全日病ニュース

「地域枠」の医師５名に対し「妥当ではない」と判断

【医道審・臨床研修部会】採用した臨床研修病院にペナルティ

　医道審議会医師分科会・医師臨床研修部会（桐野高明部会長）は７月３日、地域医療への従事要件が課されている「地域枠」で医学部に入学したにもかかわらず、従事要件が課された地域以外の臨床研修病院に採用された５人の全員を「妥当ではない」と判断した。医師本人に対するペナルティはなく、採用した臨床研修病院への補助金減額などが今後検討される。
　今回、「地域枠」の趣旨に合わない臨床研修医を採用した臨床研修病院として、同部会への出席を求められたのは、◇東京医科大学病院（東京）◇新松戸中央総合病院（千葉）◇製鉄記念広畑病院（兵庫）◇相模原協同病院（神奈川）◇沖縄県立南部医療センター・こども医療センター─の５病院。
　「地域枠」では基本的に、医学部入試の段階で一般入試とは別枠で応募・採用が行われ、医師になれば卒後、特定の地域に勤務し地域医療に従事するという要件が課される。就学金が貸与されることが多いが、奨学金貸与がない場合もある。
　政府は医師不足問題を背景に医学部入学定員に占める「地域枠」の人数を増やしてきた。2017年度で9,420人の医学部定員のうち、17.8％の1,674人が「地域枠」である。
　ただ、これまでの「地域枠」では、「一般枠」と「地域枠」を厳密に区別せずに「地域枠」で採用していた大学医学部や、地域医療従事要件を明確に定めていない場合などがあった。このため、「地域枠」で医学部を卒業しても、医師が足りない地域の地域医療に従事せず、地元の都会に戻ってしまうケースなどがあった。
　また、「地域枠」における奨学金貸与の契約は、民法に基づく金銭賃借契約のため、奨学金を返せば、地域医療従事要件は解除されると考える医師もいるという。厚労省は民法上の法的責任はなくても、道義的責任は残るとの考えを示している。
　医師偏在対策を進める上で、「地域枠」の役割はますます重要になる状況にあり、「地域枠」の運用の厳格化が求められている。
　５病院からのヒアリングによると、各病院で都道府県との連携不足や研修医自身の説明不足など様々な事情があったものの、「地域枠」の趣旨が十分理解されているとは判断されず、いずれについても「妥当ではない」との結論になった。全日病副会長の神野正博委員は、「地域枠学生は地域医療に従事することを希望した別の学生を落として、医学部に入学した。奨学金は返したとしても地域医療に従事しなければ、道義的責任がある」と述べた。
　また、現状で、医師本人に対するペナルティはなく、採用した臨床研修病院に対してのみペナルティがある。このため、「地域医療従事要件を果たさないと卒業できないなど、医師本人に対するペナルティも検討すべき」と主張した。
　５病院に対して「妥当ではない」との結論になったため、厚労省は今後、補助金減額などのペナルティを検討する。ただ、入学当時の募集要項に明確な地域医療従事要件を書かなかった大学医学部もあり、ペナルティには軽重が設けられる見通しだ。

JAMEPのGM-ITEを議論
　同日は、シームレスな医師養成に向けた対応として、臨床研修における臨床能力評価体系も議論した。NPO法人日本医療教育プログラム推進機構（JAMEP）による基本的臨床能力評価試験（GM-ITE）についてヒアリングを行った。
　医師の養成においては、臨床実習と臨床研修の充実を通じ、基本的な診療能力の習得が早期に可能になる体制を目指している。ただ、現行の臨床研修では明確な評価の基準がない。一方で、昨年成立した改正医療法等は、公布後３年以内に、医師の資質の向上がより実効的に図られるよう、臨床研修のあり方を検討することを要請した。
　ヒアリング後の議論の結果、臨床研修医の評価として、JAMEPの基本的臨床能力評価試験等の客観的能力試験の活用を推奨することを了承した。なお、令和２年度から臨床研修制度を大きく見直すことになっている。