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ホーム全日病ニュース(2020年)第976回/2020年12月1日号医療従事者の負担軽減、医師の働き方改革

医療従事者の負担軽減、医師の働き方改革

医療従事者の負担軽減、医師の働き方改革

【診療報酬改定シリーズ●2020年度改定への対応④】医療保険・診療報酬委員会 委員 西本育夫

 2020年診療報酬改定の重点課題は「医療従事者の負担軽減、医師の働き方改革の推進」である。診療報酬改定に大きな影響力がある現行の第7次医療計画においても、医療従事者の確保に係る事項は重要性を増している。これは、労働人口の減少に歯止めがかからず、従来に増して深刻化しているからである。
 医師の過重労働、とりわけ病院勤務医の過重労働の解消が叫ばれて久しい。そもそもは2007年5月に第一次安倍政権下の政府・与党により「緊急医師確保対策について」が取りまとめたられたことに端を発する。その後の2008年の診療報酬改定以降、社会保障審議会からは毎回必ず病院勤務医の負担軽減についての方針が示され続けている。
 図1のとおり2024年までの計画で、医師の時間外労働時間の上限規制が適用される。
 特に深刻とされているのが、(B)水準と呼ばれている救急医療機関等の勤務医の時間外労働時間の削減で、現時点では改善の見通しがたっていない。
 もちろん、医師の働き方改革の推進については関係する諸施策の見直しが重要であり、診療報酬の手直しだけで解決できるものではない。2024年の上限規制が適用されるまで、関係する諸施策の見直しに寄り添いながら、残り2回の診療報酬改定で結論を得ることが求められる。
 今回の診療報酬改定については、その多くが医師の業務を直接的・間接的に他の職種が分担して引き受ける流れなので、対象となる薬剤師、看護師、社会福祉士、看護補助者など、それぞれに負担軽減や要件の緩和が盛り込まれている。
 基本的に診療報酬は配置した人数や時間などの多寡を根拠として点数配分されているため、従事する人員や時間など、負担を減らしながら成果を評価することには馴染まない側面がある。しかしながら、今までの診療報酬体系を大幅に崩すことは混乱を招く懸念が大きい。今回の改定では、そのような従来の診療報酬体系との整合性を考慮しながら見直しが行われた。

 今回の診療報酬改定に働き方改革がどのように反映されたか、改定説明資料において示された4つの項目と、それぞれの主たる内容は以下の通りである。

1.地域医療の確保を図る観点から早急に対応が必要な救急医療提供体制等の評価について
 「地域の救急医療体制において重要な機能を担う医療機関に対する評価」として、改定説明資料に最初に示されているのが、「地域医療体制確保加算520点/入院初日」(年間に救急車2,000台以上受け入れ)である。
 今回の改定の救急関連項目については、救急医療の現状を鑑みて、真摯な負担軽減策を実施しつつ、点数を積極的につけることにより、救急医療に従事するスタッフの増員など、医療機関の体制整備を充実させることが狙いである。また、診療報酬対応だけではなく、救急医療実績の高い病院には別途補助金制度が創設されている。

2.医師等の長時間労働などの厳しい勤務環境を改善する取組の評価について
 医療従事者の勤務環境の改善に関する取組が促進されるよう、総合入院体制加算の要件である「医療従事者の負担の軽減及び処遇の改善に関する計画」の内容及び項目数が見直された。具体的には特定行為研修修了者である看護師の複数名配置、及び活用、それと、院内助産又は助産師外来の開設を促進することにより、医師の勤務時間の削減を狙った項目の追加である。
 その他、病棟薬剤業務に対して、より積極的に薬剤師が関われるよう点数の引き上げや配置要件の緩和なども行われた。
 また、重症度、医療・看護必要度においては、院外研修の義務化の削除や、看護師負担の軽減に効果があるとされる重症度、医療・看護必要度Ⅱの選択の義務化が推し進められた。
 今回は許可病床400床以上や特定機能病院入院基本料に限られているが、次回以降の改定において400床未満や他の入院料を算定する医療機関など、重症度、医療・看護必要度Ⅱの選択が更に強化されると考えられる。重症度、医療・看護必要度については9月1日発行の本シリーズ①太田圭洋副委員長の解説が詳しいのでご覧いただきたい。

3.タスク・シェアリング/タスク・シフティングのための評価の充実について
 今回も医師事務作業補助体制加算については評価された。具体的には各項目とも50点の引き上げと、算定できる入院料や管理料の拡大などが行われた。前述のとおり、病院勤務医の負担が問題視された2008年から設定されている項目で、改定ごとに医師の業務負担の軽減について活用の広がりを見せている。

4. 業務の効率化に資するICTの利活用の推進について
 今回の働き方改革におけるICTの利活用としては、情報通信機器を用いたカンファレンスや共同指導について、日常的に活用しやすいものとなるよう手が加えられた。従来は原則として対面による会議が必要とされ、「やむを得ない場合に限り」情報通信機器の利用が認められたが、今回の改定では「必要な場合」とされ、利用できる範囲が拡大された。対面の会議が全面的に不要になったわけではないが、多忙を極める職種が同時に同じ場所に集まることを常時行う必要がなくなった点は、負担軽減に寄与することが多いであろう。その他に研修、記録、事務等についても効率化や合理化の仕組みが整備された。

 従来、診療報酬においては、当該業務に携わる人員の多寡による点数評価が中心であった。しかし、今後は生産性の向上を基本とした効率重視の評価に変化するであろう。今回の改定を境に、人員配置中心の考え方から、より効率を重視した考え方にシフトすることが求められるようになった。各医療機関においては、この変化に柔軟に対応できる体制づくりが必要である。

 

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