全日病ニュース

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ホーム全日病ニュース(2020年)第974回/2020年11月1日号医療・介護のデータ活用で個々の患者に応じたサービスを実現
ICTを活用した地域包括ケアシステム目指す

医療・介護のデータ活用で個々の患者に応じたサービスを実現
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社会医療法人宏潤会 大同病院シリーズ●先進的な病院広報活動の紹介――その⑤

 民間病院の広報活動を紹介するシリーズの第5回は、愛知県名古屋市の大同病院を取材した。高度急性期の医療を担いつつ、地域包括ケアシステムに取り組む同病院の広報戦略を宇野雄祐理事長に聞いた。情報システムのインフラが整備されれば、地域の医療・介護データを活用して、個々の患者が必要とするサービスを予測できるようになると宇野理事長は指摘。データを共有し、連携の仕組みをつくることが地域包括ケアシステム構築の課題だと強調する。

●地域包括ケアを病院のミッションに

 大同病院は、1939年に設立され、今年で81年を迎えた。高度急性期医療を追求し、命を救う医療を提供しているが、3年前に重点課題の一つに地域包括ケアシステムの構築を加えた。宇野理事長は、「病院の機能分化が進む中で、地域全体を考えないと、急性期病院としての役割が果たせなくなってきた」と、その理由を説明する。
 医療の質が求められる時代となり、病院は自らの医療機能を選択し、それに必要な設備・人員を備えて機能分化するようになった。機能分化をする以上、医療機関どうしが今まで以上に強く連携しないと治療がつながらない。さらに地域に安心を届けるには、病院だけでなく、診療所や介護施設を含めた医療・介護のネットワークを診療圏で構築することが求められる。
 宇野理事長には、こんな経験がある。
 「かつて病院を退院した患者を訪ねたことがあります。退院した時は嚥下の機能が落ちていて、特養ホームに入るのかなと思っていたのですが、2か月後にデイサービスに訪ねてみるとすごく元気になっていました。リハビリや介護サービスを受けたことで元気を取り戻していたのです。急性期病院の医者は患者が退院した後のことを肌感覚で理解できない部分があります。でも、患者が退院した後のことを含め、地域全体を視野に入れることで、自分たちが急性期で提供している医療の意味が分かります」と宇野理事長は述べ、地域での患者の生活を知ることの大切さを強調した。
 同病院では、地域包括ケアシステム構築を病院のミッションに位置付け、その実現に向けて広報戦略を展開している。
 例えば、他の医療機関との連携を強化するための広報活動として、地域の医療関係者を対象に病院の各診療科の医師による研修会を開いたり、外部から講師を招いて講演会を開催している。また、地域住民を対象として啓発活動として、地域のコミュニティセンターに出向いて市民公開講座を開いている。
 現在は、新型コロナの影響で会場に集まる形の開催は難しくなっているが、デジタルツールを活用した動画配信に切り替えて情報提供を行っている。
 「感染防止の必要があり、動画配信による情報提供は受入られやすくなっています。健康情報に加え、地域包括ケアに取り組む当院の考えを広報しています」というのは広報を担当する山口イズミ・マーケティング・コミュニケーション管理室長。
 コロナの状況で30年間発行していた広報誌「みんなのひろば」をこの4月からWEBに切り替え、記事や動画を配信することにした。介護サービスの受け方や終活に関する情報まで、幅広い話題を提供しながら、地域包括ケアに向けた情報発信をしている。
 こうした広報活動は、患者という集団を対象にしたマス・マーケティングだが、大同病院では、ワン・トゥ・ワンで個々の患者に対応したマーケティングツールを模索している。そんな取り組みの一つとして始めたのが、患者満足度調査の改革である。

●患者満足度調査をバージョンアップ

 サービスの質を維持する上で大切なのは、患者の目線で病院の活動を評価し、日々の診療活動にフィードバックすること。そのための手段として多くの医療現場で、患者満足度調査が使われている。しかし、患者満足度調査はマスに対するアプローチであり、そこから具体的な対策を導き出すことは難しい。そこで、大同病院はICTを活用して患者満足度調査をバージョンアップしようと考えた。そのために導入しようとしているのが、ネット・プロモーター・スコアである。
 ネット・プロモーター・スコアは、評価対象に対して0~ 10の11段階で回答を求め、顧客の満足度を評価する手法。6以下のスコアは改善が必要なレベルと判断される。
 外来の受付から診察、検査、投薬という一連の流れの中でいくつかの評価ポイントを設定し、何が患者の満足度に影響しているかを具体的に把握しようという試みだ。 患者はQR コードなどを使って、簡便な方法で評価を入力。その結果を集計することにより、改善のポイントが具体的に浮かび上がる仕組みだ。患者の声を聞く方法として院内の目安箱があるが、これをデジタル化するものといえる。
 ネット・プロモーター・スコアによる満足度調査は、まもなく導入の予定だ。サービスの質の向上にどのような効果をもたらすかが注目される。

●デジタル化時代の地域包括ケアシステム

 ネット・プロモーター・スコアを活用した満足度調査は、「個別マーケティングに向かうためのマイルストーン」(宇野理事長)だ。その先に展望するのはICTを活用した地域包括ケアの姿である。
 大同病院では、患者が安心を感じられるように、「おもてなしの心」を大切にしている。その意味は、「心のこもった接遇」ではなく、「行き先をあたたかく照らす」ことだと宇野理事長は説明する。
 「患者さんは、治療が始まる時に、その治療によってどのようなことが起こり得るのか、治療を受けた結果、どんな介護サービスが必要になるのか、不安を持っていると思います。そこで医療と介護のデータを活用し、その患者が必要とする治療やサービスを予測し示すことができれば安心につながるでしょう。ICTを活用してこうした仕組みをつくることは可能であり、そのことによって、患者主体の地域包括ケアに近づくことができるはずです」(宇野理事長)。
 患者の情報は、地域の病院や介護施設が持っている。ICT化が進めば、地域にある診療情報や介護の情報をつなげることができる時代がやってくるだろう。「そうなれば、患者の治療や介護のすべての流れがわかるようになる」と宇野理事長は予想する。
 そのことは、高度急性期を担う大同病院にとって大きな意味がある。急性期の病院では、目の前の患者のことはわかるし、転院した場合も診療情報のフィードバックがあるので次の病院までのことはわかる。しかし、その後は介護が必要になって自宅にいるのか、デイサービスに通っているのかわからない。
 「地域で患者の情報をつなげれば、我々が提供した急性期の治療がよかったのかということまで踏み込むことができます」と宇野理事長。
 情報インフラが整備されれば、治療歴や検査結果に加え、日々のバイタルデータや生活面の情報もわかるようになるだろう。そうしたデータがあれば、個々の患者にこれから何が起こり得るかを予想することができるようになる。
 「病気になって体が弱ってる時に心配なのは、この先どうなるかということ。どんな介護が必要になるのか、家族も心配だと思います。その人の状況によってどんな状態が想定されるか。そのために何をすればいいかがわかれば本人も家族も安心できるでしょう」(宇野理事長)。

●情報を活用した連携の仕組みをつくる

 政府はオンライン診療を恒久化する方針を決めたが、実現するには、通信環境を含めた条件整備が必要だ。情報インフラの整備が進めば、地域において医療と介護の情報を共有できる状況が遠からず実現するだろう。
 情報を活用して、実際のサービスを提供するのは地域の医療・介護の関係者である。「地域包括ケアの中で情報を活用する準備をどう進めるかが課題」と宇野理事長は指摘する。
 情報共有による連携の仕組みをつくる上で、キーパーソンとなるのはケアマネジャーであろう。ケアマネジャーが連携の要として動くためには情報を持つ必要がある。
 「ケアマネが何に困っているかというと、医療の情報がうまく伝わってこないことです。そこでICTを使ってケアマネと診療情報のやり取りを始めようと考えています」(同)。
 大同病院では、ID―linkを使って、他の病院と情報連携しているが、ID―linkの情報からケアマネが必要とするデータを抽出して、分かりやすく提供することを検討している。入院から退院までの間のいくつかの場面を選んで診療情報を提供し、ケアマネが足りないと思っている部分をサポートする考えだ。
 「人は情報がないと動けない。タイムリーに情報を提供することで、ケアマネが動きやすくなる試み」である。まずは、グループ内のケアマネジャーとディスカッションを重ね、必要な診療情報と提供のタイミングを探っていくという。
 ケアマネジャーが使いやすいツールができれば、他の法人を含め地域で普及していくだろう。有効なツールが実現すれば、ケアマネ全体のレベルアップにつながると期待できる。
 地域包括ケアシステムは、住民を含む地域の関係者の協力関係が前提となる。大同病院が地域包括ケアに取り組む姿勢と考え方を地域の関係者に理解してもらうことが必要であり、広報活動はそのための手段であると宇野理事長は強調した。

【病院の概要】所在地  愛知県名古屋市南区白水町9番地
病床数  一般394床、結核10床、計404床
開設者 社会医療法人 宏潤会
理事長 宇野 雄祐
病院長 野々垣 浩二
看護部長 都築 智美
診療科目
 内科、血液・化学療法内科、糖尿病・内分泌内科、脳神経内科、リウマチ科、呼吸器内科、循環器内科、消化器内科、腫瘍内科、腎臓内科、老年内科、内視鏡内科、人工透析内科、呼吸器・心臓血管外科、消化器外科、乳腺外科、小児科、小児科(新生児)、小児アレルギー科、小児外科、外科、脳神経外科、整形外科、放射線科、麻酔科、リハビリテーション科、放射線診断科、放射線治療科、眼科、耳鼻いんこう科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、精神科、緩和ケア内科、病理診断科、臨床検査科、救急科、歯科、歯科口腔外科

 

全日病ニュース2020年11月1日号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
  • [2] 全日病ニュース・紙面PDF(2018年10月1日号)

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2018/181001.pdf

    2018年10月1日 ... に、介護のサービス量の見込みが十分. にできていない府県が ... 次いだが、
    それには充実した人員体制. が必要になる。 ... 大同病院は、1939年に大同製鋼(
    現. 大同特殊鋼)の ... 介護分は、「介護施設等の整備に関. する事業」 ...

  • [3] Untitled - 全日本病院協会

    https://www.ajha.or.jp/about_us/50years/pdf/50years.pdf

    2011年3月31日 ... 第1章 私的病院大同団結を目指し出発 ……………………………17. 扉 裏 小澤会長
    ... 株)名鉄航空サービス、フランス国営航空会社 本会推 ... 一、デイスポーザブル
    医療材料の必要性を認め、これ ... モリアル病院 参加人員54名.

  • [4] 事 業 報 告 書 (別冊:東日本大震災関連)

    https://www.ajha.or.jp/about_us/plan/kessan_h22_2.pdf

    2011年5月30日 ... 人員内訳:医師 1 名、看護師 1 名、救急救命士 1 名、. 放射線技師 2 名、事務 1
    名 ... 82 大同病院 5 名. 人員内訳:医師 2 名、看護師 1 名、事務 1 名 ... 大島避難
    所へ同行。在宅訪. 問する。ディサービスの施設は津波で流され使.

  • [5] 全日病ニュース・紙面PDF(2015年7月1日号)

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2015/150701.pdf

    2015年7月1日 ... 療区分1の患者の70%)は、2025年には介護施設や高. 齢者住宅をはじめとする ...
    分化した病床機能にふわさしい設備人員体制を患者の状態像に応じて定める必要.
    (4面から続く) ... 愛知県 大同病院 更新. 大阪府 育和会記念 ...

  • [6] 2006年6月15日号

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2006/060615.pdf

    医療法療養病床人員基準も改正へ。 ... に拡大されないように配慮する、(2)高 じ
    る、③介護施設を含む地域ケア整備 と介護老人保健施設の各現行報酬のほ 療支援
    病院 ... 護保険移行準備病棟」の人員配置は、 医療区分の評価方法は基本的に4月
    ... 今回の診療報酬改訂は、小泉改革ることよりも、受審過程で病院職員であろう
    。 ... 事前登録と演題登録はともに徳島大同学会の登録事務局が窓口となる。

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