全日病ニュース

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働き方改革は時間外労働規制以外にも様々な課題

【特別座談会】

働き方改革は時間外労働規制以外にも様々な課題

人手不足の中でいかに効率的な病院経営を目指すか

総合医の養成で状況は大きく変わる

猪口 東京は多くの医師がいるかもしれないが、実感として医師が十分にいるという感じはない。地方は本当にいません。しかし総合医をどれだけ増やせるかによって状況はすごく変わります。中小病院は、何でも屋みたいだけれど、広い知識があり、夜間の救急対応もできる医師が必要です。そういう医師をどれだけ育てられるか、全日病として何とかしたい、ということで病院総合医を養成する取組みを始めました。
 新専門医制度でも今度、総合診療専門医が始まりますが、これが育つには相当年数がかかる。様々な病院団体がこの点に気が付いて取り組みを始めています。そういう医師が増えれば、民間病院は変わります。科別の大学病院で、総合医を育てることを今期待するのは難しいでしょう。プライマリ・ケア連合学会にも期待しますし、我々も頑張ります。
神野 キャリアパスとして、ある段階から総合医になってもらってはどうか、というのが全日病の考え方です。それに対して臨床研修後に行って下さいというのが総合診療専門医です。
 また、世の中、情報があふれているのに偏っているものも多い。地域の医療の実態や働き方改革の情報など必要な情報を伝える体制を厚労省が作ってほしいと思っています。
武田 医師偏在対策の議論でも、例えば日本医師会に2次医療圏ごとのデータがあることをみなさん知らないわけです。いろいろな情報があっても、そのことを知らなければ、情報は途切れます。個人開業の方は一人の経営者です。そこに情報提供するのは我々の役目です。例えば、厚労省のホームページの中に特集ページを作れる。私が在宅医療の担当課長だった時、専用ページを作って全部張り付けたことがあります。そういうやり方も考えられます。

医師の働き方改革への対応 まず今すぐできることをやる

 では、医師の働き方の問題に移ります。結局、医師偏在の問題も、それぞれの医師の働き方がどうなるかで、根底から変わる可能性があります。改革法案は通常国会に出るのですか。
武田 出す予定です。いわゆる高度プロフェッショナル制度を含む働き方改革関連法という形です。安倍総理も年頭記者会見で「通常国会は働き方改革国会だ」と仰っています。
猪口 ただ、高度プロフェッショナルも労働裁量制も、医師には当たらない、と結論が出てしまっています。多くの病院に労働基準監督署が入り、「法的にはこうです。働き方変えなさい」と言われています。
 結果的に、公立病院も民間病院も救急を受け入れられなくなったり、診療時間が短くなったり、夜間対応が悪くなったりしています。早く基本路線を決めないと、今後たいへんなことになります。現行法では、公立も民間も多くの病院が法を守ることが困難です。
武田 働き方改革は非常に大きな問題です。今までみんなが当たり前にやってきたことを変えないといけないので、インパクトが大きい。今回、時間外労働の上限規定を罰則付きに変えるので時間のことばかり目立ちますが、時間に限らずいろいろなことを変えていかなければならない。単に、何時になったら帰れ、という問題ではありません。
 労基署から是正勧告等を受けて報道されている一部の医療機関の問題でなく、医療機関の一定割合が法令を遵守できていません。国も支援するので、まず今すぐできることをやっていこう、と考えています。
 医師の働き方改革に関する検討会では、中間論点整理とは別に緊急対策をまとめて、個々の医療機関でなくみんなで対策を取ろう、現行法制でやらなければいけないことを早急に対応しようという方向性を打ち出しています。
神野 現行法制でいいのかという観点もあります。働き方検討会で、法律家や労働側の委員が主導権を握ると、岩盤のように固く、跳ね返されます。医療は工場労働と違って、すべての医療行為は医師の指示の下で行われている。
 救急を除いて、今日検査するか、明日検査するかなど医師の裁量によるものがたくさんある。普通の労働者と違います。医師は別法制という可能性はないのでしょうか。
猪口 医師はこういう形で、という考え方はあるはずです。今様々なデータが出てきています。勤務時間だけで見ると、確かに病院に入って出るまで長い。しかし当直の間にずっと仕事しているわけでない。自己研鑽の時間もあります。タイムカードとかパソコンが動いているという間という括りではないものを作る必要があります。
武田 私の立場からすると、両方の考え方があります。他の職場に適用されている労働法制をそのまま医師に適用することに、若干の違和感はあります。
 それから、宿直の考え方も含め医療の現場に合っていないのではないか、という主張も知っています。そもそも病院にいる時間イコール労働時間と考えていいかどうか。我々の職場と非常に似ているのでよくわかります。
 一方で、そこをあまり強調しすぎると、現状を肯定することになりかねません。若い医師は働き方改革に期待しています。職場は時代とともに変わる。
 今は昔よりも忙しくなっています。例えば、電話に加え、メールのチェックもしなければならない。コンプライアンス的な話も増えました。「昔自分もやったことだからお前たちもやるのは当たり前だ」ということを部下に言ってはいけないと私自身は思っています。そういう意味で、一方に議論が偏らない方がいいし、杓子定規に考えてはいけない。

現行人員基準のままでは先進技術の導入が遅れる

神野 病院の人員配置の話になりますが、例えば自動車工場や半導体工場で労働者がいないならば、ロボットやAIを入れてカバーしようとする。我々はどうか。人員基準がガチッとあって、その上にロボット、AIを入れようとすると二重投資になります。この人員基準のままだと、先進技術の導入は、医療が一番遅れてしまうかもしれません。
猪口 そこは、医療法の人員基準と診療報酬の両方あります。むしろ、診療報酬の方が細かいかもしれません。
武田 医療法では、特に宿直規定で問題になりますが、やはり細かいのは診療報酬です。私も見直すべき時期に来ていると思っていて、高度医療と地域医療の両極端で同じような話が出てきます。医療資源の少ないへき地、過疎地の医療をどうするのかということと、最先端のICUが今まで通りの基準でいいのかは非常に差し迫った問題です。
 昨年、遠隔診療の死亡診断書の通知を出しました。かつて死亡診断書は医師の根源的な役割で、議論することも憚られた。しかし、チーム医療とITの組み合わせで少し道が開けて、現場の先生方からも負担軽減という意味で評価を頂いています。高度急性期の医療でも、一定の基準緩和があると思います。
猪口 診療報酬では緩める方向です。
武田 我々は、日本の急性期医療を世界レベルまでよくしなければならないと言ってきて、結果的にコストを上げてしまった反省があります。もっとコストを下げるような取り組みが可能になるような法規制、基準づくりを考えることは大事な視点です。
猪口 中医協で我々は「診療報酬を増やしてほしい」とは当然言います。でも、本音を語ると、日本でこれだけ働き手が減り、高齢者が増えていった時、医療の効率性を求めないと、日本全体が回らなくなります。医師の足かせになっていることを緩めて、それぞれの医療機関の裁量で動かせるようにしてほしい。もちろん医療の質は担保しますが、そういう方向に持っていかないと全体が動かなくなってしまいます。
武田 働き方改革でも、何でも医師がいなければならない、何でも医師がやる、というのは、できれば減らしたいと思っています。我々の発想で行くと、どうしても規制が増えていく。それに対抗するアイデアは現場でないとわからない。よろしくお願いします。
猪口 本日はお忙しいところありがとうございました。

 

全日病ニュース2018年2月1日号 HTML版

 

 

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  • [1] 2017.4.15 No.892 医療界が一丸となって制度改革に対応する姿勢 ...

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2017/170415.pdf

    2017年4月15日 ... 療報酬・介護報酬同時改定に向けては、. 医系議員の政府・与党への働きかけが. 重要
    になるとして、積極的に支援す. る姿勢を示した。政府の「働き方改革」. では、医師
    に対する時間外労働規制. について、5年間の猶予が与えられた. ことを説明。「地域
    医療の ... さらに、第 48条に「外. 国人技能実習生受入れに係る事業等」. の規定を設け
    た。 臨時総会終了後に支部長・副支部長. 会(特別講演)が行われ、神野正博副. 会長
    が新たな専門医制度について、猪. 口雄二副会長が 2018年度の診療報酬.

  • [2] 全日病ニュース・紙面PDF(2017年8月15日号)

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2017/170815.pdf

    2017年8月15日 ... 厚生労働省は8月2日、「医師の働. き方改革に関する検討会」の初会合を. 開いた。
    医師に対する労働規制のあり. 方や勤務環境改善策を議論する。政府. の働き方改革
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    薬価専門部会(中村洋部会長)に、類. 似薬のない新薬を保険収載する際の価. 格算定(
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  • [3] 診療報酬算定事務の効率化・合理化で対応方針示す

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    2017年12月13日 ... (4)2017年(平成29年)10月15日(日). 全日病ニュース. 四病院団体協議会は9月27
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    新専門医制度につい. 四病院団体協議会は10月2日、日. 本専門医機構の吉村博邦
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