全日病ニュース
厚労省 各医療機能の必要量を地域医療ビジョンで定める
厚労省 各医療機能の必要量を地域医療ビジョンで定める
【第6次医療法改正】
地域医療の実態踏まえずにビジョンのGLを作成。官主導の機能分化の恐れも
6月20日の社会保障審議会医療部会に、事務局(厚労省医政局総務課)は、秋の臨時国会に提出する医療法を初めとする8法を一括した医療法等一部改正法案の概要を提示、検討を求めた。
第6次医療法改正の基底に流れるのは、社会保障制度改革国民会議がまとめる、一体改革に沿った病床機能と病床分布の再編である。したがって、今後の国民会議の議論によっては改正事項が増える可能性もある。総務課は、国民会議が報告をとりまとめた後の8月末以降に改正法案の要綱を示すとしている。
法改正のうち、「病床の機能分化・連携の推進」について、事務局は「医療機関による病棟単位の医療機能とその情報を都道府県に報告する制度」に関する議論の現状を報告。
その中で、2014年10月をめどに医療機関からの報告を始めるが、その前の14年度前半にはガイドライン(GL)の策定を終え、15年度後半には各都道府県で地域医療ビジョンが策定されていくという日程を明らかにした。
この日程は、昨年11月に示したのを国民会議の意見にしたがって1年前倒ししたもの。吉岡総務課長は、「当初は18年度からの医療計画にビジョンを組み込む考えであったが、今は、現行医療計画に挿し込んでいきたいと考えている」と説明した。
この前倒しによって、「各医療機関による報告→その内容を踏まえた地域医療ビジョンGLの作成→各都道府県におけるビジョンの策定」という工程が「地域医療ビジョンGLの作成→各医療機関による報告→ビジョンの策定」と逆転した(別掲の工程表新旧比較を参照)。
つまり、報告に示される各地域の医療提供の実態を分析することなく、予断をもってビジョンに盛り込む目標や指標等の設定方法などを規定するということになる。
このGLに関しては、ビジョンで策定するとされる医療機能別の病床必要量は何を根拠に算出するのか、それは基準病床数と同じ規制を担うのかなど疑問はつきない。
しかし、一体改革の2025年シナリオには機能別病床の推計値が示されている上、国民会議では、各都道府県が基金を活用して病棟・病床機能の再編を進めるべきという提言が出ているだけに、その方向性を示すビジョンをまとめる上で、その細部を規定するGLは決定的な役割を果たす。
GLが、地域の医療機能分布を医療ニーズの反映としてあるがままに受け止める視点で作られれば、ビジョンは各医療機関の現状把握を助け、将来目標を設定するチャートとなる。しかし、GLがビジョンを指針・計画と性格づけ、政策目標を実現していくツールに位置づければ、ビジョンとそれにもとづく機能分化は官主導のものとなる。
西澤委員(全日病会長)は、医療機関の報告内容がGLに反映されることがない工程に変ったことを指摘。
「報告内容を活かさずにGLを作るというのは、今までの議論と趣旨が違う。報告された内容を分析してGLを作り、その結果、各医療機関が目標とするビジョンが策定できる、そういう流れにしてもらいたい」と、見直しを求めた。
しかし、吉岡課長は「報告は来年秋にも開始する。それと並行してGLの策定を進める。その中で報告内容を反映できる」と工程をアレンジして説明し、問題はないとした。
医療部会で法改正に疑問の声。知事会は反対を表明
部会委員の意見は、多くは、病院病床の機能分化に向けた報告制度と地域医療ビジョンの問題に向けられた。その一方で、「病院の機能だけを考えるのは疑問。在宅は議論しなくてよいのか」「高齢化と少子化が急速に進む。在宅を含む日本全体の医療のあり方がこれでよいのか」と、在宅、介護との連携、終末期など医療提供体制の全体像がみえてこない医療法等改正に不満の声があがった。
医療法等改正には都道府県も反対している。全国理事会は6月20日の声明で、「厚労省の医療法等改正案にある考え方は知事会との協議を踏まえたものではない。また、国民会議の議論も知事会と十分な協議なく行なわれている」と抗議。この日の医療部会でも、荒井委員(奈良県知事)が「都道府県の同意なく法案提出等を行うことがないよう求める」と記された声明文を読み上げた。
医療法人のあり方で今秋、検討会を設置
医療法人に関しては、持分なしへの移行を企図する医療法人を都道府県が認定した上で相続税の納税猶予等の特例措置を図る案が示された。
吉岡課長は「14年度の税制改正で実現を図りたい」と述べたが、これ以外にも、附帯業務、営利法人への出資、合併や権利移転など、医療法人の経営自由度を広げる様々な提案が政府の諮問会議で出ている。
6月14日に閣議決定された骨太方針に「医療法人間の合併や権利の移転等に関する制度改正を検討する」と書き込まれた点について、梶尾指導課長は、「この指摘は国民会議における指摘にも通じるところであるが、医療法人の合併や経営統合とかが目的ということではなく、適切な医療提供体制を構築していく方法論の1つとしてこうした課題もあるのではないか」との認識を表明。「簡単な問題ではないので専門的に検討する場を設けたい」と述べた。
これに関連して、田中滋委員(慶大大学院教授)は、「医療法人を創設したのは、当時はそういう方法でしか医療経営は継続しなかったからだ。今はそういう時代ではない。非営利性ばかりが強調されるが、(医療法人の位置づけは)それだけでなく、公益性、社会的地位、貢献度といった上位目的の変化に合わせて21世紀にふさわしい医療法人のあり方を議論しなければならない」と述べ、時代のニーズに合わせた医療法人像を描くよう提案した。
医療部会の意見は国民会議に反映されるのか?
事務局は、社会保障制度改革国民会議が4月22日に公表した「議論の整理」のうちの、「医療・介護分野」に対する厚労省の見解を、同日の医療部会に示した。
医療計画の基準病床数を医療機能別に算定すべきという意見には、「各医療機能の将来の必要量(病床の総数を定める基準病床数とは別に設定)等を定める地域医療ビジョンを策定し、医療計画にこれを盛り込む」考えを示した。
保険医療機関の指定・取消など都道府県に新たな権限を付与する提案には、「都道府県の意見を踏まえながら、医療提供体制に係る都道府県の権限・役割のあり方について、さらに議論を深めていく」とした。
一方、医療法人制度の見直しに関しては、「医療法人の非営利性を担保すること、本来業務である病院等の経営に支障を来さないことなどを前提としつつ、医療機能の分化・連携の推進や医療法人の健全な経営が図られるよう、具体的な提案内容について検討を行なっていくべき」と記した。
事務局は、医療部会を夏までに数回開き、医療法等改正を旨とする報告のとりまとめを見込んでいる。その報告は、事務局方針に「国民会議の議論等を踏まえ」とあるとおり、国民会議がまとめる改革の方向を見据えたものとなることを事務局は期待している。
内閣に設置された国民会議がまとめる報告は社会保障制度改革推進法で定めた社会保障制度改革の基本方針案となる。まさに、今後10数年の制度改革を左右するものであり、それこそ社会保障審議会と緊密な意見交換が求められてしかるべきものだ。
この日の医療部会は総論的な意見表明に終始したが、事務局は、この日の医療部会に出た意見を国民会議に報告すると言明。「医療部会の意見」と題した、単に賛否の意見を羅列したに過ぎない文書は6月25日の国民会議に提出された(2面記事を参照)。
しかし、国民会議はすでに2巡目の議論を終え、大きな方向性を固めている。したがって、医療部会の意見は、国民会議が報告をとりまとめるに際して医療部会からも意見を聞いたとする証拠資料に使われる可能性が高い。
□医療法等の一部を改正する法律案(仮称)の概要
1. 病床の機能分化・連携の推進(医療法関係)
2. 在宅医療の推進(医療計画=医療法関係)
3. 特定機能病院承認の更新制の導入(医療法関係)
4. 医師確保対策(地域医療支援センター=仮称の設置)(医療法関係)
5. 看護職員確保対策(看護師復職支援のための届出制度)(看護師等確保促進法関係)
6. 医療機関における勤務環境の改善(医療法関係)
7. チーム医療の推進(特定行為に係る看護師の研修制度等)(保健師助産師看護師法関係、診療放射線技師法関係、歯科衛生士法関係)
8. 医療事故に係る調査の仕組み等の整備(医療法関係)
9. 臨床研究の推進(臨床研究中核病院=仮称の位置づけ)(医療法関係)
10. 外国医師等の臨床修練制度の見直し(外国医師等が行う臨床修練に係る医師法第17条等の特例等に関する法律関係)
11. 歯科技工士国家試験の見直し(歯科技工士法関係)
12. 持分なし医療法人への移行の促進(医療法等一部改正法関係)
※現段階の検討内容であり、社会保障制度改革国民会議の議論等を踏まえ、引き続き検討を行なう。