全日病ニュース

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看護職員処遇改善評価料を議論

看護職員処遇改善評価料を議論

【中医協・入院医療等分科会】医療従事者の賃金引上げには入院基本料の引上げを

 厚生労働省は10月12日の入院・外来医療等の調査・評価分科会(尾形裕也分科会長)に、看護職員処遇改善評価料の実績を報告した。委員からは、看護職員処遇改善評価料による処遇改善の実績が報告されたのは病院の3割にとどまるため、医療従事者の賃金引上げには入院基本料の引上げが必要との意見が出された。
 看護職員処遇改善評価料は、地域でコロナ医療など一定の役割を担う医療機関に勤務する看護職員を対象に、2022年10月以降の収入を3%程度(月額平均12,000円相当)引き上げるための処遇改善の仕組みとして2022年度診療報酬改定で新設された。
 実績報告を行ったのは、2023年9月30日時点で2,553施設。当初の一人あたり賃金改善目標額が12,000円/月(給与の3%相当額)であったのに対し、看護職員等(保健師、助産師、看護師及び准看護師)への賃金改善の実績(事業主負担相当額を除く)は11,388円/月だった(図表)。賃金改善額が12,000円/月未満だった医療機関のうち8割以上は、看護職員等以外の職員の処遇改善を実施していた。
 看護職員等の賃金改善額のうち、ベア等の割合は約88%であり、改善額の3分の2以上の要件を大幅に上回った。
 実績の報告書を提出した2,553施設のうち62%に当たる1,581施設は、看護職員処遇改善評価料を用いて看護職員等以外の職員へ処遇改善を実施していた。看護職員以外の職員への賃金改善の実績は、6,329円/月。
 2023年度の実態調査では、看護職員処遇改善評価料の施設基準を満たしているにもかかわらず届け出ていない施設に理由を聞いている。最も多い理由は「看護職員処遇改善評価料が継続される保証がなく、基本給または決まって毎月支払われる手当の引上げを行うことを躊躇するため」だった。
 日本医師会副会長として出席している全日病会長の猪口雄二委員は、看護職員処遇改善評価料の実績を報告している医療機関数が2,553施設で、病院の3割にとどまると指摘。「多くの医療機関の職員の賃上げを行うには厳しい。他の分野の多くの企業が3~4%の賃上げを行っている一方、現状のままでは医療機関の職員の賃上げができない。賃上げのための十分な原資をさまざまな方法で確保する方向を示してほしい」と要望した。
 全日病常任理事の津留英智委員は、「他の職種に看護職員処遇改善評価料と同じ仕組みで拡大するとしても、この仕組みでは限界がある。医療従事者の処遇改善には入院基本料の見直しが基本だ」と主張した。
 地域医療機能推進機構理事長の山本修一委員は、コロナ対応の一環として看護職員処遇改善評価料が新設されたことを説明。現在、診療側は職員全体の賃上げの原資を求めていることから、「看護職員処遇改善評価料とは分けて考えるべき」と主張した。とくに不足している病院薬剤師の処遇を改善できる診療報酬が重要との認識を示した。

紹介状なし患者4.3ポイント減
 厚労省は、紹介状なしで受診する場合の定額負担の実績を報告した。定額負担の徴収が義務付けられているのは特定機能病院及び200床以上の地域医療支援病院等。その金額は、2022年10月から2,000円増額された。2022年5月1日時点の調査で、病院が設定する定額負担の金額の平均は7,824円で中央値は7,700円。前年の平均値は5,817円、中央値は5,500円なので、いずれも2,000円程度の増額となっている。定額負担の徴収を義務付けられた医療機関の初診患者のうち紹介状を持たない患者の割合は、2022年5月の43.4%から2023年5月は39.1%となり、4.3ポイント減少した。
 津留委員は、「定額負担の金額は7,000円でよいと思うが、中央値が7,700円になっているので、医療機関が消費税10%分を載せて請求しなければいけないと誤解している可能性がある」と指摘した。これに対し厚労省、「事務連絡・疑義解釈で、『消費税を含めて、告示で定める金額(7,000円)以上の金額』を徴収することを示している。社会的に見て妥当な範囲で徴収してもらいたい」と述べた。

救急管理加算の性急な見直しに反対
 救急医療管理加算について厚労省は、2022年度のDPCデータで、救急医療管理加算の請求全体に占める救急医療管理加算1の割合で都道府県間のばらつきがあったことなどを報告した。
 猪口委員は、都道府県によるばらつきが大きいことの原因に、審査における査定のばらつきが影響しているとの見方を示した。「審査における査定により、加算1が請求できない都道府県があると聞いている。その他にもさまざまな原因があるため、もう少し調査を進めて細かく分析を行う必要がある。その前に性急に見直すのは避けるべきだ」と主張した。
 旭川赤十字病院院長の牧野憲一委員は、「都道府県格差を是正するには、請求の判断基準の明確化が必要だ。今後、判断基準を考える際には、一つの指標のみではなく、患者の疾患・病態を考慮した基準とするべきだ」と述べた。

病院の介護職への評価を
 厚労省は、看護職員と看護補助者の業務分担の状況も報告。備品搬送等の直接患者に関わらない業務は「看護補助者が主に担当」する割合が高いが、患者のADLや行動の見守り・付添や排泄に関する援助等、直接患者に提供されるケアは、「看護職員が主に担当」及び「看護職員と看護補助者との協働」する割合が高かった。業務分担の状況は、看護補助体制充実加算届出の有無で大きな変化がみられなかった。
 これについて猪口委員は、病院における介護職の必要性はすでに定着していると指摘。「医療機関においても介護職を評価していかなければ、今後の状況になかなか耐えられない」と訴えた。他の委員から、医療機関で介護職が勤務する場合に「看護補助者」と呼ばれる現状を問題視する意見が出され、「介護の専門家として働いてもらうべき」との意見も出された。
 他方、現在の介護の人材不足の状況下で、医療機関が介護の有資格者を確保するのは困難であるとの意見も出された。牧野委員は、「看護補助者の養成や看護師配置の見直しなど、従来の看護必要度とは異なる視点から配置の評価を検討する必要がある」と主張した。
 厚労省は、薬剤師の偏在の実態も報告した。「病院・薬局における薬剤師の業務量(需要)」と「薬剤師の労働時間(供給)」の推計値をもとに薬剤師の「偏在指標」を算出したところ、全国では病院の偏在指標は0.80、薬局は1.08となり、病院で薬剤師が不足している実態が明らかとなった。
 これについて猪口委員は、「薬剤師不足は病院で著しい。診療報酬による評価を上げていただきたい」と要望した。
 なお、同日の分科会に入院・外来医療等の調査・評価分科会におけるこれまでの検討結果のとりまとめ案が示された。9月14日の分科会に示された中間とりまとめの後に議論された障害者施設等入院基本料などの内容が追加されている。同日の意見も踏まえ、とりまとめは分科会長に一任された。今後、議論の場は中医協総会等に移る。

 

全日病ニュース2023年11月1日号 HTML版

 

 

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