全日病ニュース

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ホーム全日病ニュース(2021年)第989回/2021年7月1日号2040年に向けて0歳から100歳まで
地域で暮らす人を支える大誠会グループの取り組み

2040年に向けて0歳から100歳まで
地域で暮らす人を支える大誠会グループの取り組み

2040年に向けて0歳から100歳まで
地域で暮らす人を支える大誠会グループの取り組み

シリーズ●民間病院が取り組む地域包括ケア④医療法人大誠会 理事長 田中志子

 地域包括ケアシステムを構築するには、雇用創出と結び付いた「まちづくり」の発想が欠かせません。群馬県沼田市で、専門性の高い認知症ケアを提供しながら、0歳から100歳まで、すべての人が支え合う地域づくりに取り組んでいる大誠会グループの田中志子先生に報告していただきました。

はじめに

 当グループがある群馬県沼田市は、県北部に広がる北毛地域の中心都市であり、古くから木材の集積地・市場町として栄えてきました。しかし近年は少子高齢化が進み、人口は約4万6,000人と、群馬県内12市中で最も人口の少ない市となっています。その沼田市において、「地域といっしょに。あなたのために。」を理念に、医療や介護はもとより、近年は商業や農業も含めた第三の事業の拡大を図り、事業展開しているのが大誠会グループです。
 沼田市は中山間過疎地域のため、地元で生まれた多くの子どもたちは、成人すると東京など都市部へ出ていってしまいます。地域で育った子どもたちが、都会で永住するのではなく、故郷に帰ってきて暮らせるような魅力のある場所にするためにはどうすればよいか。それを考えた時、働く場所や居場所、子育てがしやすく子どもが育ちやすいこと、お年寄りに優しく安心して過ごせるなど、さまざまな地域の課題が見えてきました。その考えにスタッフや地域の皆さんなど多くの方が共感してくださり、その過程でグループのコアとなる理念が、「まちづくり」に集約されていきました。それが結果的に、障がい者を含む子どもから高齢者までが住みやすいサービスを整えた当グループ独自の「地域包括ケアシステム」と言えるものとなっています。本稿では、私たちの歩んできた歴史を振り返りながら、大誠会グループ版「地域包括ケアシステム」の目指していくところを紹介します。

大誠会グループの概要 ~ 0歳から100歳まで地域に暮らす人を支える~

 当グループは、1976年、前理事長の内田好司(現顧問)が開業した19床の有床診療所が始まりです。開業から10年ほどは、地域に密着した診療所として医療を提供してきましたが、高齢化により患者のニーズが一般的な疾患から、認知症や介護ニーズへと変化していきました。このため1988年に移転・増床して99床とし、同時に高齢化する地域の患者たちのニーズに応えるため、介護老人保健施設「大誠苑」を開設しました。さらに2007年には、社会福祉法人久仁会を設立し、2009年には特別養護老人ホーム「くやはら」をオープンしました。以後、認知症対応型グループホーム「ゆうゆう・うちだ」、住宅型有料老人ホーム「ゆうハイム・くやはら」などの施設を開設し、事業を拡大してきました。
 そして、2017年に地域共生型施設「いきいき未来のもり」をオープンしました。いきいき未来のもりは、社会福祉法人久仁会の事業として開設した複合施設で、同じ建物内に、企業主導型保育事業による定員90名の「ひだまり保育園」、定員25名の「いきいきデイサービス」(共生型デイサービス)、学童クラブ「手をつなごう」、放課後等デイサービス(障がい児学童クラブ)、未就学障がい児の療育訓練の場である児童発達支援事業「ハートグリーン」の5事業が入っています。いきいき未来のもりは、0歳から100歳まで、子どもたちやお年寄りが交流を図り、互いに支え合える居場所作りを目指しており、このいきいき未来のもりは、当グループの取り組みの象徴的な施設となっています。

グループの根幹・内田病院の専門性の高い認知症ケア

 医療・介護・福祉、そして後述する第三の事業と、「まちづくり」をコアコンセプトに幅広く事業を展開する当グループですが、その基幹となるのが医療法人大誠会内田病院です。当院は一般病床49床(障害者病棟33床、地域包括ケア病棟16床)、回復期リハビリテーション病棟50床の合計99床を有し、内科・老年内科・小児科・肛門外科・外科・整形外科・消化器内科・循環器内科・呼吸器内科・皮膚科・リハビリテーション科・麻酔科・精神科といった診療科目を備えています。なかでも認知症ケアは、パーソンセンタードケアを基本とした、身体拘束ゼロ+脳活性化リハ5原則による「大誠会スタイル」を確立し、おかげさまで国内外から高い評価をいただいています。さらにこの手法を取り入れることでそれまで身体拘束を減らせなかった病院が身体拘束を減らせるようになるというような介入研究でも成果を出しています(日本医療研究開発機構(AMED)認知症研究開発事業「BPSDの解決につなげる各種評価法と、BPSDの包括的予防・治療指針の開発~笑顔で穏やかな生活を支えるポジティブケア」(代表:山口晴保;2017 ~ 2019年度; 課題番号:JP19dk0207033))。
 また、自治体と認知症の専門職が認知症が疑われる人・家族などを訪問し、適切な医療や介護を受けられるように支援を行う、初期集中支援という仕組みがありますが、当グループでは2008年からすでに医師が認知症の困難事例の自宅を訪問するという取り組みを始めていました。こうした認知症ケアに対する先駆的な取り組みが高く評価され、2010年9月1日、当院は群馬県から指定を受け、院内に認知症疾患医療センターを開設しています。保健医療、介護機関等と連携を図りながら、認知症疾患に関する鑑別診断のみならず、周辺症状と身体合併に対する急性期治療、専門医療相談、介護を含めた生活支援、家族支援などを包括的に実施しています。加えて地域保健医療や介護関係者への研修などを行うことにより、地域住民に対して認知症の患者への理解を図る役割も担っています。

地域共生型施設第2弾 ~SONATARUEの開設~

 「まちづくり」という当グループの理念の最先端の形を示しているのが、昨年11月22日にオープンした、障害のあるなしに関わらず0歳から100歳まであらゆる世代がごちゃまぜの交流でつながる地域共生型施設「SONATARUE(ソナタリュー)」です。
 この施設は、前述の「いきいき未来のもり」に次ぐ、当グループの地域共生型施設第2弾と位置付けています。各種遊具を備えた子供たちが遊べるアスレチック公園を中心に、敷地内には障がいのある人の住まいであり共同生活の場であるグループホーム「VivaVivo」、主に中・高等部の生徒を中心に就労支援事業と連携し就労に結びつくための支援を行う放課後等デイサービス「すてっぷ」、重度の障がいを持つ人がいきいきと過ごせるための日中活動の場と時間を創出する生活介護「Ken Ken club」、就労継続支援B型と移行支援事業の機能を持った就労支援事業所「みんなのジョブセンター」があります。
 しかも表向きは、地域の人々や観光客を対象とした本格的な商業施設である日帰り温泉やレストラン、カフェ&バー、筋トレのほか介護予防教室などの健康講座も定期的に開催するウェルネスジムとなっており、障がい者が働いていると聞かなければ障がい施設とは気づかない立て付けとなっています。たとえば、就労支援事業所「みんなのジョブセンター」を利用する障がい者が、SONATARUE内の温泉やレストラン、ウェルネスやショップで健常者と一緒に働き、そこに提供される野菜やにわとりの卵を障がいのある人たちが用意をする農業部門もあり、まさに、地域内外の人たちも0歳から100歳まで、健常者も障がい者もごちゃまぜになって触れ合える多世代交流タイプの地域共生施設となっています。
 これからの沼田市における「まちづくり」を考えると、医療と介護だけではない商業や農業といった若い人たちのための新たな雇用も創出し、生まれ育った故郷でいきいきと暮らし続けることを支えたいです。だからこそSONATARUEは、地域共生のための施設であることはもとより、商業施設としても安定した事業実現を目指しています。

30年後も若い人達が暮らせる「まちづくり」のために

 2040年に向けてさらに進む社会の少子高齢化の中で、当グループはどのようなビジョンと戦略で将来に向かうのか。グループとして、診療報酬と介護報酬に関わる領域については、自分たちができるベストパフォーマンスを尽くし、地域一番を目指していきます。しかし、そこだけには頼らない「第三の収入」としてSONATARUE の活動を始め、たとえコロナ禍が長引いたとしてもしっかりと収益を挙げられる手立てを模索していきます。そうすることで、さまざまな世代や職種の雇用の創出や暮らしの場をつくり、健康長寿を促進し、社会保障費を抑制し、若い人たちへの負担を減らしながら20年後、30年後もここで暮らしやすい「まちづくり」を実践していきたいと考えています。それが、当グループが目指していく「地域包括ケアシステム」の姿です。

 

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