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ホーム全日病ニュース(2019年)第943回/2019年7月1日号医師の地域偏在・診療科偏在は、どのような過程を経て進んだか?...

医師の地域偏在・診療科偏在は、どのような過程を経て進んだか?

医師の地域偏在・診療科偏在は、どのような過程を経て進んだか?

【●特別寄稿●】国際医療福祉大学赤坂心理・医療マネジメント学部長 高橋泰

 筆者らのチームは、厚生労働省に対し1996 ~ 2016年の「医師・歯科医師・薬剤師調査」(いわゆる三師調査)の調査結果の情報開示請求を行い、地域ごと、診療科ごとなどの医師数の推移を分析し、その結果を日医総研のワーキングペーパーや、社会保険旬報などで紹介してきた。今回は、これまで発表してきた内容の概要を紹介する。

医師国家試験合格者数の推移
 図1は、医師国家試験合格者数の年次推移を示している。1946年の第1回医師国家試験から2018年に行われた第112回試験までに43万6,309人の合格者が輩出された。1952年(昭和27年)から1974年(昭和49年)にかけては、3,000人から4,000人のペースで、毎年医師が輩出されてきた。その後、1970年の秋田、杏林、北里、川崎医大の医学部の新設を皮切りに1979年の琉球大学まで1970年代に32大学で医学部が新設され、その結果、1970年に新設された医学部の第1期生が卒業した1976年から、1979年に新設された医学部の第1期生が卒業した1985年にかけて医師国家試験の合格者数は4,000人から8,000人に急増した。その後1985年から2015年にかけての30年間は、8,000人±500人程度で推移していた。その後2009年に医学部定員増が打ち出され、その成果が本格的に表れる2018年からは、9,000人程度の合格者が輩出されることが予想される。
 ここでは、医師国家試験合格時の年齢が全員24歳であったと仮定して、現在の20歳代(2010年から2019年卒業までの予測数を含む)、30歳代(2000年から2009年卒業)、40歳代、50歳代、60歳代、70歳代、80歳以上の各グループの合格者数を試算したところ、20歳代83,400人、30歳代77,217人、40歳代78,965人、50歳代79,724人、60歳代48,435人、70歳代33,009人、80歳以上38,430人となった。この現在50歳代と60歳代と70歳代の医師国家試験合格者数の大きな差が、医師数の将来予測などに大きな影響を及ぼす。
 この図でまず認識してほしいことは、若い医師が増加した時期はきわめて限られていたことである。図1に示すように1970年代、医学部32校が新設され、国試合格者数が70年代の4万8,435人から80年代の7万9,724人となり、80年代は70年代と比べ10年間で若い医師が3万人ほど増えた。しかし、その後国試合格者数は90年代7万8,965人、2000年代が7万7,217人とほぼ横ばいで推移しており、この間若い医師の数は、毎年同じ水準である。2009年からの医学部定員増の影響で2010年代は、2000年代より6,000人ほどの若い医師の増加が期待できる。
 もうひとつ強く認識したいのは、これまで退職者がほとんどいなかった新設医大の卒業生がこれから退職を始める年齢になり、今後医師の退職者数の急増が始まることである。おおまかな言い方をすれば、これまでは毎年8,000人くらいの新人医師が生まれ、4,000人ほどがリタイアしていたので、1年当たりの医師数の「純増」は4,000人ほどだった。しかし今後10年は医学部定員増の影響で9,000人の新人医師が生まれるものの、6,500 ~ 7,000人の医師がリタイアしていくと考えられ、純増は2,000 ~ 2,500人ほどしか見込めない。従来のような年間4,000人の医師の増加を期待できなくなる。
 医師の増加スピードが鈍ることに加え、働き方改革や女性医師の更なる増加などを考えると、厚労省が予測しているように医師の労働力は増えず、むしろ地域、診療科によってはこれまで以上に深刻な医師不足が生じると、筆者は予想している。

図1 医師国家試験合格者数推移

地域偏在は、なぜ起きたのか
 1996 ~ 2016年の20年間で全国の医師数は24万908人から31万9,480人へと33%増えた。また、大都市医療圏41%増、地方都市医療圏30%増である一方、過疎地はわずか4%増である。
 図2は、「過疎地域」勤務比率の性年齢階級別の推移であり、例えば、1996年には、20歳代の男性勤務医の8%、女性勤務医の3%が過疎地に勤務していたことを示している。この図より、(1)1996年から2016年まで女性臨床医の過疎地勤務比率は、男性医師と比べ一貫して低い(2)近年、若い男性臨床医の過疎地勤務比率が、急激に低下していることが読み取れる。もともと過疎地での勤務比率が低い女性医師の増加と、男性若手医師の過疎地勤務比率の急速な低下が相まって、過疎地の若手医師が急減している。

図2 「過疎地域」勤務比率の性年齢階級別推移

深刻化する「外科医」不足
 今後の医療提供体制に大きな影響を及ぼしそうな診療科を抽出し、その30歳代の医師数の推移を図3に示す。例えば、30歳代の小児科全体の医師数は1996年から2016年の20年間に25%増加しており、その増加は女性小児科医の増加によるものである。外科総数(外科、乳腺外科、消化器外科(胃腸外科)、肛門外科、気管食道外科、呼吸器外科を標榜科とする医師の総数)、脳神経外科、整形外科は、男性医師が大きく減少しており、女性医師は2~3倍と大きく増加しているが、男性医師の減少を補っていない。30歳代の眼科、耳鼻科医師は全体で36%、31%の減少であるが、特に男性医師の減少が顕著である。産婦人科や放射線科は全体で増加しているが、男性医師の大幅な減少を上回る女性医師の増加の結果である。麻酔科も急増したが、男性が2%減少となった一方で、女性が247%増加し、30歳代では女性医師の数が男性医師の数を上回る状況になった。
 とりわけ事態が深刻なのは「外科」だ。表1に示すように、まず総数では1996年で2 万6,070人、2016年で2 万4,073人。内訳を見ると男性は2万5,442人から2 万1,982人と3,460人の減少、女性は628人から2,091人と1,463人の増加となっており、男性の減少分を女性の増加分がカバーし切れていない状況が読み取れる。
 これに先ほど述べた医師の大都市志向が重なった結果、16年の大都市では30~ 40代の男性外科医と女性外科医が多く、過疎地域では50代男性外科医が多いという現象が生まれている。また16 ~ 26年では大都市は外科医の増加が期待でき、若手医師が加わることにより、外科医の年齢構成も16年と大きく変わらないと予測される。
 一方、過疎地は若手外科医が増えず、外科医の大幅な減少と更なる高齢化の進行により、現在の主力である50代医師が60代になっても主力となって外科を運営せざるを得ない状況が予想できる。実際、地域によってはこの事態が既に起きている。私が訪問したある地域の総合病院では、外科医3人が常勤していたが、一番若手が55歳、あとの2人は60歳代だった。
 この病院の光景は今後、全国で見られるようになると考えられる。現在の50~ 60代がリタイアすれば過疎地では一気に医師がいなくなるし、更にいえばリタイアせずとも、この5~ 10年で地域内に外科手術を行える外科医がいなくなる地域が続出することを想定しておかなければならない。
 外科医の減少に早急な対応がなされない場合、「肺癌で手術を受けたいと思っても日本国内では半年待ちなので、外国で手術を受ける」という近未来図も覚悟しなければならないだろう。

図3 30歳代医師の診療科別・性別の人数推移(特徴的な診療科を抜粋)

表1 外科医数の1996年→2016年の推移および2026年の予測

診療科ごとの医師数を踏まえた地域医療論議を
 今回は、地域偏在と診療科偏在に話を絞ったが、今回の調査では、全二次医療圏の医師数の現状や推移を明らかにした。例えば、北海道北部の宗谷医療圏には、小児外科、心臓血管外科、形成外科、耳鼻咽喉科、泌尿器科、リハビリ科、放射線科、麻酔科、救急科を標榜する常勤医師がいない。この地域のこれらの診療科の医療を必要とする患者は市立稚内病院などに週数回、他の医療圏から派遣されてくるこれらの科の医師の外来を受診し、手術などの医療が必要なときは、旭川や名寄の病院まで3時間以上かけて受診している。このような地域ごとの医師の状況に興味のある方は、「日医総研 医師数データ集」で検索を行い、二次医療圏別医師数データ集-医師の地域別・診療科別偏在と将来推計に関する地域別報告-を開き、関心のある地域の医師の動向を参照されることを勧める。

 

全日病ニュース2019年7月1日号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
  • [1] 第4次中間取りまとめ(概要版・案)|第937回/2019年4月1日号 HTML ...

    https://www.ajha.or.jp/news/pickup/20190401/news08.html

    2019年4月1日 ... 医師偏在指標は医師確保計画と同様に3年(初年度は4年)ごとに見直し、都道府県の
    医師確保 ... 医学教育モデル・コア・カリキュラムや医師国家試験におけるプライマリ・
    ケアや地域教育等の重視・地域 ... (5)医学部における地域枠・地元出身者枠の設定(
    省略) ... (6)診療科ごとの将来必要な医師数の見通しの明確化(省略)

  • [2] 専門医の在り方に関する検討会「中間まとめ」について

    https://www.ajha.or.jp/topics/admininfo/pdf/2012/120905_4.pdf

    2012年8月31日 ...医師丌足・地域偏在・診療科偏在の是正への効果. ⑤医師養成 ... (1)医師養成
    に関する他制度(卒前教育、国家試験、臨床研修)との関係について……8. (2)国の
    ..... 松尾 清一 (名古屋大学医学部附属病院長) ...... 大半の大学において共用試験
    進級要件として利用しているが、合格基準は大学により異なることが課題。

  • [3] 専門研修医の東京集中が17.4%から21.7%に拡大|第932回/2019年 ...

    https://www.ajha.or.jp/news/pickup/20190101/news11.html

    2019年1月1日 ... 厚生労働省は12月11日の医道審議会医師分科会・医師専門研修部会(遠藤 ... の大学
    病院など基幹病院が関連病院に医師を派遣することが、地域の医師偏在 ... なお、2018
    年度の専門研修プログラムにおける東京の地域貢献率を診療科別にみると、 ... (1 )
    医学部定員数を基に、国家試験合格率、再受験率、医籍登録率、三師 ...

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