全日病ニュース

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医療専門各職 チーム医療関連要望事項の個別検討を開始

医療専門各職 チーム医療関連要望事項の個別検討を開始

【チーム医療推進方策検討WG】
グレーゾーンの明確化や業務範囲拡大など多岐にわたる問題が俎上に

 8月26日の厚生労働省「チーム医療推進方策検討ワーキンググループ」は、医療専門職の団体から出ている、チーム医療に関連した要望事項について、個別的な検討を開始した。  この日は、主に診療の補助、安全性、業務効率等の視点から要望内容を評価、要望ごとに「検討価値あり」と「なし」とに振り分けた。

 

 関係団体から出ている要望項目は全部で33件。この日は、そのうち16件(法改正で合意済みの2件を含む)におよぶ「法改正にかかわる事項」について検討した。
 日本薬剤師会の要望項目は「患家における薬物療法への関与の範囲」に関するもの。具体的には、①持参した薬剤の処方にそった数量調整を患家で行なうこと(計数調剤)、②疑義照会の結果、計数調剤した薬剤の投与量を変更すること(計数変更)、③患者からの求めに応じて、処方医同意の上、調剤した薬剤等の使い方などの実技指導を行なうことを、それぞれ薬剤師の業務として明確化すべきという提案である。
 このうち、①と②は深夜の往診等で処方箋が薬局に届かず患家にある場合を想定しているが、そうしたケースは稀であることから「緊急避難として違法性が阻却できる。法改正する問題ではない」という意見に、薬剤師会は「そうした解釈ができるのであれば通知で明確にするのも1方法」と、解釈通知による担保を求めた。
 こうしたやりとりに、事務局(厚労省医政局医事課)は、「飛行中の急病への対応というケースも含め、どう解釈できるか検討したい」と答えた。
 ③の実技指導に関して、薬剤師会は「ルート確保済みの場合の注射剤のセット、流量の確認・調整、外用薬の使用方法など」を例にあげた。これについて、事務局は「現行の薬剤師養成課程は患者の身体に触れる行為は前提にしていない」とし、「養成課程の見直しを合わせて行なう必要」を論点にあげた。
 これに対して薬剤師会は「6年制で勉強を始めている。既卒者の問題は残るが、養成課程の見直しは必要ない。患者の身体に触れるとはいえ、診療の補助というほどのものでもない」との認識を示した。
 WGの委員も、「診療の補助に入る行為ではないか」あるいは「薬剤師の本来業務だ」と判断が分かれた。事務局の見解は「ルートの確保がかかわると診療補助といえる」と慎重なものであった。
 医師や看護師不在がありがちな在宅医療で、薬剤師に限らず、本来業務と診療補助との狭間にある行為が求められる場面はしばしば出現する。ただし、無原則的なニーズ追随は医療の安全を誤らせる可能性あがる。
 近森委員(近森病院院長)は、「医師や看護師がいない場で患者の身体に触れることがあるのであれば、原則的な考え方ははっきりさせるべきである」と述べ、グレーゾーンはなくしていく必要を強調した。
 その上で、「チームでは各職が自分の判断でやっていくことが求められる。対象はどれも診療の補助だ。これはよし、これはダメと選別していたらチーム医療は進まない」と指摘。
 「チーム医療は専門性の高い職種の組み合わせで成り立つ。そのためには業務の標準化とルーティン化が不可欠で、それができているかという視点で業務分担を整理していくべきではないか」と述べ、もっぱら診療補助という視点で判断するやり方に疑問を唱えた。
 ③について、山口座長(虎の門病院顧問)は、「十分な訓練ができていれば認めるという、前向きな方向でまとめたい」と議論を引き取った。

 

病院に就労する救急救命士の位置づけめぐり議論

 グレーゾーンの問題は、病院に属する救急救命士の業務をめぐっても問われた。日本救急救命士協会は「救急救命士が業務を行なう場所の制限緩和」を要望した。
 現在、救急救命士による救命処置は救急車内と救急車への搬送前に限られている。しかし、「病院に雇用されている救急救命士は、(救急救命にかかわる)看護師の業務を代行させられている」と同協会は指摘。「場所の制限緩和」によって、これを救急救命士の業務に位置づけてほしいと要望した。
 委員からは「救急車による搬送が終われば医師や看護師に引き継ぐ。病院が救急救命士を雇用する必要はないはず」といぶかる声が出た。「救急救命士本来の趣旨から外れた要望だ。資格者が増える中、職場の拡大を狙っているとしか思えない」との批判も飛んだ。
 事務局も、「現行法の下では救急救命士でありながら診療の補助をさせられていれば、(医療監視の)指導の対象となる」と明言した。
 これに対して、救急救命士協会の担当者は、「保険医療機関の救急救命士が現場におもむいて救命処置を行なった場合に算定され、救急救命士による処置等の費用は所定点数に含まれる」という救急救命管理料に言及。救急救命士が救急救命センター等に就労していることが診療報酬で評価されていることを明らかにした。
 その上で、「医師や看護師が不足する中で救急救命士が代用されている現実がある。これは恐いことだ」と指摘。
 委員からは「搬送患者を医療機関に引き渡すまでは(車外であっても)救急救命士が責任をもつということを明確にしてはどうか」との意見も出た。
 事務局は「次回に整理案を出したい」と答えた。
 日本診療放射線技士会は「検診車における医師立会いの見直し」を要望した。この件は、一部自治体の検診車で医師の立ち会いなくエックス線撮影が行なわれていたことが発覚。田村厚生労働大臣が3月の記者会見で「(診療放射線技師法の)違反ではないか」と指摘するなど、問題となっていたもの。
 医師を確保できない自治体の中には検診車の運用を中止するところも出るなど影響が広がったため、診療放射線技師会は厚労省に放射線技師法改正の要望書を提出。医師の包括的な指示で実施できることを明確にすることなどを要望していた。
 この日のWGで、事務局は「今年度の厚生労働科研で検診車のエックス線照射のリスクを検証している」とし、その結果を待って医師立ち会いの必要性について検討する旨を報告。WGはこれを了承した。
 IGRT(画像誘導放射線治療)による放射線治療の際に、肛門からカテーテルを挿入してガスを吸入する行為を診療放射線技師の業務に加えるという要望は、すでに法改正で合意されている「下部消化管検査に関連した行為を業務範囲にする」ことと同様に取り扱う方針を事務局が提案、WGは了承した。
 日本理学療法士協会は、「障害のある者」とされている理学療法の対象に「障害の恐れのある者」を追加すべきと要望した。これは予防の給付になる上、その解釈によっては対象が際限なく広がる。山口座長は「議論の範囲が広く、検討する時間がない。問題提起と受け止める」として、議論を控えた。
 日本臨床衛生検査技師会は微生物学的検査等の検体採取として、①綿棒による鼻腔や咽頭からの粘液採取、②体表組織(皮膚)の採取、③スワブによる便の採取の3点を本来業務とするよう要望した。
 委員からは、「少なくとも①は、とくに幼児の場合は非侵襲的とは言えない。これは医師の業務である」と反対も出たが、山口座長は「トレーニングをつめばうまくできるというのであれば、いずれも認める方向でいいのではないか」とまとめた。
 これら以外にも、(1)卒後臨床研修制度の確立(診療放射線技士会)、(2)臨床心理士の国家資格化と心理相談、心理療法、心理査定各実施という要望が出ている。そのうち、後者については、すでに議員立法の検討が進んでいることから、議論は保留となった。
 前者に関連して、中村委員(兵庫県立リハビリ中央病院リハビリ療法部長)は、看護師を含む10の医療関係職種における養成教育の内容を整理した資料を提示。「各団体は認定制を導入するなどキャリアアップに努めているが、教育時間等バラバラで、標準化が必要だ。
 組織率も団体間で差が大きい。未加入の資格者はどこで自らの質を担保しているか不明だ。国として研修を受ける努力義務を課すべきではないか。その先には資格の更新制も考え、その2段階で質の担保がかなうものと考える。チーム医療を推進し、各職の質を高めるためにも、何らかの生涯学習体制を整えていくべきと考えている」と説明した。