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各論の検討を終了。7月初旬から報告素案を基にまとめの議論
各論の検討を終了。
7月初旬から報告素案を基にまとめの議論
【社会保障制度国民会議】
医療・介護は権丈委員が素案。都道府県が国保と医療体制改革の主役という方向か
社会保障制度国民会議は6月24日の第16回会議で個別の議論を終え、次回7月上旬の会合からは報告の素案を基にとりまとめに向けた最終的な議論に入ることを確認した。
素案の起草担当者に3人の委員を指名、起草委員はこれまでの議論を踏まえて報告の骨格を整理する。その後、8月初旬にかけて集中的な議論をもち、「期限である8月21日にゆとりをもった日程で報告書をまとめる」(清家国民会議会長=慶應義塾長)方針だ。
起草作業は医療・介護、年金、少子化対策の3分野に分かれて行なわれ、医療・介護は権丈委員(慶大教授)が担当する。
会議後の記者会見で、清家会長は「国保の運営を都道府県に委ね、併せて医療提供体制の改革に責任を持ってもらうという方向は国民会議で合意済みである」と述べたが、医療・介護にかかわる制度改革の主役に都道府県を指名し、保険医療機関の取り消し処分を含めた権限を委ねる一方で、地域医療ビジョンを組み込んだ医療計画を介して病院病床の機能分化を担わせ、一体改革の2025年シナリオにそった病床の再編を進めるという方向が打ち出されるのは必至だ。
同日の国民会議に、厚生労働省は、前日6月20日に開いた社保審医療部会の議論を整理したとする文書を提出した。しかし医療部会に「国民会議の議論の整理」(4月22日)が報告されたのは事実だが、実質的な議論はしていない。文書は、医療部会事務局の医政局総務課の裁量でまとめられたものである。
冒頭に「医療部会の意見を集約したものではない」との断り書きを入れているが、これによって国民会議は、手続き的には社保審の意見を“勘案”したことになる。
「厚労省の各種審議会には利害関係関係者が多く入っているが、国民会議には団体の利害を代表する者はいない。そういう団体の立場から議論をしていてもうまくいかないことを認識すべきである」(宮武委員=目白大学大学院客員教授)という発言が出たように、現場の実態と意見に耳を傾けるという姿勢は国民会議には乏しい。
その国民会議と、その議論を先取りした医療法等改正に対して、全国知事会から強いクレームが出ている。
6月20日の医療部会で荒井委員(奈良県知事)は、地域医療ビジョン策定など「厚労省の医療法等改正案にある考え方は知事会との協議を踏まえたものではない。また、国民会議の議論も知事会と十分な協議なく行なわれている」と遺憾の意を表わしたが、この日の国民会議には全国知事会が医療法等改正案に強い疑義を示した声明(6月20日)が提出された。
その中で、全国知事会は、国民会議の報告に盛り込まれる内容を先取りしている第6次医療法改正は「都道府県と十分な議論が行われたとは言い難い」とし、そこには「都道府県の組織のあり方にまで国が関与しようとする内容が含まれているが、このような関与は都道府県の自主性を損なうものであり、不適当である」と論難。「都道府県の同意なく法案提出等を行うことがないよう求める」として、改正法案の提出に強く反対している。
これは医療法等改正の内容に対する抗議であるが、同時に、その背景にある国民会議の議論内容に対する強い批判ともなっている。
この日の国民会議で、増田委員(野村総研顧問)は「機能分化の推進に関しては都道府県との調整ができていないのではないか。拙速を避け、国と都道府県の間で意味のある話し合いをしてほしい」と指摘したが、国保の運営責任を都道府県に委ねるという利害問題があるにもかかわらず両者間の協議は実現されてなく、一体改革を進める上で、都道府県の同意をどうとりつけるかがきわめて重要な問題になりつつある。
では、国民会議の間に意見の違いはないのか。この日の記者会見では、国保の都道府県化について、清家会長と遠藤会長代理(学習院大学経済学部長)との間に認識の微妙な違いがうかがわれるひとコマがあった(会見要旨を参照)が、例えば、両委員の間に、都道府県化に積極的あるいは慎重という見解の相違があることは明白だ。
事務局が同日提出した資料では、「さらに議論すべき事項」に30数テーマがあげられたが、そのうち「これまで比較的ご発言があったもの」は6割近くにとどまる。事務局の認識でも、4割以上の項目は十分に議論されていないというわけである。
現に、遠藤会長代理は、会見後の囲み取材で「高額療養費や高齢者医療の問題はほとんど議論されていない」ことを認めた。つまり、議論しやすい大きな制度改革の枠組みはある程度論じられたが、保険者の財政構造や給付と負担のあり方など、公的保険制度の持続可能性を問う玄人向けの地味な議論は回避されているのが国民会議の現状である。
とくに、介護保険制度の見直しや地域包括ケアを推進していく方向性にいたってはほとんど俎上にのぼらず、むしろ、委員からは「地域包括ケアの実像が分からない」など、各地の介護保険関係者からみれば不信をかこつ発言が出ている有様である。
全国知事会は、医療法等改正について、声明で「秋の臨時国会での法案提出ありき(中略)で議論を進めようというのは、いささか拙速であると言わざるを得ない」と批判したが、同じことは国民会議にも言えそうだ。
国民会議後の記者会見の内容(要旨) 6月24日
清家会長 今後の進め方であるが、報告書のたたき台をつくる委員を選出した。医療・介護は権丈委員、年金は山崎委員(神奈川県立保健福祉大学名誉教授)、少子化対策は大日向委員(恵泉女学園大学大学院教授)である。ほかに、制度横断的なものは遠藤委員に、また、地域に詳しい増田委員にも協力をお願いすることになる。
素案は基本的にはこれまでの議論に出てきた意見をベースに、報告書の骨格をまとめる。まったく出ていない考えを盛り込むことはない。起草を各領域1人にお願いしたのは、その方が効率的だからだ。いずれにしても、その後の会議で必要な追記や修正がなされることだろう。報告書は最終的には私の責任でまとめることになる。
次回7月初旬の会議から素案にもとづいた取りまとめに向けた議論を行ない、7月中旬から8月初旬にかけて必要な会議を重ね、8月21日の期限よりは早い時点で報告をとりまとめたい。3党実務者会議の意見は合意がなったものは尊重するが、現時点で合意されたものはなく、したがって、その協議内容に縛られるものはないと判断している。
記者 起草委員の役割は素案までか。
清家 まずは素案までであるが、その後も、個々に相談することはあるだろう。
記者 国保の都道府県化に対する清家会長の認識をうかがいたい。
清家 財政面で広域化が求められている。医療提供体制の面でも都道府県は病床数を規制している。この両方を踏まえると、国保を都道府県化する点は(国民会議で)合意されていると考える。ただし、徴収や健康事業さらには地域包括ケアという面は市町村が主体となるべきだろう。こうした面で市町村のインセンティブを損なわないかたちで広域化していくべきかと考える。
遠藤会長代理 基本的にはその通りであるが、それをもって国保の都道府県化というべきかどうか、私には判断がつかない。保険者機能の一部を市町村に残すということではないか。
記者 それは都道府県が財政責任のみを負うということか。
清家 (保険者機能を)どこまで分かち合うかはこれからの議論だ。医療提供体制の改革は、やはり都道府県が責任を持ってやらないとならないだろうし、都道府県は単に財政のみで、他は市町村というものでもない。基本的には分権の流れの中で考えるということだ。
記者 医療については2人で担当してはという意見もあったが。
清家 素案づくりを2人というのはなかなか難しいだろう。まとめる対象はこれまでの議論であるし、素案を基にした議論が行なわれる。素案はあくまでもまとめの議論のたたき台であって、中間報告とは違う。