全日病ニュース

認知症と身体疾患を併せ持つ患者への対応で報告書

【高齢者医療介護委員会】意思確認困難な患者の対応について議論が必要

　「認知症の症状が進んできた段階における身体合併症に関する調査研究事業報告書」がこのほど、高齢者医療介護委員会でまとまった。2018年度の老人保健健康増進等事業として実施したもの。報告書は、増え続ける認知症患者に対応するため、それぞれの医療機関が認知症患者の治療・ケアに対応する知識・技術を持つこととあわせて、意思確認が困難な患者の対応について国全体で議論する必要があると提言している。

入院医療に求められる対応
　高齢化の進展に伴い、認知症を有する人の数は増加を続け、2015年に500万人を突破し、2025年には約700万人に達すると推計されている。認知症を有する人の大半は高齢者であり、認知症と身体疾患を併せ持つ患者の増加が見込まれている。
　入院医療において、認知症と身体疾患を併せ持つ患者に適切な対応を行うためには、精神科以外の病床における行動・心理症状（BPSD)への対応力を高める視点や、精神科の病床における身体合併症への対応力を高める視点のほか、精神科と精神科以外の医療機関の連携をとる視点が重要である。
　調査研究事業では、一般・療養病棟（2,800施設）と精神病棟（770施設）を対象とするアンケート調査を行った。一般・療養病棟では、◇認知症を有する患者の対応状況や◇意思確認の困難な重度の認知症を有する患者の対応について調べた。また、精神病棟では、身体合併症を有する認知症患者の受入れ困難や対応について聞いた。
　調査結果の主な内容をみると、次のとおりである。○一般・療養病棟において、対応困難となりやすい認知症のBPSDとしては、徘徊・帰宅願望が最も多く、次いで治療・処置への抵抗、職員への暴力、奇声・大声が多い。○BPSDにより対応困難となった際にとられる対応として、身体拘束や行動を落ち着かせるための薬剤投与が、多くの病棟で行われている。精神科への転院・転棟要請を行う病棟は少ない。○認知症により本人の意思の確認が困難な患者の場合、家族・親族の希望や家族・親族を通じて確認した過去の本人の意思が治療や延命の方針の判断材料とされることが圧倒的に多い。○精神病床を有する病院では、手術や重度の代謝疾患への対応を困難とする病棟が多い。また、身体疾患により自院での対応が難しい患者の受入れを希望する病棟が多い。
　これらの調査結果を踏まえ、報告書は以下の提言を行っている。
（1）患者情報の的確なマネジメント
　認知症患者が入院する理由は、「身体疾患の発生・悪化に伴う緊急入院」であることが多く、在宅からの入院が多い。認知症の患者は、日常生活の変化によって症状が悪化することがあるため患者の状況をしっかりアセスメントし、対応を検討することが必要である。
（2）精神科がない場合の支援体制の充実
　BPSDにより対応が困難となった場合の対応として、「薬剤の服用」「身体拘束」が上位にのぼっている。本来なら、職員が常時付き添ったり、患者の要望にこまめに対応するなど、寄り添いのケアを行うことが望ましいが、現状の人員体制では対応が難しい。地域全体で認知症患者に対応する支援体制を構築することが望まれる。
（3）意思確認が難しい認知症患者への対応に関する国全体の議論の必要性
　意思確認が困難な場合の判断基準や方針を定めていない病院が多いが、これらの方針を個別の医療機関が決定することは負担が大きく、国全体で議論することが必要である。大幅に増加する認知症患者に対応するには、医療機関間の連携を進めるとともに、それぞれの医療機関が認知症患者の治療・ケアに対応できる知識・技術を持たなければならない。