全日病ニュース

全日病ニュース

ホーム全日病ニュース(2019年)第945回/2019年8月1日号十勝型地域包括ケアシステムを目指して...

十勝型地域包括ケアシステムを目指して


開西病院の外観

十勝型地域包括ケアシステムを目指して

【シリーズ●民間病院が取り組む地域包括ケア①】医療法人社団博愛会 開西病院 理事長・院長 細川吉博

 地域包括ケアシステムを構築するには、地域に密着した医療を提供する病院の役割が欠かせない。一方、地域包括ケアシステムに標準的モデルはなく、地域の実情を踏まえて関係者がつくりあげていくものとされる。全日病会員病院の地域包括ケアの取り組みを紹介するシリーズの第1回は、北海道帯広市を拠点とする博愛会開西病院。十勝医療圏における地域包括ケアの取組みについて、細川吉博常任理事に報告していただいた。

はじめに

 NHKの連続ドラマ「なつぞら」のロケ地である十勝の人口は約35万人、牛は37万頭、広大な自然の中で暮らしている。十勝医療圏の特徴は、北海道で唯一、2次医療圏と3次医療圏が重複している地域であり、人口密度が低く、1市16町2村で構成されるが、人口10万人を超える都市は帯広市のみである。
 当院の病棟構成は急性期、回復期、医療療養型、地域包括ケア病床のケアミックスの196床であり、地域包括ケア病床は2016年4月に急性期より10床を転換した。ちょうど2016年頃からDPCの導入などに伴い、各病棟とも病床稼働率が低下した時期であった。実際のところ、地域包括ケア病床の運用を始めてから他院からの紹介で入院される割合が増え、転換当初はサブアキュートとポストアキュートの比率でみると7割近くがポストアキュートであった。他院からの紹介が増えたこともあって、高齢者の比率が高く1日の平均リハビリ単位数は、患者さんの体力的な問題でリハビリできないケースもあったが、工夫を重ねリハビリの平均単位数は増加することが出来た。また、退院先は、施設に帰る人が増える傾向にあった。

ポストアキュートから
サブアキュートへ

 当院の地域包括ケア病床数は10床と少なく、ポストアキュートの患者さんへのリハビリと退院支援に偏るきらいがあり、サブアキュート機能は地域包括ケア病床よりも急性期病棟での対応になりがちであったため、地域包括ケア病床にサブアキュートを増やす方向へ進めた。平均リハビリ単位数を保ちつつ、どうリハビリを充実させるかを考えた。疾患別リハビリの要件が1日平均2単位以上であることが、ポストアキュート機能が大半を占める理由となっており、平均単位数に届かない場合の対策を講じ、さらに疾患名のつかないリハビリを確立する必要があった。リハビリスタッフを増やし、彼らのモチベーションも上げていくことが重要であった。
 その結果、当院の急性期病棟と他院からのポストアキュート機能に加え、当院関連の施設や在宅、地域包括ケア協議会の関連の施設からのサブアキュート機能が主となり、さらに退院に向けて相談課を通じて退院支援を強化した。地域包括ケア病床を始めたことで、地域のニーズにこれまで以上に応える体制づくりが出来てきたと感じている。

医療ソーシャルワーカーが
地域包括ケアの起点に

 疾病や障がいをはじめ高齢であることで生活のし難さが生じてしまうことがある。どのような状況や状態になったとしても、その人らしく生活が出来る地域になることを願ってやまない。
 当院が医療機関として疾病に対して治療の対応をすることは当然だが、生活上の問題に対して、法人グループ内の老人保健施設やグループホーム、小規模介護老人福祉施設といった入所施設では、自宅で介護困難な方の生活の再構築にかかわっている。また、訪問看護、通所リハビリテーション、(看護)小規模多機能型居宅介護、デイサービス等の在宅サービスで住み慣れた自宅での生活を支えることが出来る場合も多い。
 しかしながら、未だに各種サービスがどのように提供されているか、当事者でなければ理解していない状況も伺える。医療側は介護の領域が、介護側は医療の領域が分からないことで齟齬が生まれることは必然であり、この溝を埋める働きが必要である。
 当院においては、医療ソーシャルワーカーの役割がこれに当たると考える。本人やその家庭の抱える様々な問題や不安に向き合い、本人や家族の持つ力を引き出しながら、地域の社会資源を活用することで住み慣れた環境での生活を継続することが主な業務である。医療機関と介護現場の橋渡しをすることも多いため、地域包括ケアシステムの構築のための起点となる役割ではないだろうか。
 医療機関においては、医師、看護師、薬剤師、リハビリ、医療ソーシャルワーカー等の多職種で患者に寄り添い、住み慣れた地域での生活が継続できる地域の実現が目標であり、願わくば当法人の取り組みが十勝の地域包括ケアシステムを牽引できるようこれからも尽力したい。

十勝地域で
入退院連携ルールを運用

 北海道総合保険医療協議会地域医療専門委員会在宅医療小委員会において在宅医療の提供体制を議論している。既存の二次医療圏の区分けでは生活実態に合致しないことや、広域になるとデータ分析がしにくいという意見から、二次医療圏と市町村の中間の「地域単位」を設定することとなった。十勝地域は帯広市、東十勝(豊頃町、浦幌町、池田町、幕別町)、西十勝(新得町、清水町、芽室町、鹿追町)、南十勝(広尾町、大樹町、更別村、中札内村)、北十勝(上士幌町、士幌町、音更町、本別町、足寄町、陸別町)に分類する修正案を提案している。行政としてもデータ集めの圏域を検討している段階で、地域包括ケアシステムの実現に向けて実情把握をしている段階であろう。
 そのような状況の中でも、より具体的な連携体制の構築を目指した取り組みの一例がある。「十勝地域における入退院時の連携ルール」の作成と運用だ。十勝地域における要介護状態の人(今後要介護状態となるリスクがある人も含めて)が、病気の悪化等を理由に病院へ入院することになっても、安心して入院・退院が出来ることを目指すとともに、そのために必要な病院、市町村、地域包括支援センター、介護保険サービス事業所の介護支援専門員が相互に連携し、医療と介護の切れ目のない支援体制を構築するため2017年度より運用を開始している。
 各病院の窓口紹介や情報提供時期、カンファレンスの開催時期の目安を示し、病院側が必要とするケアマネからの情報と、ケアマネ側が求める病院からの情報の主な内容を提示し参考様式も例示している。2019年7月に改定を行い、今後もブラッシュアップする予定となっているため、更なる連携の強化に期待したい。

地域包括ケアシステムを進める
様々な取り組み

 当会の特徴的な取り組みをいくつか紹介すると、『博愛会 地域総合支援センター ささえ愛』がある。これは、介護の相談窓口であり、相談内容に沿って様々なサービスをコーディネートし、施設や在宅のサービスを提案する。また、健康教室、予防教室などの出前講座を実施し、ワンストップ型でどんなことでもいつでも対応できる体制としている。
 次に『ありが隊』と命名した活動がある。サービスの担い手不足に対応すべく、社会経験豊富で元気な地域住民の力を借りたいと考えて始めた取組みだ。アクティブシニア世代向けに募集をしたところ、多くの応募があり、現在、総勢39名が自由に時間と曜日を選び活躍している。地元の行政でもモデルとして取り上げられた。現役世代の労働力が減少する中、出来る範囲だけでも担ってくれることに感謝し、また活動に参加する高齢者も使命感と役割をもって住み慣れた地域で元気で暮らせることをありがたいと言う。活動・活躍の場の提供が出来ている。
 また、地域での特徴的な取り組みとして、「白樺通り地域包括ケア協議会」がある。これは、帯広駅から西側の生活圏域をつなぐ「白樺通り」の沿線に事業所を構える医療・福祉・介護の10事業者によって、2015年10月に発足したもので、地域住民参加型の研修や意見交換会、職種別研修会などを年数回開催している。今年度からは地域の651床を有する急性期病院が新築移転に伴い白樺通り沿線になったことで、当協議会に参加することとなった。さらに介護事業所の新たな加入もあり、急性期から回復期へ、そして維持期及び慢性期への連携構築に一層拍車がかかることを期待している。
 毎月開催している協議会事務局会議では新たに参加することとなった開業医の先生より「施設の種類はある程度分かっても、事業所ごとの特徴や医療職の配置までは把握できず、外来での処置や内服管理等の指示出しに困ることもある。地域に根ざした医療を志して開業した自分でもこの程度なため、大きな病院の医師はもっと分からないだろう」との意見があった。医師が地域の社会資源全てを網羅的に把握することは困難であろう。よって担当介護支援専門員や病院・施設で連携業務に携わる職員が窓口となる仕組みを地域で確立することが急務であると考える。
 このほかに地域の医療・福祉・介護・行政に携わる有志が集まり、2010年7月より十勝連携の会(通称:てんむすの会)が活動している。これは「十勝型地域包括ケアシステムの構築」を目指して新たな医療・介護連携に取り組む任意団体である。「顔の見える連携」をキーワードに職種や所属機関の垣根を越えて、気軽に相談し合える場所や関係性を作るところから始まり、「誰もが安心して暮らせるまち」を実現するために多職種研修会や「ケアカフェとかち」、「見える(かもしれない)事例検討会」に取り組んでいる。2012年度~ 2014年度には有志の団体でありながら北海道の医療連携推進事業の実施団体の指定を受け「看取りの作法」「連携シート(おくすり手帳版)」「お口の課題チェック票」の成果物もある。
 最近は、専門職同士の連携促進だけではなく、地域住民を対象とした「安心看取り劇」に取り組み、十勝管内各町村や札幌市、第25回日本ホスピス・在宅ケア研究会全国大会で公演している。北海道のテレビ局にも取り上げられたこの活動は、地域包括ケアシステムの構築には住民の認識も変化しなければならないことを意識しての取り組みである。

広大な地域における
サービス提供が課題

 以上に述べた以外にも、十勝地域には様々な取り組みがあり、地域包括ケアシステムの構築に向けた関係者の意識も高い地域であると考えられる。
 しかしながら課題もある。十勝の地形は、周囲を山脈と海に囲まれ、他圏域とは隔絶されている。本州であれば一つの県に相当する広さがありながら、人口が集中しているのは帯広市と近隣3町のみといっても過言ではなく、広大な土地で訪問系や通所系のサービス提供に頭を悩ませている。訪問診療医が不足する中で、安価な施設への申し込みが殺到し、空きがあるのは高額な施設が多いという現実や、住民自体が入院を求めるため地域生活への移行が進みにくい等、課題は山積している。
 悲観するだけではなく、様々な取り組みの中でこれまで培ってきた土壌を活かし、「地域の顔の見える連携づくり」に向けて、今後一層の連携を図り、介護保険サービスの充実も大切だが、予防的な考えも取り入れ、北海道十勝の地域包括ケアシステムの構築に内側から貢献したい。

 

全日病ニュース2019年8月1日号 HTML版