に通って介護福祉士の資格取得を目指すものですが、評判はよくありません。生活費を稼ぐために週28時間の就労が認められていますが、それでは足りなくてアルバイトを増やし、十分な勉強ができなくなって失踪してしまうケースが相次いでいます。
 技能実習生もかつて評判が悪かったのですが、2017年の法改正によって改善しましたので、この枠組みであれば、一定の人数を確保できると考えました。
 技能実習は相手国への技能の移転を図り経済発展を担う人づくりを支援するもので、2017年の入管法改正で新たな在留資格「介護」が新設されました。日本人と同等以上の条件で就労し、勉強しながら働けます。

送り出し人数を制限
特定技能が制度化される

―現地の送出し機関とのやりとりなど具体的な準備をどう進めましたか。
 技能実習生を受け入れるために、全日病は監理団体の資格をとりました。それと併行して現地の送り出し機関との交渉を進め、現在、3つの送り出し機関と契約を結んでいます。
 ベトナムには、200社以上の送出し機関があって、全部認められるだろうと思っていたのですが、ベトナム政府が送出しの人数を制限するようになって、13社しか認めていません。そのうちの3機関と契約しているのですが、1つの機関が送出す実習生は年間数十人規模です。当面は少ない人数で始め、成功事例を積み重ねて増やしていきたいと考えています。
―ベトナム政府が人数を制限しているのはなぜですか。
 人材を送出すベトナム側と受入れる日本側の思惑の違いがあるということでしょう。ベトナム側からすると、日本語の勉強にあまり時間とお金をかけずに早く稼いで帰ってきてほしいと考えますが、日本側からすると日本語ができない人を介護の現場に入れられないということで、せめぎ合いをしている間にベトナム側が人数をしぼって条件闘争になってきた。日本としても条件を緩めざるを得ない状況になっています。
―特定技能の枠組みができたのもそのようなことが背景でしょうか。
 技能実習の枠組みでは需要を満たせないということで、財界の圧力が働いたのだと思います。介護分野については、技能実習から特定技能に移行する道筋を用意して、整合性をとることになります。

松竹梅の3コースを用意
特定技能で在留期間が延びる

―受入事業の詳細を教えてください。
 全日病の受入事業では、「松・竹・梅」と銘打って3つのコースを用意しています。
 「松」は高度人材育成を目指すコースで、ベトナムの医療短大看護学科3年卒でN3相当の日本語能力がある人を対象としています。「竹」は介護専門学校2年卒で日本語能力はN4相当。ミャンマーからの受入れ枠も設けています。「梅」は、特定技能の枠組みで受け入れるコースです。
 なお、日本語の能力試験にはN1からN5まで5段階があって、N1が一番高くて同時通訳レベルの能力です。N2であれば介護の専門学校に入れ、国家試験合格で介護福祉士の資格がとれます。一般的な技能実習制度では、N4で日本に来て、実習期間中に日本語を勉強して介護福祉士の資格を目指すことになります。
 技能実習制度は最低3年間、優秀であれば5年間、日本で実習することになります。また、特定技能制度ができたので、技能実習から特定技能に乗換えてさらに5年間滞在することもできるようになります。その間に日本語能力試験でN2までいけば介護福祉士の国家試験も合格するので、それによって在留資格「介護」を取得できます。滞在期間の制限がなくなり、家族の帯同も認められます。

今年暮れに第一弾の
実習生を受入れ

―ベトナムの送出し機関を訪問されていますが、印象はどうですか。
 これまでに10社以上を訪問しました。どこも日本語を1年間勉強するために全寮制で、1部屋に8人が2段ベッドで生活しています。一生懸命勉強していて、たいへん礼儀正しい学生たちです。
―今後のスケジュールを教えてください。
 当初の予定からすると、技能実習生の受入れは1年遅れていますが、今年の暮れには最初の技能実習生が来日することになります。
 最初の受入れ人数は20人程度になりそうですが、40人を超えると事業として採算がとれるようになります。現状では持ち出しになっていますが、来年には採算がとれる人数にもっていきたいと考えています。
 監理費は、実習生1人について4万5,000円程度で、これによって事務局員の人件費を賄うほか、受入れ機関に対する監査を行うことになります。受入れ人数が増えて採算がとれるようになれば、監理費の値下げも考えたいですね。なお、全日病は公益社団なので、会員以外から要望があった場合に断れないことになります。その場合は、監理費に差をつけるなどして対応することになるでしょう。

日本語の能力を重視
理想的なプログラムを用意

―技能実習制度で日本に来て介護技術を学び、実習の期間を終えると帰国することになるのですか。
 技能実習生はさまざまですが、看護学校を卒業した20代前半の女性の場合、実習期間を終えると結婚適齢期になります。ベトナムでは田舎ほど早く結婚するように言われるようで、実習が終わると結婚を意識してベトナムに帰る人もいるでしょう。
 私たちとしては、介護福祉士の資格をとって「介護」の在留資格を取得する道筋を示して募集しています。そのためには、受け入れの段階からN3以上の日本語能力がある人に来てほしいと言っていますが、そこが一番苦労しているところです。
 新しい技能実習の受入れ条件はN4で、日本にいる間にN3になればいいという考え方です。受入れ施設によっては、日本語能力はあまり重視せずに若い労働力にきてもらうことを優先に考えるところもあって、受入れのハードルは下がる方向です。そういう形の受入れが増えると、N3の日本語試験を目指して1年かけて勉強している人にとっては稼ぐチャンスを逃しているという思いにもなります。
 送出し機関も、金額の引上げを求めるところもあって、そのため最近は物価の安い地方の送出し機関と話をするようにしています。しかし、地方出身の実習生も日本に来て、より高い給与の施設があることを知ったら、移ってしまう可能性もあります。
 私たちとしては、本人のキャリアのためにも、理想的なプログラムを目指していますが、実習生としては目先の収入が大事であり、少しでも多く稼ぐことを重視する人もいるでしょう。
 全日病は、技能実習の監理団体として2,500の会員に対して公平な条件を設定しているので、フレキシブルな対応ができないという面もありますが、質の高い人材養成を目指したプログラムにしていきたいと考えています。
―全日病の受入事業としては、日本語の能力を重視しているわけですね。
 介護の現場では、読書きだけでなく聴解の能力も必要なので、日本語能力のN3を基本に考えています。なおかつ、日本に来る前に介護の勉強の中で日本語を取り入れてもらっています。介護の現場では、言葉が話せなくても身振り手振りで伝わるという見方もありますが、医療ニーズがある高齢者が増えている中で、チームでコミュニケーションがとれないと困ります。例えば、食事をしていない事が伝わらずにインシュリンを投与したら低血糖発作をおこすわけです。
―外国人材を受入れる病院にメッセージを。
 外国人を雇用するときの基本は、仲間として受入れることです。技能実習制度は、日本人と同等の処遇を条件としていますが、場合によっては日本人以上にコストがかかることも考えなければいけません。
 また、実習生が疎外感を持つことがないように、地域社会に溶け込んでもらうことも大切です。仲間として受け入れ、日本の文化や社会を好きになってもらう必要がある。心を開いて受入れる必要があります。
―ハワイの研修事業については、どのように考えていますか。
 職員の福利厚生に利用している病院もあり、毎年130人程度の参加があって定着しています。もう少し増やしたいとも思いますが、飛行機やホテルの定員もあり、最大で150人ほどでしょう。また、行先として北欧に行ってみたいという声もありますが、ハワイ研修は人気が高いのでこれは続けた上で、もう一か所、別の海外研修を考えてもいいと思います。
─お忙しいところ、ありがとうございました。

国際交流委員会(外国人材受入事業)・委員

委員長   山本 登
副委員長  須田 雅人
委員    中村 毅
委員    牟田 和男
委員    大田 泰正
委員    細川 吉博
委員    赤松 幹一郎
委員    二文字屋 修
委員    西谷 まり
担当副会長 織田 正道

 

全日病ニュース2019年6月1日号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
本コンテンツに関連するキーワードはこちら。
以下のキーワードをクリックすることで、全日病サイト内から関連する記事を検索することができます。