全日病ニュース

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私設病院協会と一体の活動。同協会として県の医療審等にも参加

▲第56回全日病学会で閉会の挨拶を述べる陣内重三学会長(福岡県支部長)

私設病院協会と一体の活動。同協会として県の医療審等にも参加

模擬調整会議に早くも参加。「地域医療構想への対応が最大の課題」

支部訪問/第10回福岡県支部

 福岡県支部は全日病創世記から多くの活動家を輩出し、会員も増勢基調を維持、現在に至るも拠点支部の1つとして全日病を支えてきた。県内にあっては福岡県私設病院協会と一体の存在となり、県医師会、県病院協会とも強い連携を確保、福岡県に対しても一定の発言権を確保している。
 そうした福岡県支部だが、医療介護総合確保基金では要望を通すことはできなかった。また、地域医療構想を前に、会員病院の意識改革や団結が求められている。陣内重三支部長(医療法人井上会篠栗病院理事長・院長)に、福岡県支部の現況と直面する課題をうかがった。(支部訪問は不定期に掲載します)

 「私たちは福岡県私設病院協会と一体に活動しています」― 陣内重三支部長(写真)は全日病福岡県支部の特徴を、こう表現した。
 福岡県私設病院協会(以下「私設病院協会」)の役員は全員、会員も主たるメンバーは、福岡県支部に所属している。
 そもそも、福岡県支部は私設病院協会を母体に誕生している。
 全日病が現在に近いかたちになる直前の1960~62年(昭和35~37年)に、各県に生まれた病院協会は積極的に全日病の小澤凱夫初代会長を招き、全国組織としての病院協会創立を歓迎した。
 その中でも熱心に全日病への参加を表明した1つが、私設病院協会の前身である福岡県私設病院部会であった。
 そして、前身である近畿東海病院協会連合会の発展的解消と組織の全国展開を決議した全日病の1962年度定期代議員会・総会が、近畿・東海地区以外から新たに選出した理事7人のうちの1人が福岡県の菱山博文氏であった。
 その後、1964年4月の3回定期代議員会・定期総会で新たに井上猛夫氏が福岡県から理事に選出され、1965年3月には「全日病福岡県部会」が設置された。
 これは支部準備会とでもいうべきもので、福岡県出身の古森代議員会議長(当時)が「これは全日病九州支部の母体となるものだ」と宣したように、黎明期の全日病に参加した福岡県の会員が福岡県病院協会に所属する病院に全日病への入会を訴えてきた成果であった。これが、のちの全日病福岡県支部の設立につながった。
 私設病院協会は、福岡県病院協会に付設されていた私設病院部会が独立して1962年(昭和37年)10月に創立された。初代会長は全日病代議員会議長の古森近氏であった。
 私設病院協会は、病院間の交流や情報交換にとどまらず、医療機関の寝具類のリース・洗濯等を扱う福岡医療関連協業組合を設立(1962年)、さらに、看護専門学校(現在の福岡県私設病院協会看護学校)を開校した(1971年)。甲乙採用間もない時代の基準看護料や寝具設備料に対応するためだが、いずれも現在まで存続し続け、公的病院を含む需要に応じている。私設病院協会は福岡県病院厚生年金基金も設立している。

県医師会、県病院協会とも連携を確保

 私設病院協会は現在会員数225病院と、全県467病院(2011年10月現在)のほぼ半数が参加する大きな病院協会として県内に根づいている。
 福岡県は、精神医療センター(指定管理)を除く県立病院はすべて公設・民営化されたため、25ある公的病院を除く95%が民間病院からなる。その中で、県内病院の9割以上を組織する福岡県病院協会が公私病院の融合を実現する一方、私設病院協会が民間病院の団結と協調を維持する役割を果たしている。
 その私設病院協会の歴代会長に就いてきたのが全日病福岡県支部の会員であり、現在、その会長の任にあるのも陣内重三支部長である。私設病院協会の役員はすべて福岡県支部のメンバーだ。
 他方で、支部業務は福岡県医師会に委託しており、日本医師会長の横倉義武氏が福岡県支部の副支部長に名を連ねているように、福岡県支部は、私設病院協会ともども福岡県医師会とも永く連携を育んできた。
 このように、県医師会と県病院協会そして私設病院協会が三位一体の関係を築いているのが福岡県の特徴である。
 「県の医療審議会には県病院協会と私設病院協会から委員を出しているほか、医療費適正化計画など、主な審議機関には私設病院協会が参加している」(陣内支部長)上、福岡県からの通知は県医師会、県病院協会とともに私設病院協会にも送付されるなど、福岡県と病院団体はきわめて良好な関係にある。
 その福岡県支部は一貫して会員も増加をたどり、2007年度の145人が14年度には159人に増え、県内病院の組織率も36%を超えた。北海道と東京都に続く規模の全日病の拠点支部であるが、とくに2012年度の増加が大きい。
 私設病院協会との連携に支えられた堅実な活動ぶりが背景にあるが、ここ数年の増勢ぶりを、陣内支部長は、「昨年9月に開催した第56回全日病学会を担当したことが大きい。民間病院の間に危機感が高まっていたため、久しぶりの勉強機会ということで歓迎ムードに包まれた。それが福岡学会に大勢が集まる要因となり、学会の成功でニーズを満たすこともできた」と振り返る。
 福岡県支部は『病院医療をプライマリ・ケアの現場から考える―地域の未来を診療所と共に』を学会のテーマに掲げたが、これこそ、支部を含む県内民間病院の問題意識であったというわけだ。
 福岡県支部が単独開催する勉強会は年に1~2回だが、私設病院協会との共催で年10回ほどの研修会を開き、テーマによっては会員外の病院にも公開している。研修会を共催してきた関係は、福岡学会にも、私設病院協会が全面後援するというかたちで生かされた。
 「私設病院協会と全日病支部はコインの裏表」(陣内支部長)といわれる所以だ。だが、私設病院協会だけではない。福岡県病院協会とも、私設病院協会と研修会を共催するなどの共同活動を重ねており、「県病院協会ともシッカリ話し合い、役員同士の協議を欠かさない」(陣内支部長)という。
 県病院協会や私設病院協会だけでなく、全国自治体病院協議会、精神科病院協会、医療法人協会、慢性期ケア協会と、福岡県には数多くの病院団体が存在している。その中で、民間病院の中核団体として存続し続けてきた福岡県支部は、歴史的土壌を活かした連携活動を積極的に展開することで、その基盤を強固なものにしてきた。

14年度基金に病院団体の事業提案通らず

 だが、全国の病院、とりわけ中小の民間病院に強く襲いかかる改革の嵐を前に、福岡県支部にも苦悩と葛藤がないわけではない。
 14年度に始まった医療介護総合確保基金に、福岡県支部は、看護職員確保事業として「3年課程への移行に伴う教員確保」への補助を提案した。基金事業の提案は医師会が中心となって県と協議、県も県病院協会と私設病院協会に対するヒアリングを実施した。
 しかし、福岡県の基金は、診療情報ネットワーク活用拡大事業(県医師会)、在宅医療連携拠点整備事業(市町村・郡市区医師会)、市町村在宅医療推進モデル事業(市町村)、福岡県在宅医療推進協議会運営事業(福岡県)などのほか、歯科医師会、薬剤師会、看護協会等の事業に振り向けられた。既存補助事業の付け替え分が多かったこともあり、病院団体の提案は“全滅”であった結果を、陣内支部長は「結局、個別の話としては中々通らない」と残念がった。
 福岡県には2次医療圏が13あるが、全医療圏で病床が過剰となっている。地域医療支援病院が36もあるが、北九州市、福岡市に偏在しているなど、都市部に大型の急性期病院が集中している。
 こうした現況に、陣内支部長は「公的病院が多い都市圏過剰地域の病床を抑制する必要があるのではないか」という問題意識をのぞかせた。「公的病院に、地域包括ケア病棟を設ける地域医療支援病院がある」ことが、危機感を募らせる1つになっている。
 「この動きは病院完結型を増やすだけです。こうした懸念はとくに都市部の民間病院に多い。県内の連携は比較的うまくいっていると思うのですが、民間病院はほとんどがケアミックス型という特徴があります。したがって、公的病院がケアミックスをやると民間病院の出番がなくなります」と指摘する。
 他方で、民間病院の社団医療法人には「持分ありをどうするか」という葛藤がある。陣内支部長は「会員病院の間では承継税制への関心が高いのですが、解決の途が見当たらない」と指摘。「全日病として、その辺りの対応ができればいいのだが」と嘆じた。

「本部の研修会を福岡でも開催してほしい」

 改革は本番を迎えつつある。地域医療構想の推進過程では調整会議が果たす役割が大きいが、福岡県では県医師会を中心に、早くも模擬調整会議が開かれている。
 「すでに4つの2次医療圏で開かれました。残りの圏域でも順次実施する予定です。私設病院協会にも県医師会から参加の要請がありました。公的病院も参加しています。模擬会議にはデータ資料がペーパーで出ました。2次医療圏ごとに作られ、これを自由に使ってほしいということでした」
 ただし、データは市町村別にはなってなく、福岡市の区単位にもなっていないという。構想区域の設定や隣接区域との連携、あるいはアクセスを考える上で、さらに精密化される必要があるようだ。
 「まだ1回目に過ぎないので議論もイメージレベルでしたが、その中で、2次医療圏間の患者の出入り、アクセス、県境の対策などの課題が提起されました。また、必要な機能をどう残していくかという視点も大切ではないかという意見も示されました」
 陣内支部長は、この最後の視点がきわめて重要ではないかと強調した。つまり、「地域医療構想で大切なことは、病床削減ではなく、機能の足りない点をどう補うかという点ではないでしょうか」
 「そのためには公と民の役割分担をしっかり考えておかないとなりません。公的病院ではそれが病院の中の機能分担として追求されているふしがあるからです」
 そして、「県医師会ともしっかりした関係を築くことが大切。県病院協会や私設病院協会との関係はうまくいっている。やはり地域医療構想への対応が最大の課題」と、福岡県支部の最重要課題を明らかにした。
 その上で、「支部の対応能力を高めていく上で、本部主催の研修会を地方で開催してもらえるとありがたいです。仮に福岡で開催できれば九州各県からも大勢参加でき、全日病に参加するメリットが大きいとの声があがっています」と指摘。
 最後に、「支部が強くならないと、中央の力だけではうまくいきません。全日病の研修会は折角充実しているのに、もったいないことです」と結んだ。