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試行的導入での支払い意思額調査結果の反映は断念

試行的導入での支払い意思額調査結果の反映は断念

【中医協・費用対効果評価専門部会】過去の研究成果を活用

 中医協の費用対効果評価専門部会(荒井耕部会長)は8月9日、費用対効果評価の試行的導入の進め方を協議。厚生労働省は、試行的導入の段階で支払い意思額の調査結果を反映させることを断念し、過去の研究成果を活用し、医薬品や医療機器の費用対効果の「よい・悪い」を判断することを提案した。支払側の委員は、試行的導入での活用が困難であることは認めつつ、支払い意思額の調査を早期に実施する必要があると主張した。
 費用対効果評価の仕組みで、費用対効果の「よい・悪い」を判断するには、増分費用効果比(ICER)を用いる。その際に、評価の基準となる金額を定めておく必要がある。このため、一般国民を対象にした支払い意思額の調査を予定している。同専門部会では、これまで支払い意思額の調査設計を議論してきたが、いくつかの疑問や懸念があり、まとまっていない。
 一方、試行的導入の対象となっている抗がん剤のオプジーボなど13品目の価格改定は、次期診療報酬改定とあわせて実施する予定になっている。そうすると、年内に価格調整の目途をつける必要があり、年末までに、支払い意思額の調査設計をまとめ、調査を実施し、結果を集計・分析して13品目の価格改定に反映させる方法を決めなければならない。厚労省は日程から考えて、支払い意思額を反映させることは難しいと判断。13品目の価格改定では、過去に研究者などが実施した調査結果を参考にすることを提案した。
 試行的導入後の制度化の段階では、新たに支払い意思額の調査を実施して、その結果を反映させることが求められる。迫井正深医療課長は「先延ばしするのではなく、できる限り同時並行的に議論を進める」と述べ、理解を求めた。
 厚労省は、支払い意思額に関する過去の研究成果として、対象者数や調査方法の異なる4例を示した。それによると、健康な状態で生存期間が1年延びる効果(1QALY)に対し、どれだけの金額を支払う意思があるかを質問し、社会としての負担(保険料・税金)では「520~ 740万円」や「350~ 1,370万円」など幅のある数字が得られている。また、個人の自己負担としては、「470~ 540万円」、「450 ~ 550万円」との結果が示された。
 ただこれまでの議論で、一般国民に自己負担だけでなく、保険料や税金を含めた医療保険全体の財政を考慮した回答が期待できるかについて、疑念が示されていることを踏まえると、支払い意思額の調査設計には、なお時間を要すると考えられる。
 厚労省の提案に対し、試行的導入において新たな支払い意思額の調査結果を反映させることは難しい点については合意を得た。しかし特に支払側委員が、「試行的導入と制度化の段階で用いる評価基準が大きく異なるとしたら問題がある。試行的導入の際にも、新たな支払い意思額の調査結果を把握しておく必要がある」と主張。予定通り調査を年度内に実施することを求めた。これを受け厚労省は次回詳細なスケジュールを示し、調査実施が可能かを判断してもらう対応を取るとした。
倫理的、社会的影響等に関する観点
 今回、同部会は、費用対効果評価における「倫理的、社会的影響等に関する観点」を整理した。総合的評価(アプレイザル)では、増分費用効果比(ICER)による機械的な計算だけでなく、一定の価値観に基づいた判断を加えて、価格改定を行う仕組みを想定している。
 具体的には、①感染症対策といった公衆衛生的観点での有用性②公的医療の立場からの分析には含まれない追加的な費用③長期にわたり重症の状態が続く疾患での延命治療④代替治療が十分に存在しない疾患の治療⑤イノベーション⑥小児の疾患を対象とする治療─を考慮すべき項目の候補としている。厚労省はこれらの項目のうち、「小児の疾患を対象とする治療」を除外することを提案し、了承を得た。
 「小児の疾患を対象とする治療」は、対象者が少ないため治療薬の開発が遅れる傾向がある。しかし費用対効果評価の仕組みでは最初から対象から外しているとの指摘が出ていた。厚労省は、成人を対象とする治療薬でも、実態として小児に用いられている治療薬があるため、考慮する観点に含めたと説明していた。しかし今回、考慮する観点を具体的な判断基準を用いて定めるに当たって、除外することを決めた。
 また、イノベーションに関しては、費用対効果評価を行う前の価格算定で、イノベーションの評価を実施しているため、「二重評価」といった指摘が出ていた。このため、今後の価格改定の方法を検討する中で、それぞれの整合性も踏まえながら、取扱いを整理する。
日程的にも調査結果の反映は不可能
 8月23日の同専門部会で厚労省は、試行的導入と制度化の議論に分けて、詳細なスケジュールを示した。
 試行的導入では、10月半ばに価格改定の方法をまとめる。その後は非公開の費用対効果評価専門組織で、13品目に対する価格改定案を年内にまとめる予定だ。11月以降は、制度化に向けた議論を開始。年内に骨子案を固める。
 制度化の際に用いる「支払い意思額に関する調査」は、11月に調査を開始したとしても、結果報告がまとまるのは来年2月末~3月になる見通し。このため、試行的導入で調査結果を活用するのは不可能であることが明らかになった。今後は試行的導入と制度化において、支払い意思額の考え方をどう反映させるかが課題となる。

 

全日病ニュース2017年9月1日号 HTML版

 

 

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  • [1] 全日病ニュース・紙面PDF(2017年4月15日号)

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2017/170415.pdf

    2017年4月15日 ... 引き続き、多岐にわたる調査・研究. および提言・ .... の総会で、オプジーボ(小野薬品
    工業). の頭頸部がん ... 支払側. 医道審議会・医師分科会医師臨床研. 修部会(桐野
    高明部会長)は3月 23日、. 臨床研修制度における地域枠医師への .... た上で、一定の
    成果がみられるとの見 ..... が今後、地方で勤務する意思があると. 回答。

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