全日病ニュース

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電子レセの弱点を補完するDPCデータ。将来は統一も

【特別寄稿医療データ利活用の課題と展望】
電子レセの弱点を補完するDPCデータ。将来は統一も

NDBから医療計画、病床機能情報報告へ、広がる電子レセの活用

東北大学大学院医学系研究科社会医学講座 医療管理学分野教授 藤森研司

 データヘルスや病床機能報告制度等、データに基づく医療の在り方に関する議論が本格化してきた。我が国には電子レセプトとDPCデータという、全国 統一形式の電子データがある。
 本稿ではこれらのデータの特性を概観し、課題と展望について述べたい。

DPCデータ

 DPC(Diagnosis Procedure Combination)は平成15年に特定機能病院から始まり、現在では、ほとんどの急性期病院が対応している。
 DPCデータ形式の登場は電子レセプトよりも遅いが、分析に適したデータ構造としっかりとした傷病名の重みづけ、診断群分類定義表があることから、急速に活用が進んだ。今日の電子レセプトの活用もDPCデータの活用に誘発された部分が大きく、DPCの登場がなければ、電子レセプトの活用も今日ほどには進んではいなかったであろう。
 本年度からは、一般病床7:1看護配置基準の医療機関ではDPCデータ提出が必須となり、新設された地域包括ケア病棟でも提出必須である。
 今後、どの程度地域包括ケア病棟が拡大してゆくかは定かではないが、現時点のDPC参加病院だけでも45万床を越えており、これにDPCではない7:1病院と地域包括ケア病棟の提出必須化で、50万床を優に超える病床がDPCデータを作成・提出することになる。
 平成26年度の診療報酬改定では、短期滞在手術等基本料3はDPCデータを使用して対象手術や点数が決定されたが、次回改定以降もDPCデータが存分に活用されるだろう。
 DPC/PDPSは急性期一般病床の支払いの仕組みではあるが、DPCデータのEFファイルは、外来診療についても記録することができる。DPC参加病院では外来EFデータの提出も必須となっており、入院前後の外来診療もDPCデータで見えるようになった。
 DPCデータのフォーマットは平成15年当時のものを踏襲しているが、項目は徐々に増強されている。平成22年改定では患者所在地の郵便番号が付加され、患者の受療動向の把握が可能となった。このことは地域医療計画の策定において特筆すべきことであり、患者所在地情報を持たない電子レセプトに比較して大きな長所である。
 DPCデータのもう一つすぐれた点は、傷病名の区分がなされている点である。すなわち、様式1には、最も医療資源を投入した傷病名、入院契機病名、入院時併存症、入院後続発症の区分がある。電子レセプトには主病名の区分しかなく、しかも、いくつでも許される。疾病統計は最も医療資源を投入した傷病名でなされるべきであるが、電子レセプトではその特定が困難であり、電子レセプトによる単純な疾病統計はかなり問題がある。
 DPCデータは毎年夏過ぎに厚生労働省から公開データとして、医療機関の名称入りで、DPCごとの症例数や平均在院日数、救急車搬送数、全身麻酔数等が公開される。これは地域の医療を考える上で極めて有用なデータであり、各医療機関はこれを通じて自院の強みと弱みを知ることができる。
 今後はDPCデータによる病院指標の公開も始まり、さらにDPCデータの価値が増してゆくだろう。様式1は今年度から縦持ちのフォーマットに変わり、項目変更の自由度が格段に高まった。平成15年度に82病院で静かに始まったDPCではあるが、10余年を経て我が国の急性期医療の大部分をカバーするようになった。次に述べる電子レセプトを補完するものとして、DPCデータの価値は高い。

電子レセプト

 DPCデータは急性期の入院医療を対象としたものであるが、レセプトは医療のすべての領域をカバーする。その電子化率は件数ベースで病院で99.9%、診療所で95.6%、医科全体で96.6%、調剤は99.9%になった。
 電子レセプトは急性期の入院のみならず、慢性期や精神の入院、外来、調剤を広くカバーする。訪問看護と柔道整復、鍼灸はいまだに紙レセプトの請求であるが、電子レセプトで我が国の医療の全貌を十分に語れる水準になってきたと言えよう。
 電子レセプトは診療報酬請求のためのデータではあるが、そこには行われた医療行為や使用された・処方された薬剤が詳細に記載されている。平成24年度からは実施日も記載されるようになり、この点で、情報量はDPCデータのEFファイルと同等である。
 急性期病院の電子レセプトは医科レセプトとDPCレセプトがある。DPCレセプトはDPCデータとは似て非なるものであり、混同してはいけない。DPCレセプトではDPCデータと比較して、入退院の経路情報や各種のスコア・ステージ、患者所在地の郵便番号を欠く。審査・支払いに必要なデータのみが含まれていると言えよう。一方で、DPCレセプトはDPCデータと同じ傷病名区分を持ち、包括部分もCDレコードとして記述されており、DPCデータと同様な診療プロセスの分析が可能である。
 DPCデータと比較して医科レセプトの最大の弱点は、傷病名の重みづけを欠くことであろう。すなわち、医科レセプトでは主傷病フラグがあるだけで、しかも、いくつ付けてもよい。査定対策のために「保険病名」も多数記録されており、傷病名による分析を困難としている。
 未コード化病名も問題であり、DPCデータやDPCレセプトでは必ずICD-10コードを付与しなければならないが、医科レセプトではテキスト病名だけでも許される。テキスト病名は扱いが難しく、National Databaseでは収集時に削除されており、分析の対象にならない。
 患者所在地の郵便番号、入退院経路、救急車搬送の有無等の情報を欠くことも地域医療計画のためには課題である。さらに、特定入院料として包括される医療行為に関しては一切記述されないので、例えば、小児入院管理料や短期滞在手術等基本料3では一切の明細が記載されない。全国で何件のCTが撮影されているかを集計しようとしても、医科レセプトの包括部分は一切把握できないことになる。
 このようにいくつかの課題を持つ電子レセプトであるが、元々が請求のためのデータであることを考えれば、致し方ないことであろうし、今後十分に改善可能である。ゆくゆくはDPCデータ方式となって統一される時期も来るであろうから、それまでは徐々に改善を期待したい。
 電子レセプトの最大の利点は、その範囲が広く医療の全体をカバーすることである。加えて、保険情報を利用すると個人の紐付けができる。調剤レセプトには傷病名はないが、処方箋発行元医療機関コードが書かれており、外来レセプトと調剤レセプトの突合ができる。保険情報が変わらない限りはレセプトを連結できるので、医療機関をまたいだ一定期間の追跡が可能である。これはDPCデータにはない特性である。
 ここで問題は、保険情報が変わると連結性が失われるので、長期の追跡には個人に固有な番号の導入が欠かせない。特に、現在は75才の誕生日で国民全員が後期高齢者医療制度に移行するので、この時点で連結性が絶たれる。医療費分析の最も重要な年齢区分でもあり、ここの連続性の確保は喫緊の課題である。

National Database

 厚生労働省保険局総務課では平成21年4月審査分から全保険者の匿名化された電子レセプトの全数集積を行っている。これは高齢者の医療の確保に関する法律に基づくものであり、特定健診・特定保健指導の結果、医療費が効率化することを検証するための仕組みである。特定健診のデータも同時に収集されているが、これらを合わせてNational database(以下NDB)という。
 NDBは医療費適正化が本来目的であるが、他の行政利用(社会保険診療行為調査等)や研究者等の第三者利用にも門戸が開かれている。
 筆者は産業医大の松田晋哉教授、厚生労働省医政局指導課と共同で、2回に渡り、地域医療計画のために利用申出を行った。2回目の昨年度は平成24年度の医科レセプト、DPCレセプトの全数を扱い、全都道府県の二次医療圏別に医療計画策定の指標となるデータの集計を行い、都道府県の担当者に集計結果を分析ツールとともに提供した。
 NDBは、このほかにも薬剤経済学的あるいは疫学的な活用も可能である。筆者は北海道大学病院の加藤とともに、胃のH.pylori除菌と胃癌診療に係るデータを申請中であり、我が国の胃癌診療、除菌診療の実態を明らかにしようとしている。
 NDBは医療行政上も医学研究上も活用可能であり、その価値は計り知れないが、課題の一つとして、先のレセプト連結があげられる。すなわち、保険情報の変更により連続性が絶たれる点である。氏名はハッシュ化されているため、少しでも書き方が異なるとまったく異なる情報となってしまい、類推が不可能である。
 今年度に実施を計画されている病床機能報告制度も、医療行為についてはNDBを使用予定である。現在の電子レセプトには病棟コードはないが、平成28年度に導入予定であり、平成28年度以降は病棟別の機能が把握可能となる。
 さらに、今夏から始まる「医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会」においても、医療についてはNDBを使用し、電子レセプトの活用はますます広がってゆくだろう。
(編集部注)「医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会」については2面記事を参照。