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ホーム全日病ニュース(2020年)第972回/2020年10月1日号人間ドック事業を通じて健診の質の向上に取り組む 保健指導で健康づくりを支援

人間ドック事業を通じて健診の質の向上に取り組む
保健指導で健康づくりを支援

人間ドック事業を通じて健診の質の向上に取り組む
保健指導で健康づくりを支援

【シリーズ●全日病の委員会】第8回 人間ドック委員会 西 昂 委員長に聞く

 全日病の委員会を紹介するシリーズの第8回は、人間ドック委員会の西昴委員長にご登場いただきました。人間ドック委員会は、1987年に日帰り人間ドック実施施設の指定事業を開始して以来、健診の質の向上に取り組んできました。西委員長に同委員会の活動内容を聞きました。

実情調査を踏まえて人間ドック実施施設を指定
──まず、人間ドック事業について教えていただけますか。
 人間ドック事業では、日帰り人間ドック実施指定施設の指定を行っています。健康保険組合連合会(健保連)をはじめとする保険者と人間ドックの契約を結ぶために、人間ドックの施設として適切な事業所であることを確認しています。検査機器などがすべて基準に合格していることを確認し、人間ドック指定に当たっての諸条件をすべてクリアしている施設を人間ドック指定施設として指定しています。
──指定までの手順はどうなりますか。
 人間ドック指定の申請があったら、人間ドック委員会の関係者に実情調査に行っていただきます。その結果を人間ドック委員会に報告し、検討した上で、総務委員会、理事会の承認を受けて指定しています。8月21日現在の指定施設は433です。
──実情調査では、どんなことを重視していますか。
 人間ドックは、保険診療ではないので、プライバシーが尊重されていることを一番に重視しています。また、できるだけゆったりとした環境で健診を受けてもらうことも大切です。病院であれば、入院・外来の患者と動線を別にすることが望ましいですね。
 健診は、病気でない人が自分の健康状態を確認するために来るのですから、治療のために来院する人と目的が違います。病院とは違う環境で検診を受けてもらうことが大切です。
 また、病気を早期発見して治療することが健診の一番の目的ですが、利用者の多くは、異常がないことを確認して安心したいという思いで受診します。病気にならないように上手に日常生活を送り、健康を維持してもらうことが大事であり、保健指導を通じて、健康な生活習慣を支援できればと思います。

健診の質向上を目的に健診団体連絡協議会が発足
──人間ドックを実施している他団体と健診団体連絡協議会をつくっているそうですね。
 健診団体連絡協議会は、全日病のほか、日本人間ドック学会、日本総合健診医学会、日本病院会の4団体が集まり、2017年2月に発足しました。人間ドック健診を含めた各種健診の質の確保・向上を目的に、健診に関する情報の共有および各種検討を行っています。当番団体は、2年毎に交代し、現在は全日病が当番団体です。会議には、オブザーバーとして健保連も参加しています。
──発足のきっかけは何ですか。
 健保連から交渉団体として一つの団体を作ってほしいという提案があり、発足しました。検査項目の検討や健診内容の向上のためのルールなどについて、4団体と健保連が話し合う場となっています。
 これまでの取り組みとしては、2017年に「職場におけるがん検診ガイドライン策定に関する要望」を厚生労働省に提出しました。2019年5月には、日帰り人間ドックの施設要件を同協議会として統一しています(適切な健保連人間ドック健診に望まれる要件)。
──健診のルール作りでは、どんなことを話し合っているのですか。
 例えば、健診の判定結果について各団体で表現の仕方に違いがあり、統一に向けて話し合っています。A(異常なし)、B(軽度異常)、C(要医療)とランク分けするとして、同じ検査データでも、Bになったり、Cになったりすることがあります。
 ある施設では、「大丈夫でしょう」と言われ、別の施設では「もう少し検討した方がいいですね」と言われるのでは、利用者が戸惑うことになります。そのために判定区分基準の統一に向けて話し合いを進めていて、これまでの検討でかなりルールがはっきりしてきました。
──判定基準統一の見通しは、いかがですか。
 判定基準のルールについて一定の合意はできましたが、それを実施していくにはある程度時間がかかると思っています。判定基準を変更するには、コンピューターのソフトを変えなくてはならないので、そのためのコストもかかります。現在のシステムを変えるのは大変なのでシステム更新の際にソフトの変更をお願いするのが現実的と思います。
 そのほか協議会では、健診施設から健保組合等に提出するデータを統一するための統一フォーマットの作成を検討しています。厚労省が特定健診・保健指導のフォーマットを基に法定健診の統一フォーマットを作成しているので、厚労省の各種審議会の動きを注視しています。

集合契約の料金を保険者と交渉
──人間ドックや特定健診・特定保健指導を含め、保険者と集合契約の交渉をしていますが、どのような交渉しているのですか。
 健診団体連絡協議会ができてからは、協議会の場で保険者も含めて話し合いをするようになっていて、年2回、会議を開いて交渉しています。健診の費用については、健診機関として要望を提出していますが、ほとんど通らないのが実情です。ただし、消費税分の上乗せは認めてもらうようにしました。
 人間ドックに限らず医療の現場は、同じ行為をしてもかかる経費は地域によって大きく違います。人件費を含めてコストに地域差があるのですが、診療報酬はは全国一律です。集合契約の料金も同様で、全国一律で決まりますから、地域によっては厳しい料金設定になります。金額の決め方は非常に難しいのです。

人間ドック指定施設の状況を調査
──人間ドック委員会では、人間ドックの実施状況調査をしていますね。
 毎年、指定施設の状況を調査して、健保連に報告することになっています。
──最近の調査結果から、特徴的なことはありますか。
 やはり高齢化を反映して、糖尿病や高血圧などの成人病が増えていますね。
 その一方で、健康を意識している人も増えていて、運動したり、食事制限をしている人も増えてきたと感じます。
──保健指導の担当者向けの研修を実施していますね。
 特定保健指導実施者の初任者研修(毎年実施)や経験者研修(隔年開催)、食生活改善指導担当者研修(隔年開催)を実施していて、修了者は全日病保健指導士(AJHA ヘルスマネージャー)として認定しています。
 しかし、今年は新型コロナウイルスの影響で研修を実施できていません。Web を使って研修ができないか現在検討しているところです。

契約のルールで透視のX線装置は必要
──基本検査項目を実施していない施設に対して指定解除をすることもあるそうですが、どのような事情でしょうか。
 上部消化管のレントゲン検査はほとんど実施せずに内視鏡検査だけを行う施設があるのですが、健保連との契約はあくまでレントゲン検査を行うことになっているので、そのための機械がない施設は認められないということになります。契約には、胃透視で実施すると書いてあって、それが出来ない場合は胃カメラでも可とされています。
 最近は内視鏡を希望する患者さんが増えているので、契約内容の見直しを提案しているのですが、保険者と意見の相違があり、見直しは実現していません。ルールに基づいた運用をしていないと健保連から指定の許可が出ないという事情があります。透視のX線装置は必要ないので置いていない施設は、大変心苦しいのですが、ご理解いただいた上で脱会していただいています。
──医療技術の進歩によって、医療現場ではレントゲンよりも内視鏡検査が中心となりつつあると思いますが、その辺の事情は保険者に理解されないのでしょうか。
 保険者も分かっていると思いますが、透視の点数は893点、胃カメラは1,440点で547点の差があります。保険者としては、安い方の透視で行って欲しいということです。
 内視鏡はこの20年ほどで一気に普及し、その診断能力は透視に引けをとらないと思いますし、異常を見落とすこともまずないと思います。内視鏡も撮る角度によっては見落としがあるので、完全ではありませんが。
──透視の場合、見落としのリスクが高くなることはありませんか。
 熟練した専門医が読影すれば問題はありません。人間ドックの読影に当たっては、専門医もしくは専門的知識を有する者による診断が必要であると決められていて、見落としをなくすために、ダブルチェック、トリプルチェックのルールもあります。
 一定以上のレベルの医師が読影することは健診施設の責任です。無責任なことをしては人間ドックそのものの信頼が失われますので、健診の質を担保する仕組みをつくっています。

新型コロナの影響で健診を中止
──人間ドック健診も新型コロナウイルスの影響を受けたことと思います。
 3~5月にかけて人間ドックに対し、自粛要請がありました。7月の段階で、クラスターにならないよう注意しつつ健診を実施して結構であるという通知が健保連からあり、それを受けて人間ドック健診も再開し、今ではほぼ例年の状態に戻っています。企業によっては健診を制限しているところもあるので、全国的にはほぼ7割程度まで戻りつつあるという状況でしょうか。
──感染予防対策には手間がかかると思いますが、コスト的にはいかがですか。
 通常の1.5倍くらいのコストになっていると思います。マスクは従来から着用していますが、新型コロナ対策で、これまでは使ってなかった場面で手袋をつけたり、一人一人の検査が終わったら、その都度、テーブルや椅子をアルコール消毒しているので、消毒液の量もかなり増えたと思います。手間はかかりますが、これをしないと利用者も納得されないでしょう。
──感染予防対策にコストがかかることは、保険者にも理解されるのではないでしょうか。
 ぜひ、そうお願いしたいと思います。
──ありがとうございました。

 

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  • [1] 健保連人間ドック健診の実施における新型コロナウイルス感染症 ...

    https://www.ajha.or.jp/hms/medicalcheckup/pdf/2020_kenshin_coronavirus.pdf

    2020年4月1日 ... 健保連人間ドック健診実施指定施設 各位. 公益社団法人 全日本病院協会. 会 長 猪
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  • [2] 健保連人間ドック健診に関する契約書

    https://www.ajha.or.jp/hms/medicalcheckup/pdf/h30_kenho_keiyaku.pdf

    第 10 条 乙の指定病院等は、被保険者等に対して、「高齢者の医療の確保
    に関する法律」(昭和. 57 年法律第 80 号)第 23 条及び平成 19 年厚生労働省令
    第 157 号第 3 条に基づく被保険者等が. 自らの健康状態を自覚し、健康な生活
    習慣の重要性 ...

  • [3] 2019年度 健保連人間ドック健診検査項目表

    https://www.ajha.or.jp/hms/medicalcheckup/pdf/2019_kihonchousa.pdf

    医療職が担うこと(原則、医師・保健師・看護師とする). 問診票(質問票)は、
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