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ホーム全日病ニュース(2019年)第945回/2019年8月1日号人口減少社会で地域の実情に応じた診療報酬を考える...

人口減少社会で地域の実情に応じた診療報酬を考える

人口減少社会で地域の実情に応じた診療報酬を考える

【中医協総会】医療資源の少ない地域への配慮やICTの活用でも工夫を

 中医協総会(田辺国昭会長)は7月10日、2020年度診療報酬改定に向けた第1ラウンド終盤の議論として、地域づくりにおける医療のあり方をテーマとした。具体的には、地域包括ケアシステムにおける入院医療、情報連携・共有、医療資源の少ない地域等での医療提供体制の課題を論点とした。今後の人口減少で地域の姿は大きく変わる。地域の実情に応じた医療提供体制を構築する必要があり、そのための診療報酬をどう設定するかで、様々な意見があった。
 入院医療の現況を眺めると、高齢化にもかかわらず、需要全体は縮小傾向にあるのがわかる。まず、外来患者数は横ばいだが、入院患者数は減少傾向にある。外来受療率と入院受療率は0~ 14歳を除き、概ね横ばいから減少傾向である。人口10万人当たりの病院数・病床数はともに減少傾向。総病床数も減少している。いずれの病床区分でも平均在院日数は減少傾向にある。
 一方で、医療の単価は上昇している。平均在院日数が全体として低下傾向にあるのに対し、1日当たりの医療費は増加傾向にあり、医療費全体は若干増えている。入院と入院外(外来+在宅医療)の比率に大きな変化はない。開設者別の病院病床数の割合は、医療法人が5~6割で最も多く、構成割合に大きな変化はない。
 都道府県別では、病院病床数にばらつきがある。人口10万人当たりの病院病床数で、最も少ないのは神奈川県の806床で、最も多い高知県の2,545床の3分の1だ。ただ、診療側の委員は「高知県は介護施設が少なく、医療と介護を合わせたベッド数を示すべき」と指摘した。
 続いて、2040年に向けた市区町村の人口変動が示された。人口が増える市区町村も一部あるが、多くの地域で人口が減少する。しかも激減となる地域が少なくない。例えば、人口が25万人を超える函館市でも約26万6 千人(2015年)が2040年に3割ほど減る。人口が10 ~ 20万人程度で、2040年度までに3割超の人口が減少する市としては、小樽市、石巻市、鶴岡市、桐生市などがある。人口が3万人を下回る町村では、6割以上減少する町村がある。
 厚生労働省はこれらの状況を踏まえ、2018年度改定で実施した入院医療の報酬体系の抜本的見直しの方向性の下で、今後の診療報酬のあり方を論点とした。あわせて、地域医療構想の実現に向けて、公立・公的医療機関の医療機能を見直すための改革プランで合意し、その具体的方針を毎年度、地域医療構想調整会議で決定する方針になっていることを説明した。
 また、その関連で医療資源の少ない地域等における医療提供体制が論点となった。医療資源の少ない地域に対しては、一部の診療報酬項目で要件緩和を行うなど配慮している。2012年度改定で導入し、その後の改定でも拡大を図ってきた。2018年度改定では200床未満に加えて、許可病床400床未満の病院も対象に追加するなどの見直しを行っている。
 ただ、算定回数は増加傾向にあるものの、一部の算定項目は使われていない。例えば、ベッド数の基準を緩めている地域包括ケア病棟入院料・管理料や専従要件を緩和した外来緩和ケア管理料などは算定の実績がない。
 医療資源が少ない地域へのヒアリング調査の結果では、診療提供体制の状況として、「専従要件が緩和されても職員の絶対数が不足する」、「社会福祉士が不足している」、「e-ラーニングによる研修がありがたい」、「遠隔診療の導入を予定」、「医師事務作業補助者が非常に有用である」などの回答が得られている。
 全日病会長の猪口雄二委員は、本格化しつつある人口減少社会の現状を踏まえ、当初、医療資源の少ない地域を指定したときの状況が変わってきていることを指摘。その上で、「診療報酬は『都市』での医療提供体制を想定し体系ができていると思うが、今後はむしろ『非都市』における診療報酬を考えることが重要になる」と述べた。アンケート調査に対しても、「一定の緩和を行っても、地域によっては、絶対的に人が不足しているという現実がある」と対応を求めた。
 猪口委員の意見に同調し、支払側で静岡県島田市長の染谷絹代委員は、「人がいなくなることが地域にとって最大の問題。地域の実情に合った診療報酬が必要」と訴えた。日本病院会副会長の島弘志委員は、「人口が激減する地域で医療機関の経営が成り立つかという問題がある。人がいなければ、患者も生まれず、医療機関も必要ないということになるが、人がいれば医療は必要だ。地域の実情に合わせるために、最大公約数的な診療報酬体系と、テイラーメイド的な診療報酬が必要かもしれない」と述べた。
 地域医療構想と診療報酬との関係については、日本医師会の城守国斗委員が、「地域の実情が様々であることからも、(全国一律の)診療報酬で地域医療構想を誘導するのは無理がある。地域医療構想に寄り添う形で診療報酬があるという認識の共有を強く要望する」と念押した。一方、支払側の協会けんぽの吉森俊和委員は、「地域医療構想は2025年を想定したベッド数の変化をみても、ほとんど進展していない。これをどう推進するかが課題で、診療報酬が寄り添い、後押しすることが必要」と強調した。
 また、支払側の連合の平川則男委員は、「地域医療構想の進め方が公的・公立医療機関の整理に偏っている。骨太方針2019では、『民間医療機関についても、2025年における地域医療構想の実現に沿ったものとなるよう対応方針の策定を改めて求める』と明記しており、政府の危機感の表れだと思う。民間病院も対象とした地域医療構想の推進に向け、診療報酬で何ができるかを考えるべきだ」と述べた。

医療情報を標準化しICTを活用
 地域における情報共有・連携の課題では、医療機能に応じた医療機関間の連携の現状とともに、それを進めるための医療情報の標準化や地域医療情報連携ネットワークの事例が示された。
 診療報酬では、在宅復帰や病床機能連携が進むよう入院料の施設基準において、在宅等に退院した患者の割合を設定している。2018年度改定では、必ずしも在宅に退院するわけではないので、「在宅復帰率」を「在宅復帰・病床機能連携率」に名称を変更するとともに、割合の引上げなどを行った。
 各入院料の病棟の患者の流れをみる。急性期一般病棟1では、入棟元は「在宅医療の提供なし」の自宅が66.5%で最も多く、退棟先も在宅医療なしの自宅が60.7%で最も多い。地域包括ケア病棟・病室では、入棟元は自院の一般病床が43.5%で最も多く、退棟先は在宅医療なしの自宅が49.4%で最も多い。回復期リハビリテーション病棟では、入棟元は他院の一般病床が66.9%で最も多く、退棟先は在宅医療なしの自宅が51.1%で最も多い。療養病棟では、入棟元は他院の一般病床が44.6%で最も多く、退棟先は死亡退院が52.4%で最も多い。
 医療情報の標準化については、一般病院の電子カルテシステムの普及率は37.0%であり、標準規格については検査や処方・注射オーダなどで標準マスターの整備などを進めていることが示された。10月には、国の指定する標準規格を用いて相互に連携可能な電子カルテシステムを導入する経費などを補助する医療情報化支援基金が発足することも報告された。
 猪口委員は、「相互に互換性のある電子カルテシステムの仕様になっていないものが多い。国がもっと積極的にメーカーなどに働きかけて、システムの統一を進めてほしい」と要望した。
 地域医療情報連携ネットワークについては、大分県臼杵市のクラウド型EHR高度化事業や長崎県の「あじさいネット」などが紹介された。特に、医療資源の少ない地域などで、ICTの有効活用が期待できる。このため、委員からは、「遠隔医療としてのオンライン診療と(勤労者を主に想定した生活習慣病の治療など)そうでないオンライン診療を区別して議論し、ICTを活用した医療への診療報酬での対応を図るべき」との意見が出た。

 

全日病ニュース2019年8月1日号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
  • [1] 全日病ニュース・紙面PDF(2017年2月15日号)

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2017/170215.pdf

    2019年2月15日 ... 働省が入院受療率や平均在院日数、許. 可病床数の .... の意見分かれる. 神野副会長
    が四病協の考えを説明. 働き方ビジョン検討会. 中医協総会. 次期改定に向け入院医療
    の議論に着手 .... するほか、被用者保険から市町村国保. への委託を ...

  • [2] 特定除外に該当する入院患者実態 調査結果

    https://www.ajha.or.jp/topics/4byou/pdf/131007_4.pdf

    2013年9月18日 ... 定除外に該当する患者は、イ)平均在院日数の算定の対象として 13 対 1 また. は 15
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    少なく、. 公的医療機関(日赤、 .... 全国:在宅療養支援病院は「在宅医療(その1)」(
    2013年2月13日, 中医協総会資料)から2012年7月1. 日時点。合計は「 ...

  • [3] 全日病ニュース・紙面PDF(2013年6月1日号)

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2013/130601.pdf

    2019年3月1日 ... 5月16日の中医協・診療報酬調査専門組織「入院医療等の調査・評価分科会」に、事務.
    局(厚労省保険局医療 ... 7対1については、①算定病院間で平均在院日数に差がある、
    ②介護施設等から入る患. 者に他入院患者とは ..... 可能になり、近隣市町村や他県との
    比. 較評価もできる。 ..... 中医協総会. 平均在院日数の計算に影響。「データが不足」
    診療側は慎重姿勢. 「基本診療料の議論を再開せよ」. 診療報酬審議で ...

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