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ホーム全日病ニュース(2019年)第945回/2019年8月1日号医師養成過程を通じた偏在対策や働き方改革を議論...

医師養成過程を通じた偏在対策や働き方改革を議論

医師養成過程を通じた偏在対策や働き方改革を議論

【社保審・医療部会】応召義務の研究で個別事例を整理

 厚生労働省は7月18日の社会保障審議会・医療部会(永井良三部会長)に、医師養成過程を通じた偏在対策や医師の働き方改革関連の最近の動向を報告した。地域医療構想と偏在対策、働き方改革を三位一体で推進することを厚労省は目指すとしている。しかし、医師偏在対策や医師の働き方改革が医療提供体制に与える影響は大きく、実現の難しさを懸念する意見が委員から相次いだ。
 医師養成過程を通じた偏在対策としては、①医学部入学時点②医学部教育③臨床研修④専門研修⑤開業時の対応がある。
 入学時点では、医師が少ない地域で働くことを義務づける「地域枠」の拡充を図る。具体的には、医学部入学定員のうち、新たな医師偏在指標で設定される医師少数区域等に勤務する地域枠・地元出身者枠を増やすとしている。2022年度以降の医学部入学定員は改めて医師需給推計を行った上で、検討することになる。
 これに対し日本医療法人協会副会長の太田圭洋参考人は、「働き方改革を行える人員を確保するためにも、2022年度以降の医学部入学定員の見直しでは、医師を増やす方向での議論が必要」と抑制の方向性の再考を求めた。
 また、他の委員は、「外国の医学部を卒業し日本に戻る医師が増えて年百人単位で一学校分に相当する規模になったときく。入学定員の人数が問題になる中で何らかの対応が必要」と指摘した。外国の医学部を出て、日本の国家試験を受け医師になる学生が、ハンガリーなど東欧で特に増えているという。厚労省は「問題意識はある」との見解を示し、今後何らかの対応が必要であるかを検討する姿勢を示した。
 学部教育では、医師免許取得後にできるだけ早く臨床に携われるよう、実習に重点化した共用試験を重んじた共用試験(CBT・OSCE)を公的にすることや、医学生が行うことができる医行為の拡充を検討する。
 これに関して、日本精神科病院協会会長の山崎學委員は、「医学部段階でスチューデントドクターとして侵襲性の高い医行為を行うのであれば、医師の仮免許のような仕組みが必要ではないか」と質問した。厚労省は検討次第で、「法的な対応が必要になる可能性がある」と説明した。
 臨床研修では、必修診療科、臨床研修病院、マッチングの設定方法などを見直す。都道府県別の募集定員上限の変更でも、大都市のある都府県への偏在を防ぐ上限設定をさらに厳しくする方向だ。専門研修でも、日本専門医機構が行う研修で、医師の過不足に応じた都道府県の診療科別上限数を設けるとともに、医師不足県に配慮した研修プログラムを作成する。
 委員からは、総合診療専門医の育成に期待する意見とあわせ、今後順調に増えていっても、当面の医師不足に対応するのは時間的に無理であるため、総合的な診療能力のあるかかりつけ医や病院勤務医をどう増やしていくかが課題との意見が相次いだ。
 開業時については、診療所の開業が都市に集中していることを踏まえ、開業の際に外来の充足状況を伝える仕組みをつくり、それでも開業を選ぶ場合に在宅医療などの実施を求める。ただ、厚労省は、開業を規制するものではなく、開設者の自主的な判断を促す仕組みであることを強調した。

医師の働き方改革はパンドラの箱

 医師の働き方改革に対しては、「医師の働き方改革に関する検討会」が報告書をまとめたことを踏まえ、医事法制での対応をまとめ、来年の通常国会に法案として提出するために、「医師の働き方改革の推進に関する検討会」などを開催し、検討を進めていることが報告された。
 委員からは、「医師の働き方改革は医療界のパンドラの箱を開けるようなもの。今まで病院は医師のサービス残業や過重労働に頼る現状があった。それを変えるのであればきちんとした給料を払える診療報酬が必要だ」、「過重労働などで吸収してきたスポンジのようなものがなくなってしまう。それを他で吸収できるかというと難しい」などの懸念が改めて示された。

応召義務の法的解釈で個別事例示す

 同日の医療部会に、「医療を取り巻く状況の変化等を踏まえた医師法の応召義務の解釈に関する研究」の結果が報告された。
 2018年度の厚生労働研究事業として、岩田太主任研究者(上智大学教授)を中心とした研究班がまとめたもので、「医師の働き方改革に関する検討会」に中間整理との位置づけで昨年9月に説明した内容に追加している。応召義務に関する概念的な整理は変わらないものの、「診療しないことが正当化される事例」を具体例で示した。
 応召義務は、医師法第19条に規定されている。研究結果では、応召義務の法的性質について、①医師法に基づき医師が国に対して負担する公法上の義務だが、刑事罰は規定されておらず、行政処分の実例も確認されていない②私法上の義務ではなく、医師が患者に対して直接民事上負担する義務ではない─ことを確認した。
 一方で、医療の実態として「診療の求めがあれば診療拒否をしてはならない」という個々の医師の職業倫理・規範として機能している側面がある。社会的要請や国民の期待もある。このため、純粋な法的効果以上に、医師個人や医療界に大きな意味を持ったことが、「医師の過重労働につながってきた側面がある」と指摘した。
 その上で、応召義務があるからといって、「当然のことながら、際限のない長時間労働を求めていると解することは当時の立法趣旨に照らしても正当ではない」とした。中間整理で、このような解釈が示されたことから、医師の働き方改革を議論する上では、時間外労働の上限の設定において応召義務に捉われずに、医師の働き方の特殊性を考えることになった経緯がある。
 厚労省は今回、これらの概念的な整理を踏まえ、「個別ケースごとに改めて体系的に示すことが必要」と指摘。今回の研究報告書を基に、一覧性を持たせた解釈通知を年内に都道府県に発出し、医療機関に周知を求める方針を示した。
 今回、具体例で示された「診療しないことが正当化される事例」は、これまでの民事裁判例から、現代における正当化事由を示したもの。重要な要素として、患者の病状の深刻度による緊急性をあげ、それとの関係で診療時間や患者と医療機関・医師の信頼関係を考慮すべきとしている。
 例えば、緊急対応が必要な救急医療でも、診療時間外であれば、応急的に必要な処置を取るべきだが、原則、公法上・私法上の責任は問われない。診療した場合は民法上の緊急事務管理に当たるとした。病状が安定していれば、診療しないことに問題はない。他の診療可能な医療機関に紹介することが望ましいと整理している。
 そのほか、診療時間内であっても、クレームを繰り返すなど迷惑行為があり、信頼関係が喪失している場合は、新たな診療を行わないことが正当化される。医療費不払いでも「悪意のある未払い」であれば診療しないことが正当化される。また、医学的に入院の継続が必要ない場合は、退院させることが正当化されるとしている。

 

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