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ホーム全日病ニュース(2021年)第991回/2021年8月1日号会員病院の意思決定支援を目的に報告書を刊行

会員病院の意思決定支援を目的に報告書を刊行

会員病院の意思決定支援を目的に報告書を刊行
―2021年版は2040年を展望し、『地域包括ヘルスケアシステム』を提言

シリーズ●全日病の委員会 病院のあり方委員会 委員長 徳田禎久

 「全日病の委員会」シリーズの第10回は、病院のあり方委員会の取組みを紹介します。徳田禎久委員長に、寄稿していただきました。

1998年の委員会設置以来9冊の報告書を刊行

 病院のあり方委員会では、質の高い効率的な医療提供体制等に関して、現実的で必要不可欠と考えられる内容の提言と全日病の活動方針を作成し、会員病院の意思決定を支援することを目的として、1998年以来、8冊の報告書を作成してきたが、このほど9冊目となる「病院のあり方に関する報告書2021年版」を刊行した。
 新しい報告書は、2040年を見据えて全日病はどう活動すべきか、各病院の対応はどうすべきかを検討しまとめたものである。
 ここでは病院のあり方委員会の20年の歩みをふり返るとともに、2021年版の提言内容を紹介することとしたい。
 表1に、報告書の概要一覧を示した。
 病院のあり方委員会の開設は、1998年6月当時の秀嶋宏会長の諮問により時限的に設置された「中小病院のあり方に関するプロジェクト委員会」にさかのぼる。
 当時、医療制度・医療保険制度の大きな見直しが始まったことに加え、介護保険の導入が決まり、「医療ビッグバン」が始まったことを認識するとともに、護送船団方式を維持することは限界にきており、会員自身の意識改革が必要となってきていた。
 病院が自らの判断に基づいて、将来のあり方を考え、目指す方向について意思決定をしなければならない時代となり、全日病の責務はその意思決定を支援することにあると考えた。
 あわせて、全日病の活動の方向性について提言する役割も担っているとの認識の下に、報告書が作成された。
 この過程で、時代に適合した理想的な医療提供体制を考え、会員病院が目指すべき医療について検討することが必要との共通認識に至り、「病院のあり方委員会」が発足した。
 本格的に活動を始めた病院のあり方委員会は、2000年、2002年、2004年と隔年で報告書をまとめた。これらの3冊の報告書では、会員病院向けに、病院はどうあるべきかについて基本的な方向性を示しつつ、標準的な治療を奨励するとともに、当時はほとんど語られることがなかった医療の質の向上をテーマに取り上げ、病院がどう取り組むべきかを示した。
 また、政策立案関係者向けに医療基本法制定の必要性を訴えるとともに、時代に適合する理想的な医療提供体制に関する提言を行った。その中で、地域一般病棟の理念を提唱し、それが今日の地域包括ケア病棟の導入へとつながっている。
 医療安全についても積極的に取り組み、厚生労働省の検討会に参加するとともに、医療安全に関する第三者機関の設置を提言した。
 2007年版報告書では、3回の報告書で提言した内容の推移、実現の有無を検証するとともに、2006年に成立した医療制度改革関連法について、我々が主張してきた内容との整合性を検討し、課題解決の考え方を示した。「医療・介護提供のあり方」について再考するとともに「終末期医療のあり方」を世に問うた。
 2011年版と2016年版の報告書では、高齢社会がピークに達する2025年の日本における医療介護提供のあり方を十分検討し想定される人口減少と高齢社会の進展、疾病構造の変化という確定的な社会構造変化を踏まえた現実的な議論こそが必要と捉えて、検討が加えられた。
 2011年版報告書では、2025年の将来予測を9つのテーマ(医療圏/医療・介護提供体制/医療従事者/医療費/診療・介護報酬/医療の質/病院における情報化の意義と業務革新/産業としての医療/医療基本法)について検討を行い、現実に近い予測と理想的なあり方について述べたが、2016年版報告書では、この内容に沿って、会員はどう考えるべきかという視点でまとめあげられた。
 その間、2008年には、病院団体として初めての一般国民に向けた、冊子「日本の医療・介護を考える」を発刊した。全日病の紹介とともに、日本の医療・介護の実態を示し、2006年成立した「医療制度改革関連法」により国民や医療提供者の我々も大いに影響を受けることを伝え、これらに対する全日病の取組みを知ってもらうのが目的であった。

2040年を見据えた考え方をとりまとめる

 2021年版は、前回の2015-2016年版の報告書から5年が経ち、政府の政策に変化がみられることを踏まえて検討に着手した。地域医療構想や地域包括ケアシステムの方向性が見えてきた中で、医療介護分野に関する政府の関心は2040年を見据えた社会保障改革に移ってきたが、今後、財政難の中で病院を取り巻く環境は一層厳しくなると予想されることから、全日病として2040年を意識した考え方をまとめる必要があると考えた。検討から1年が経過したところで、新型コロナウイルスの感染拡大により、医療介護体制の弱点が露呈することとなったが、それは将来おこるべき問題が明らかになったものと認識し、この教訓を踏まえた医療提供体制の改革案を提示することとした。
 報告書は、4章で構成されている。第1章では、20年前の報告書の実現内容をふり返った。第2章「想定される2040年の世界」では、人口・社会構造、経済・財政、環境問題、医療イノベーション、就業・住まい・経済力、政策(社会保障制度、社会保険制度、規制改革)の6項目について、将来予測を行った。第3章では、「2040年における理想的な医療介護提供体制」を実現するための提言を行い、第4章では、「会員へのメッセージ」をまとめた。

理想的な医療介護の提供体制を示す

 報告書の中心となる第3章から、提言内容を説明したい。
 これまで2025年を念頭に、地域医療構想や地域包括ケアシステムが進められてきたが、今回の報告書では、2040年を見据えて、『地域包括ヘルスケアシステム』を提言した。
 現在、医療・介護に関する行政の管轄区分は、医療では都道府県が二次医療圏別に行われている一方、介護では市町村が担っている。地域医療構想、地域包括ケアシステムの議論が不十分なのは、管轄の相違がそれらの整合性・連携への障害ともなっていると判断。このため、医療が中心となり、都道府県が主導するシステムとして再構築することを提言した。
 現在の二次医療圏は、日常の生活圏と乖離していることから、地域の主要な医療機関を中心とし、アクセス状況を踏まえた提供体制を考える。一定の生活圏の中で地域の特性に合致した医療・介護・高齢者の住まい・生活支援を一体的に検討する『地域包括ヘルスケアシステム』として再構築するという内容。医療介護を統括して行うことになれば、医療保険と介護保険の利用も同時に可能とすべきであり、各々の報酬改定の時期も統一すべきである。医療介護関連の政府調査も実施時期を同じくすべきであると主張した。
 『地域包括ヘルスケアシステム』では、医療・介護サービスと合わせて健康管理を重視し、一体となったシステムを目指している。全高齢者を対象として、医療提供者が行う諸検査に加え、身体機能・精神機能の客観的情報、介護や福祉の提供者からの日常生活に関する情報を集めた上で、これらの情報から介入条件を設定し、必要に応じて最適な支援が行われる体制とする。
 現在も様々な情報が集められているが、全国一律の情報となっていない。そこで、全高齢者を対象に65歳を契機に諸情報の提供を義務付けることとし、行政および医療介護提供者による定型的な調査票によって訪問情報を収集し、関係者限定の自動更新システムも導入する。半年毎に定期的なチェックを行い、一定条件以上の問題が発生した場合には支援者会議において対応を決めるというシステムである。
 地域医療構想、地域包括ケアシステムに、地域共生社会実現のための改正法の内容を含み、地域単位で医療機関を中心に、住民を守る体制に再構築することを目指すものである。都道府県は全体の統括を行い、その指導の下、市町村が具体的な行動計画を作成・実践するよう変革すべきと提言した。

国民皆健診制度の確立を目指す

 今回は、健康・疾病予防を大きく取り上げることとした。残念ながらわが国の健診制度はOECDでも低い評価でしかない。健診制度全体を見直し、特定健診と企業健診等の内容を統一して義務化する必要がある。がん・骨粗鬆症・歯周疾患・ストレスチェック等「心の健康」を含め、整合性のとれたシステムとして構築する。また、健診センターを中心とする現受診体制では、健診後のフォローが十分でないため、かかりつけ医となる診療所や中小病院がかかわる体制に改めることとし、これらによって、2040年には『国民皆健診制度』を確立させようと謳った。具体的な取り組みが理解できるよう、情報収集/整理/保管する専門部署の設置や、支援会議と支援者の規定、介入の条件、AI による経過評価・支援内容自動更新システムの導入についてコラムで示した。
 このほか、人口減少の程度が異なる都市部と地方における在宅医療と居宅介護の在り方は区別すべきこと、医師の需給に関しては、医師不足対策に関して増加し続ける女性医師の寄与度は少ない事や働き方改革による就業時間の変化などから、現在の医師養成計画の再考を迫るべきと訴えた。同時に、総合診療医の育成推進や、地域枠医師の十分な活躍の条件なども提示した。想定される医療・介護従事者不足に対する外国人の受入れに関しては、移民・難民に関しても検討すべきとした。高齢者の定義を75歳とすべきことや、社会保障財源不足については給付費の使用目的・優先順位の再検討を、混合診療にはさらなる検討の必要性がある事など、様々な課題を取り上げた。医療介護需要の変化に対応した官民協調体制構築が必要とし、確実な集約化・連携の実現推進のためには、業種間の垣根を超え一定の参入条件下での株式会社も含めた統合、資本共用可能な「地域医療・介護・福祉連携推進法人」設立も提言した。

診療報酬体系に関する提言

 診療報酬体系では、ほぼ過去の主張を踏襲。外来は、通常診療を「かかりつけ医」にて行い、病院外来は紹介制専門的診療とし、全日病の主張した救急・休日夜間対応・在宅医療も担う「かかりつけ機能」を果たすため地域の中小病院との連携を制度化した上で、「開放病床」の利用促進や契約病院での診療所医師の手術の仕組みなども提唱した。新患/ 救急は出来高(DPC 対象施設入院の場合救急部分を含む)、再診は、包括払い(疾患別対応 複合病変評価)、健康管理/健診並びに教育は保険者からの人頭払い(脳/心臓疾患・がん:早期発見システム導入)とした。
 入院は、原則前回報告書と同様で、高度急性期・急性期はDPCに基づく1入院当たり定額、急性期/回復期は状態別包括PDPS(1日定額払い)、リハビリは客観的FIM評価を加味した包括PDPS+具体的な長期支援計画に対する定額報酬、慢性期は状態別包括PDPS で、日額定額の修正や要介護患者の評価など、その後の変化への対応を加味したものである。
 長年の懸案である控除対象外消費税は廃止し、「原則課税」とすべきことをはじめて明記した。

会員へのメッセージ
地域の将来像と運営方針を確認

 第4章「会員へのメッセージ」では、地域の将来像を確認し、2040年の当該地域における医療介護提供の必要性と各施設の理念運営方針の整合性の確認、普遍的な組織運営の留意点と質管理の重要性を示した。情報技術の積極的活用による組織運営・診療体制の構築についてはコラム付きで詳細に書き込んだ。また、震災や新型コロナ感染症から学ぶBCP では、コラムで「COVID19 のもたらしたもの」を取り上げており、2040年を予測しながら、会員にはどう行動をとってもらいたいかをメッセージとして伝えた。最後に、「地域医療介護福祉連携推進法人」の認可に合わせ、地域特性を踏まえた医療機関間経営統合の必要性も示した。
 その他、2040年には「価値観の変革」が当たり前の時代となること、「テレワークを利用した業務改革」も必須となるとの予測から、いずれもコラムとして取り上げている。
 本報告書が会員にとって有益であること、全日病の今後の活動の基本として利用されることを願う次第である。

 

全日病ニュース2021年8月1日号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
  • [1] 病院のあり方に関する報告書(2021年版)

    https://www.ajha.or.jp/voice/pdf/arikata/2021_arikata.pdf

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