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ホーム全日病ニュース(2023年)第1043回/2023年11月1日号急性期病棟における介護の位置づけで意見分かれる

急性期病棟における介護の位置づけで意見分かれる

急性期病棟における介護の位置づけで意見分かれる

【中医協・入院医療等分科会】急性期一般入院料1の看護必要度B項目の廃止をめぐっても賛否両論

 中医協の入院・外来医療等の調査・評価分科会(尾形裕也分科会長)は10月5日、2024年度診療報酬改定に向けて、「重症度、医療・看護必要度」(以下、看護必要度)の見直しをめぐり、議論を行った。看護・介護の必要性を評価しているB項目は、急性期医療の必要性を評価する指標としては、ふさわしくないのではないかとの論点に対し、賛否両論があった。また、急性期病棟における介護の業務をどう位置付け、看護と介護の役割を看護必要度においてどのように評価するかということでも意見が分かれた。

看護必要度が7対1削減の手段
 一般病棟用の看護必要度について、同日の分科会の資料では次のように説明されている。
 「医療機能の分化・連携を推進する観点から、医療ニーズに着目した急性期等の手厚い患者への対応を評価する基準として7対1入院基本料の算定要件に導入され、その後、医療資源投入量を反映する診療実績の指標のひとつとして、一般病棟入院基本料の施設基準として用いられることとなった。また、各項目については、急性期患者の特性をより評価可能な基準とするため、累次の改定において対応がなされた」。
 一般病棟入院基本料の施設基準を満たすため、医療機関は看護必要度の基準値を満たす必要がある。医療機関の機能分化、連携を推進するための有力な手段と見なされたため、その見直しをめぐっては、毎回中医協の議論の焦点となり、議論の終盤でも診療側と支払側の意見の溝は埋まらず、公益委員による公益裁定により、決着をつけてきた経緯がある。また、毎回見直しが行われるため、医療機関はその対応に追われている。
 2024年度改定でも看護必要度は見直しの方向にある。団塊世代が75歳以上となり、ADLが低下し要介護の高齢者救急が激増する見込みの中で、医療機関の機能分化、連携の必要性が高まっている。一方で、看護配置が7対1の急性期一般入院料1から他の入院料への移行は、一定程度実現したが、2022年度以降、逆に急性期一般入院料1が微増したという状況にある。
 全日病常任理事の津留英智委員は、この間の状況について、「2008年度改定が看護必要度見直しのバージョン1であったとしたら、2024年度改定はバージョン9になると言えるかもしれない。2022年度改定の見直し後、医療現場はどう変化したのか。急性期一般入院料1の病床が微増したが、新型コロナの影響だったのか。マクロな視点で見直しの影響が捉えられていない」と、全体を見渡す上での分析不足を指摘。その上で、「前回改定も7対1病棟を減らすことを目指したのだと思うが、では、どれだけ減らせばよいのかという疑問が浮かぶ」と述べ、急性期一般入院料1の削減ありきの目的で、B項目をはじめとした適正化を議論することに違和感を示した。

B項目は急性期にふさわしいか
 B項目では、「患者の状態」と「介助の実施」の組み合わせで患者の状況等を評価しており、7項目がある。「A項目2点以上かつB項目3点以上」などで入院患者は、看護必要度の基準を満たすことができる。今回の分析の結果は、B項目の適正化の方向を示唆している。
 具体的には、これまでの議論において、「B得点3点以上の割合は、急性期一般入院料1のうち平均在院日数の長い群や急性期一般入院料2及び4で高い傾向にあることを踏まえると、機能分化の推進や急性期一般入院料1における高度・専門的な医療を評価する観点からは、急性期一般入院料1においてはB項目以外の項目による評価を重視すべき」、「急性期の医療ニーズに着目した評価体系とする観点からは、7対1病棟の必要度基準においてB項目は適さないのではないか」などのデータを踏まえた意見に表れている。
 健康保険組合連合会参与の中野惠委員は、「3日間以上の期間入院した患者のうち入院初日にB得点が3点以上である割合は、特定機能病院入院基本料や急性期一般入院料1で低く、急性期一般入院料4・5や地域一般入院料において高い」などの分析結果を踏まえ、「急性期医療を評価する指標として妥当であるのか疑問。看護必要度の抜本的な見直しが必要かもしれないが、2024年度改定においては、急性期一般入院料1の指標としては、B項目は廃止するべきではないか」と主張した。
 一方、地域医療機能推進機構理事長の山本修一委員は、「看護必要度は、病棟全体で入院患者に対して、どれだけの人的投入を行っているのかを評価する指標となっている。全体として考えれば、今のやり方は間違っていない。高齢者救急が急性期病棟で増えているのも、医療技術の進歩で、昔であれば難しかった高齢者に対する手術も侵襲性を少なくして、安全にできるようになったという側面がある」と指摘した。
 津留委員も、今回のデータで、B項目を廃止すると判断するのは妥当ではないとの見方を示した。
 日本医師会副会長として出席している全日病会長の猪口雄二委員は、急性期一般入院料4などでB項目の得点が高いことに着目。「医療的な視点で介助を提供する看護の役割が大事であるのは言うまでもないが、これだけ病状が一定程度安定した要介護の高齢者の入院が増えている中では、看護とは別に介護の業務を評価することが必要になる。そう考えると、B項目は介護の項目と考えることもでき、病院にこれだけ看護補助者が集まらない状況をみても、急性期や回復期、慢性期にわたって、介護の業務をきちんと位置付け、介護福祉士や資格を取ろうとしている人にも、病院に来てもらえるようにすることが求められている」と述べ、B項目の位置づけの見直しを求めた。
 名古屋大学医学部附属病院卒後臨床研修・キャリア形成支援センター教授の秋山智弥委員は、「看護の専門性と介護の専門性は異なり、それぞれの専門性が発揮される場所に専門職が配置されるべき。入院医療の場は看護の専門性が発揮される場で、介護の専門性が働く余地は少ない。介護の専門性がより必要な患者の状態であるのなら、まずは在宅や介護施設に早期退院させることを考えないといけない。要介護の高齢者にどこまで急性期の濃厚な治療を提供すべきかという医療機関の入口・出口の問題もある。B項目については、24時間の継続的な医療ニーズに応えることのできる看護の専門性を評価する項目として、ブラッシュアップしていく必要がある」と述べた。

高齢者救急における役割分担
 増加する高齢者救急をめぐり、第8次医療計画で整理が行われた救急医療提供体制の医療機関の役割分担について、猪口委員がその実現に向けた期待を示した。
 猪口委員は、救命救急センターなど第三次救急医療機関が、多くの軽症・中等症の高齢患者を受け入れている状況に対し、このままでは第三次救急医療機関が重症者の受入れに支障をきたす恐れがあり、第二次救急医療機関が中心になって、高齢者の軽症・中等症患者に対応していく必要があるとの第8次医療計画での整理を説明。その上で、第三次救急医療機関への搬送は、高度な医療が必要な患者に限定されることになるが、その場合に、患者をどこに搬送するかの判断において、日常的な状況や初期の的確な診断に応じて、搬送先が適切に選ばれることの重要性を強調した。
 また、診療情報・指標等作業グループからの最終報告では、B項目以外では、以下のような意見を追加している。
 「急性期医療における重点的な医療・看護を評価する観点及び早期の経口摂取開始の取組を推進する観点から、『注射薬剤3種類以上の管理』の対象薬剤や上限日数とともに、初期を重点的に評価することについて検討すべきではないか」、「評価負担の軽減や評価基準の平準化のため、『呼吸ケア』や『創傷処置』の項目については、評価基準を必要度Ⅱに統一すべきではないか」、「急性期医療における適切なケアを評価する観点から、『創傷処置』に該当する診療行為から、重度褥瘡処置の実施は削除すべきではないか」など。
 このようにA項目の適正化の意見が示されている。

 

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    加えて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で明らかとなった医療・介護分野に. おける諸課題は、国や各自治体、提供体制側それぞれにあり方の再考を迫るものである。

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