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ホーム全日病ニュース第802回/2013年6月1日号新型インフルエンザ等対策ガイドライン...

特定接種対象となる登録事業者はBCP策定が条件

▲有識者会議に臨む永井理事(左端)

「新型インフルエンザ等対策ガイドライン案」-有識者会議(5月14日)の報告
特定接種対象となる登録事業者はBCP策定が条件

BCPのモデル案を全日病HPに掲載。各病院の活用を期待

新型インフルエンザ等対策有識者会議委員・全日病理事 永井庸次

 

 政府は、5月14日の新型インフルエンザ等対策有識者会議に「新型インフルエンザ等対策ガイドライン案」を示し、有識者会議は、一部表現の修正を付して同案を了承した。ガイドライン案は内閣府によって、5月17日にパブリックコメントにかけられた。締め切りは6月15日である。
 有識者会議は、4月16日に「新型インフルエンザ等対策政府行動計画案」を議論の上、了承している。政府行動計画案は4月18日付でパブコメにかけられ、5月17日まで意見を受けつけた。その後、政府によって最終決定されることになる。
 新型インフルエンザ等対策は、特別措置法が制定され、政府行動計画が策定され、そして、今回のガイドラインにいたった。国の行動計画は、秋口にも、都道府県の手で具体化されることになる。したがって、我々医療機関も、秋口までに、必要な対策を講じることが求められる。
 ガイドライン案は、「水際対策に関するガイドライン」「まん延に関するガイドライン」など10の領域からなる。このうち、サーベイランスと予防接種に関する2つのガイドラインは、今回、新たにつくられたものだ。
 医療機関として重視されなければならないのは、「医療体制に関するガイドライン」と「事業者・職場における新型インフルエンザ等対策ガイドライン」である。とくに、後者では事業継続計画(BCP)の策定を求めており、各病院は詳しく読み込んでいただきたい。
 「まん延防止に関するガイドライン」には「濃厚接触者対策」が示されている。
 これに関しては有識者会議でも議論があり、委員からは「濃厚接触者は基本的には地域発生早期にしか分からないのに、後になって濃厚接触者対策を云々するというのはおかしくないか」との疑義が示され、事務局(内閣官房新型インフルエンザ等対策室)は表現の修正の必要を認めた。
 「医療体制に関するガイドライン」では、「未発生期」に、都道府県等は「2次医療圏等を単位とし、保健所を中心とし、医師会、医療機関等と対策会議を設置し、医療体制の整備を推進する」と、医療機関等は「診療継続計画、帰国者・接触者外来の整備、入院病床の確保等の体制整備を行なう」とされている。
 「地域感染期」には一般の医療機関でまかなうことが求められるため、「軽症者は在宅療養、重症者は入院治療」という対応をとることになる。それでも収容能力を超えた場合には病診連携や病病連携によって分担し合う、さらには臨時の医療施設を設置していく。病原性が非常に高い場合など都道府県知事による通常の協力依頼のみでは医療の確保ができないような場合や、この臨時施設の設置の場合のような医療提供時には、医療関係者に対する都道府県知事の要請、指示がなされ、その時には補償等がなされることになる。
 「事業者・職場のガイドライン」には、業務計画とBCP策定・実施の留意点がまとめられている。特措法第3条に基づく「指定(地方)公共機関」には新型インフルエンザ等対策に関する業務計画を作成する責務があるが、特措法第28条に基づいて特定接種が実施される「登録事業者」も、発生時の事業継続を確実にするためにBCPを策定、その一部を登録時に提出する必要がある。各医療機関は登録事業者に登録されていないと特定接種を受けることができない。
 したがって、指定公共機関に指定されている全日病は事業計画を作成しなければならないが、会員病院も、特定接種の対象となる登録事業者になる場合には、BCPの策定が求められる。BCPの内容は別表を参照されたい。
 私は、有識者会議の打ち合わせの際に事務局にいくつかの質問を行ない、回答を得た。その1つが「予防投与」と「事前処方」の違いである。
 インフルエンザ等の発生(が予想される)国に入国するケースは、副作用やウイルス耐性化を避ける、さらには抗ウイルス薬の効率的使用という見地から「予防投与」の対象とならないが、事前に医師の処方を受けた上で海外にタミフル等を持参して服薬する「事前処方」は問題ないということであった。
 各病院がBCPを策定する際に、感染期に備えて一定病床をどう確保していくかという問題に直面するが、その際、空床補償がなされれば対応が容易となる。こうした病院側の意見に対しては、「ガイドラインではそこまでの空床確保は求めてなく、入院可能な病床のチェック、患者が増えてきた場合に軽症患者に自宅療養を求めること等を記している。空床補償は現時点では想定していない」という見解であった。
 BCPに関連して、BCPの最新の国際マネジメントシステム規格であるISO22301は演習の実施を求めているため、非常時に大変有効である。こうしたISOに言及しないことの理由を質したところ、「そこまでの推奨はできないが、ガイドライン巻末の参考資料に記載できないか検討したい」との回答を得た。
 また、登録事業者のBCPに関して助言を求めたところ、「登録事業者が登録する際に提出が求められる事項については、登録の際の要綱にその具体的な項目が記載されると思われるが、内容的には、このガイドラインの内容が想定される」ということであった。
 BCPに関しては、厚生労働省が、労働科学研究所の吉川所長に科研費による研究を委託し、「新型インフルエンザ等発生時における診療継続計画(案)」を作成してもらっている。
 BCPの雛形は、無床診療所向け、中小規模病院(300床未満)、大規模病院の3つからなると予想されるが、私の手元には前2者しかない。いずれも、自院診療業務の特徴や各地域行動計画下の自院役割に応じて修正した上で、策定することが可能だ。
 この「診療継続計画(案)」は全日病のホームページに掲載してあるので、会員病院に限らず、各医療機関は自由に活用いただきたい。

新型インフルエンザ対策ガイドライン案の構成と概要(抜粋)

1. サーベイランスに関するガイドライン  略

2. 情報提供・共有(リスクコミュニケーション)に関するガイドライン  略

3. 水際対策に関するガイドライン  略

4. まん延防止に関するガイドライン

◎患者対策
・地域発生早期には、感染症法に基づく対策(入院措置等)を、地域感染期には、感染症法に基づく措置は実施しないが、患者には感染力が無くなるまで外出しないよう求める。

◎濃厚接触者対策
・地域発生早期には、感染症法に基づく対策(健康観察、外出自粛の要請、抗インフルエンザウイルス薬の予防投与等)を実施。
◎地域対策及び職場対策
地域対策/
・国民に対し、マスク着用・咳エチケット・手洗い・うがい、人混みを避ける等の基本的な感染対策を実践するよう促す。
・新型インフルエンザ等緊急事態においては、国の基本的対処方針に従い、都道府県は、必要に応じ、不要不急の外出自粛要請や施設の使用制限の要請等を実施(期間・区域の目安を記載)。
職場対策/   略

5. 予防接種に関するガイドライン
・特措法に基づき、医療の提供並びに国民生活及び国民経済の安定を確保するため、政府対策本部長が必要があると認めた時にガイドラインに定める業務に従事する者に特定接種を実施する。未発生期に特定接種の対象事業者を登録、接種体制を整備し、発生時に実施する。
・特措法及び予防接種法に基づき、市町村を実施主体として、住民に対する集団的予防接種の接種体制を整備し、発生時に実施する。等

6. 医療体制に関するガイドライン

◎未発生期
・都道府県においては、保健所を設置する市及び特別区が管轄する地域を含め、二次医療圏等の圏域ごとの医療体制の整備状況を随時フォローアップするとともに、必要な助言、調整を行える体制を整備する。
・都道府県等は、2次医療圏等を単位とし、保健所を中心とし、医師会、医療機関等と対策会議を設置し、医療体制の整備を推進・医療機関等における体制整備(診療継続計画、帰国者・接触者外来の整備、入院病床の確保等)

◎海外発生期
・地域発生早期・帰国者・接触者外来、帰国者・接触者相談センターの設置・PCR等による検査体制の整備及び運営・感染症指定医療機関等への入院措置の実施

◎地域感染期
・一般の医療機関における診療(軽症者は在宅療養、重症者は入院治療)
・医療機関の収容能力を超えた場合の対応(病診連携・病病連携、臨時の医療施設の設置の検討)
・都道府県知事の医療関係者に対する要請・補償等・電話再診患者のファクシミリ等による処方

◎小康期
・対策を段階的に縮小・対策の評価及び第2波に対する対策

7. 抗インフルエンザウイルス薬に関するガイドライン【投与】

◎治療方針
・治療薬の選択や治療方針に関する専門的な知見を情報提供する。

◎予防投与の対象者
 新型インフルエンザウイルスの曝露を受けた次の者に対しては、海外発生期及び地域発生早期には予防投与の対象とする
・患者の同居者(地域感染期以降は予防投与の効果等を評価し決定)
・濃厚接触者
・医療従事者等
・水際対策関係者
・世界初発の場合の集中的医療提供対策が実施される地域の住民(有効性が期待される場合)

8. 事業者・職場における新型インフルエンザ対策ガイドライン【事業継続計画の策定】

●新型インフルエンザ等対策体制の検討・確立
●従業員に対する感染防止策の検討、実施・症状のある従業員の出勤停止、発症者の入室防止の方法の検討・実施・マスク着用・咳エチケット・手洗い・うがい、職場の清掃などの基本的な感染対策の推奨
●感染防止策を講じながら業務を継続する方策の検討・実施
・在宅勤務、時差出勤、出張・会議の中止
・職場の出入口や訪問者の立入場所における発熱チェック・入場制限
・重要業務への重点化
・人員計画立案、サプライチェーンの洗い出し等
・欠勤者が出た場合に備えた、代替要員の確保
●従業員に対する教育・訓練
・職場に「症状がある場合は、自宅療養する」という基本ルールを浸透させる
※指定(地方)公共機関は、新型インフルエンザ等対策に関する業務計画を作成する責務がある。特定接種の対象である登録事業者は、事業継続計画を登録時に提出する必要がある。

9. 個人、家庭及び地域における新型インフルエンザ等対策ガイドライン  略

10. 埋火葬の円滑な実施に関するガイドライン 略