全日病ニュース

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民間病院として活き残るには

【シリーズ●病院事務長が考えるこれからの病院経営②】

民間病院として活き残るには

医療法人社団永生会 法人本部 副本部長 大沢正行 

 医療政策が大きく変わりつつある中で、経営の一翼を担う病院事務長の役割はますます大きくなっています。シリーズの第2回は、永生会法人本部の大沢正行副本部長にご寄稿いただきました。

民間病院に厳しい時代

 社会保障費の一部である診療報酬及び介護報酬の引き上げは今後期待することができないなか、自院としてどのように経営改善を図り、健全経営を維持することができるのか、民間病院としてどのように方策を講じる必要があるのか、地域別の格差を捉えながら経営改善に着手していかなければ、民間病院の今後は大変厳しい前途多難な経営が待ち受けているに違いないと感じている。そこで、どのような改善に着目し方策を企て、実行していくのかを考えてみたいと思います。
 一つ目は、病院の新規建設時の留意点(イニシャルコスト)と、新病院運営開始後の毎年の固定費及び診療材料費等の変動固定費(ランニングコスト)の軽減。二つ目は、現状運営している病院の高額医療機器の更新やランニングコストの削減。三つ目に人材育成による接遇(接客)サービスマナーの向上と新患リピーターの重要性。地域性に妥協せず、世相のベンチマークを自ら打破してコスト削減に取り組まなければならないということ、この辺りにフォーカスし、経営改善の一助となれば幸いであります。

新規開設時のコスト削減

 病院の老朽化により建て替えを検討する病院は多く存在することと推察いたしますが、オリンピック開催によるといわれる建築職人の労務費や建築資材や鋼材市場流通価格の上昇が叫ばれている中、建設施工費全体のコスト高をフレーズに、好業績の建設業界に踊らされている感が否めないところです。
 ここでの焦点は、新病院建設時の高額医療機器の導入費用や、医療機器を含めたその他備品購入費と、瑕疵責任後2年目以降の保守点検業務委託維持管理費等について、初期導入時の事前交渉の大切さを理解しなければならないということです。
 昨今、病院建設時において高額医療機器を含む導入備品調達を総合ディーラー(コンサルティング)に依頼し、トータル備品の提案並びに価格交渉の一括一任化を耳にすることがありますが、民間病院としてはさて如何なものでしょうか。この一括一任化は、国公立病院において従来の導入価格を打破する手法としてここ数年間頻度が高く、ディーラーを利用して、民間にもこの手法が降りてきたということになります。考察しますと、あらゆる面に一括一任化できることは、価格交渉業務の簡略化が可能になることは言うまでもありませんが、民間病院として導入価格面で優位に立てるということは皆無に等しいのではないでしょうか。
 しかし、民間病院として納入価格の妥当額を理解されていない病院ではこの限りではありません。病院側として機器メーカーや機種を予め決定し、当該メーカー一本で価格交渉することも同様に無防備過ぎると言えます。ましてや2年目以降の保守形態や保守料金を一切交渉せず、後になってメーカー側から提示され保守契約に至ることは、保守価格交渉権も得られず、メーカーの言いなりになることになります。つまり導入以前に納得いくまで交渉したうえで、ランニングコストをダウンすることが可能になるわけです。
 例を挙げますとCT導入時、診療報酬の算定要件もあり16列以上を導入することが標準化になりつつありますが、メーカーによっては320列もすでに商業化しています。CT本体やオプションも含め、イニシャルコストは、いくらになるのでしょうか。それは、最初からメーカーや機種を事前決定せず、複数メーカーの同種同様の機種を選定し、同じ土俵上で、2年目以降の保守料金も同時に提案してもらって、相応なる事前交渉に時間を費やし、交渉することが肝要であります。従前のように国公立病院以下、順列に納入価が暗黙の裡に決定され、民間病院に最低価格で納入されていた時代は終わりを告げ、コンサルタントが仕切り始めた昨今では、官民納入価に大きな乖離はなくなってきています。ベッド数百台を新規に購入(更新)するならば、さて値引き率は? ベンチマークを確認してみましょう。60%の値引きをしてもらえば大満足なのでしょうか。この業界は思うように値引き交渉ができなくなってきていると感じます。「もっと値引きしてくれ」「安くしてくれ」といって納入価が下がるのであれば、購買専任担当者など必要ありません。従前より価格交渉のテクニックを駆使して、失敗を繰り返しながらあの手この手で惜しまない努力をしてきた病院(法人)には、相応の値引き率が今現在提供されているはずです(私から掛け率を申し上げるわけにはいきませんが)。トータルコスト削減について、新規開設時において予め瑕疵責任後の保守料の契約を担保しておく必要があります。

既存病院のコスト削減

 次に、では既存の病院でのコスト削減をどのように取り組むのかを考えてみます。まず思いつくところとして、業務外注委託(アウトソーシング)先を見直すことが必要です。
 これはDPC病院、出来高算定病院であっても格差はありません。外注先を変更することによるプラス効果とマイナス作用があることを優先に考えなくてはなりませんが、業種ごとの特性があることも予め理解しておく必要があります。血液等検体検査委託、患者(職員食)給食委託、院内清掃(トータルビルメンテ含む)委託、医事業務委託、滅菌消毒業務、寝具類の洗濯業務等が代表的な外注委託項目になりますが、ここで大切なことは、日常より外注先業者との相互関係にWin Winの関係を構築することが重要です。ここでは血液等検体検査及び医事業務委託について考えていきます。
 検体検査につきましては、概ね大手6社の配下のもと地方の検査受託会社をそれぞれグループ化しています。地方では単独での資本力で活躍している業者もありますが、検査委託会社を変更しようとする場合には、次に変更しようとする委託候補先が、現在委託している会社の傘下にないことを予め確認しておく必要があります。近年の経験談ですが、現在取引の委託先が保険点数の65%前後の料率であり、新規で委託先に選定した会社は料率10%の1年間保証にて契約に至る事例がありました。もちろん精度管理も充分に事前確認しなければならないところです。
 委託外注の一部としてFMS方式やブランチという方法も選択肢の一つであり、現状を考慮した見直しが要点になります。また電子カルテやオーダリング接続との相互関係や、夜間緊急対応時の関連性等、さまざまな部門に与える影響は大きく、全職員の理解と協力なしには検体検査委託業者の変更は一筋縄にはいきません。

医事業務委託の際の留意点

 医事業務委託について考えてみましょう。当該事業所では実労働時間は7.5h/日、月平均勤務日数21.3日。医事業務委託につきましては、受託会社からの職員本人給与の年間支給額が異常に低いケースが多々見受けられますが、業務委託範囲を予め契約書に記載し、契約前にしっかり確認しておかないと、後々にトラブルに発展することがあるので注意する必要があります。
 記載していない事項を開始後に依頼しますと、追加請求を要求されることがしばしば見受けられます。委託費用削減を考える場合、現状で医事業務委託先を変更することを考えるよりは、委託を廃止し直採用に切り替えることで、過去の経験上大きなコスト削減が可能になると予測されます。逆に直採用で人件費高騰の折には、全面委託に切り替えることで削減も可能ということもあり得ることです。
 人件費・委託費に触れましたが、医事職員のスキルアップと接遇マナーも考えなくてはなりません。ここでは接遇マナーの一層の強化を考えます。皆様もご承知の通り20年も前から対患者に「様呼び」の活動をしきりに思慮したものでしたが、昨今においてはそれぞれの病院に定着した呼び出し方法で固定してきたものと思います。
 呼び方のみならず接遇マナー研修も一頃盛んに全国各地で研修会も開催されていました。もちろん今でも院内での研修会を開催されていることと推察いたしますが、これからの時代が接遇マナーの真価を問われる本番であると思っています。クレーマーと言われる患者・家族が増える一方、テレビやマスコミ報道等の影響もあり、接遇応対によってはクレーマーの感情を高ぶらせてしまうことになりかねません。徹底した研修・指導・教育が必要な時代に突入したといえるのではないでしょうか。特に外来新患対応の善し悪しで継続したリピーター化や病院の評判を大きく左右されることは言うまでもありません。
 外来患者数の日々の増減の状況によっては、自院の方向性を思案しなくてはならず、もはや待ち受けの姿勢では生き残ることは不可能であり、衰退の一途を辿ることになります。本シリーズも重要な改善項目の一つと言えるのではないでしょうか。様々な意味合いにおけるコスト削減は永遠のテーマであり、これで十分ということはありません。その時の経済環境や時の政治情勢、また国内外の商品市況の動向によっても変化することになります。コンサルタントに頼ったところで、相手も会社を挙げての商売です。これらを踏まえ肝に銘じながら皆様の飽くなき挑戦、経営改善をご期待申し上げます。

 

全日病ニュース2017年9月1日号 HTML版

 

 

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