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ホーム全日病ニュース(2018年)第926回/2018年10月1日号患者と診療情報を共有し信頼される病院に...

患者と診療情報を共有し信頼される病院に

患者と診療情報を共有し信頼される病院に

【シリーズ●ICT 利活用の取組み――その②】社会医療法人宏潤会 大同病院

 ICT 利活用シリーズの第2弾は、院内の業務全般でICT 化を進めてきた愛知県の大同病院。昨年、患者・家族との状況共有を進めるため、「カルテコ」を導入した。カルテコは、患者が自らの受診内容を保存・閲覧できるサービス。診療情報を患者と共有し、病院の透明性を高めることが信頼される病院の条件であるとの考えに基づく。ICT を活用して病院の業務を改善し、医療の質向上を目指す同病院の取組みを取材した。

 カルテコで診療内容の理解を手助け
 大同病院は、1939年に大同製鋼(現大同特殊鋼)の病院部門として開設。1985年に医療法人宏潤会大同病院になった。名古屋市南区という製造業が盛んな地域に立地している。主として高度急性期医療を担う約400床の病院だ。病院は入院医療や救急医療に特化。毎日千人の患者が訪れる外来を分離し、サテライトでも複数の診療所が対応する。宏潤会は、グループとして病院と診療所のほか、老人保健施設、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所、特別養護老人ホームを有し、地域包括ケアネットワークの構築に寄与している。
 大同病院はICT の活用で有名だ。早くから電子カルテを導入し、その機能を拡張する形で病院全体のシステム化を進めてきた。無線LANでモバイル端末をつなぐシステムにより、院内はもとより院外でも患者の医療情報を閲覧できる環境を整えている。
 昨年4月には、患者が自分の端末で自分の検査値や処方を確認できる「カルテコ」というサービスを導入した。
 カルテコは、病院と患者が診療情報の一部を共有することで、患者が自らの診療情報を保存・閲覧できるようにするWEBサービス(図1参照)。病院受診後に、スマートフォンなどの端末で、「医療機関情報」「症状リスト」「傷病名」「検査結果」「診療中に使われた薬」「処置・手術」「処方された薬」などをみることができる。メディカル・データ・ビジョン株式会社が提供するCADA(カーダ)という医療情報統合ICカードに登録することで、利用できる。


加藤彰裕部長

 自分の病気であれば、ある程度は把握していても、家族の病名や薬などの受診記録を覚えているのは難しい。子どもを医療機関に連れて行って医師に過去の受診状況をきかれたときに、カルテコをみれば正確な情報を伝えることができる。専門用語の多い診療内容を記憶しておくのは容易ではないが、カルテコはそれを助け、病気を理解し、共有するのに役立つ。
 カルテコで閲覧できる診療情報は、電子カルテの情報のごく一部であり、どこまで情報共有を図るかは今後の課題でもある。それでも、患者・家族の利便性は大きいと加藤彰裕事務局部長は考える。病気の受診でなくても、健診を受ければ、それが時系列で記録される。「健康管理や生活習慣の改善にも有効だ」(加藤部長)。
 カルテコを利用する前提となるCADAの登録者数は今500人ほど。大同病院では、近く診察券やクレジット機能との統合も計画している。

 試行錯誤で進めたICT活用
 ICTの活用は、病院の様々な領域に及んでいる。ICT化の取組みについて、加藤部長にきいた。「今でも病院は閉鎖的なイメージがあると思います。しかし時代は変わり、患者は自らの医療情報を知りたいと考えています。医療情報の共有が求められていて、情報通信技術がそれを可能にしました。病院の業務を便利にするだけでなく、どうすれば医療の質を向上させ、患者の役に立つことができるかを、病院として追求してきました」と話す。
 医療情報を患者と共有しようという考えを打ち出したのは、前理事長の吉川公章氏だ。前理事長の理念を病院全体で共有したことが、ICT活用を進める原動力になったという。
 しかし、これまでの歩みを振り返ると、「試行錯誤の連続でした」と加藤部長は苦笑する。30年前の1988年に、医事会計システムを導入し、2003年に検査や処方など一部業務を電子化するオーダリングシステムを取り入れた。電子カルテは外来で2006年、病院で2007年に採用した。
 2011年に電子カルテを中心とした全体のシステムを更新した。その後、周辺機器のネットワークを含む機能を拡張しながら、2017年に新たなバージョンAZ(all zone)に移行。現在に至る。
 当初、システム部門の職員は加藤部長を含め2人だった。2人で全職員の1,000台のパソコンを管理した。これだけの数があると故障は頻繁におこる。すぐに交換する必要があるので、業者と連携してサーバ室に最新の状態で使えるパソコンを数台確保した。2人で各部署の様々な問い合わせのすべてには応えられないので、部署ごとにICTに詳しい職員を巻き込んで仲間にし、育成した。次第に、病院全体のICTリテラシーも向上していったという。
 ICTリテラシーが向上してもシステム部門が暇になることはない。最近、患者の食物アレルギーを電子カルテに入力した後、次の食事ですぐ対応できる機能を求める要望があった。情報共有の時間差から生じる不具合の是正など、さまざまな要望がある。職員は6人になり、かつてより体制は整ったが、忙しさは相変わらずだ。システムが法人業務全体をカバーしているので、業務改善はシステム上で対応する必要がある。

 VPN接続やFMCサービスを採用
 大同病院のICTシステムをみていこう。まずは、充実したインターネット、イントラネットの環境がある。
 例えば、VPN(Virtual Private Network)接続により、高いセキュリティを確保しながら、院内・院外の端末から無線LANで、電子カルテなど患者の診療情報を閲覧できる。セキュリティを高くすることで、仮想のプライベートネットワークを可能にしている。院外でも使えるので、施設間の移動や在宅医療でも、診療情報を閲覧することができる。
 VPN接続により、ID‒Linkも利用できる。ID‒Linkは、株式会社エスイーシー(SEC)が開発した地域医療連携のためのネットワークサービスだ。電子カルテの情報をVPNを介して地域で共有するサービスで、電子カルテシステムを持たない診療所でも閲覧できる。救急などの場面で、専門医の判断を求める際に有効だ。宇野雄祐理事長が、現場の臨床医だった頃の経験を語ってくれた。
 「私は消化器外科ですが、当直時に頭を強く打った患者が搬送されました。脳外科の専門医が当直していない場合など、ID‒Linkを通じて、検査画像を送り、自宅で診てもらうことで、緊急性を判断できました。ID‒Link導入以前は、判断が難しいケースでは、専門医に病院に来てもらっていたので、大きな違いがあります」。
 ID‒Linkは、大同病院・診療所と他の診療所との情報共有でも活躍する。現在、10施設ほどと情報を共有することで、継続診療に役立てている。


図1 カルテコの画面

 院内の携帯電話は、最新のサービスを導入して利便性を高めている。以前は、PHSと固定電話を併用する仕組みだったが、2016年にスマートフォンと固定電話やPHSを併用するFMCサービスに移行した。
 従来の仕組みでは、エレベータや階段でフロアをまたぐ移動の度に、通話が切れる不便があった。FMCサービスでは、通信圏内であれば、直接の内線通話になるので、混乱が少なくなったという。
 なお、病院内は電波に敏感な機械があるため、無線通信機器に関する規制がある。2015年に、スマートフォンを使用しても問題がないとの判断が示され、規制が緩和された。これを受け、大同病院はFMCサービスに移行した。
 患者にとっては、Wi ‐ Fi環境が、院内で完備されていることが大きい。インターネットを通じ、動画通信などを、各自の端末で快適に楽しむことができる。


宇野雄祐理事長

 大同病院は業務全般にICTを取り入れている。書類のペーパーレス化にも取り組み、様々な診療記録は基本的に電子化し、紙では保存しない。DACS(ダックス)というシステムを導入して統合管理を行っている。同意書など患者に紙で手渡し、確認してもらう必要のある書類についても、確認後は電子認証を行った上で、電子化し保存している。

 ICTを医療安全に役立てる
 宇野理事長は、ICTの活用により、利便性が向上し、業務が効率化したと判断している。しかし、ICTは導入時の負担が大きい一方で、費用対効果の定量的な評価が難しいという。診療報酬で収入につながるわけでもない。「費用対効果が明確でないことが、多くの病院がICT活用に躊躇する要因ではないか」と推測する。
 その一方で、ICTは業務効率化だけを目的とする時代は過ぎ、医療安全などに役立てる段階に来ていると宇野理事長は指摘する。「医療の高度化に伴い、関わる人が増え、業務フローも複雑になる。その結節部にICTをうまくはめ込んで、業務自体を変えていく必要がある」と述べる。今後はAIやゲノム医療などへの対応も求められる。技術革新を医療現場に取り込むことが課題となる。
 病院の業務全般で、ICT活用に取り組んできた大同病院。今後は、介護との連携が課題だが、近く医療と介護を統合するシステムも完成する予定だという。信頼される病院となるには、病院の透明性を高め、患者と診療情報を共有していく必要がある。こうした大同病院の理念が積極的なICTの取組みを支えてきたと言えそうだ。

 

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