全日病ニュース

全日病ニュース

ホーム全日病ニュース(2020年)第976回/2020年12月1日号医学部定員の臨時枠を段階的に削減し地域枠を増やす

医学部定員の臨時枠を段階的に削減し地域枠を増やす

医学部定員の臨時枠を段階的に削減し地域枠を増やす

【厚労省・医師需給分科会】地域枠5割以上で定員増額可能に

 厚生労働省の医療従事者の需給に関する検討会・医師需給分科会(片峰茂分科会長)が11月18日にオンラインで開催された。2023年度以降の医学部入学定員について、現状の臨時定員(933人)を段階的に削減する一方で、恒久定員に地域枠を組み込む方針を了承した。将来の医師過剰を避けるため、医師数全体は減らしつつ、医師偏在の是正を図る。
 医師需給推計によると、労働時間を週60時間に制限する改定を置いたケースで、2023年の医学部入学者が医師になると想定される2029年頃に、医師の供給と医療需要が均衡する。
 現状では、日本全体でも医師不足だが、人口減少により医療需要は緩やかに縮小する。一方で、医師不足対応としての臨時定員枠を含めた医学部定員(9,330人)を維持すると、医師は増え続け、2029年頃を過ぎると医師が過剰になる。ただし、日本全体では過剰でも医師偏在があるので、地域における医師不足は残る。
 骨太方針2019でも医学部定員については、「2022年度以降、定期的に医師需給推計を行った上で、働き方改革や医師偏在の状況等に配慮しつつ、将来的な医学部定員の減員に向け、医師養成数の方針について検討する」と明記されている。なお、前回の分科会では、コロナの影響を勘案し、2022年度の「減員」の開始は見送ることが了承され、2023年度以降となった。
 全日病副会長の神野正博委員は、「臨時定員を減らすことに反対はしないが、医師偏在がまだ大きいという認識を持ち、強力な偏在対策を実施するという覚悟がもう少しほしい」と述べた。

地域枠の地域定着率の効果を期待
 時間はかかるが医師偏在対策として、最も期待されているのが、地域枠の活用だ。臨時定員でも地域枠での入学を中心に増やしてきた。厚労省の調査によると、臨時定員(地域枠)の増員による医師偏在是正効果は2014年から2018年で、医師多数都道府県で医師の増加率が1.7%であるのに対し、医師不足都道府県では11.9%であった。
 ただ、神野委員は「医師多数都道府県では元々医師数が多いので、率ではなく増加数をみれば、そんなに変わらないのではないか」と指摘した。
 それでも、地域枠と地域枠以外の医師で、地域定着率に明らかな差があることが示されており、地域枠を増やすことにより、医師偏在対策を図ることが分科会のコンセンサスとなった。
 地域枠は、◇選抜方法が一般枠と別枠◇卒直後より当該都道府県内で9年間以上従事する◇都道府県のキャリア形成プログラムに参加する─などの条件を定義として定めている。
 これについて、慶應義塾大学の権丈善一委員は、「このような定義による地域枠により地域定着を政策目標とすることは、学問的には成果が定まっていない新しい試み。地域枠を設定するだけでなく、地域定着率を高めるための他の様々な政策が同時に行っていくことが必要だ」と強調した。
 また、地域枠には、一般枠よりも成績が低い学生が集まるとの指摘がある。しかし、国師合格率やストレート卒業率をみても、一般枠よりも割合が高いとのデータを厚労省は示した。
 これらを踏まえ、分科会は◇地域枠の設置・増員を進める◇日本全体の医学部定員は減らす◇医学部定員は段階的に減らす◇2023年度以降は、自治体や大学の状況を踏まえながら、恒久定員を含め、各都道府県の医学部定員内に必要な数の地域枠を確保する─ことで合意した(下表を参照)
 臨時定員は今後段階的に減らしていくが、すべて廃止するわけではない。一部の定員は地域枠の増分として残る。具体的には、恒久定員内で一定程度(5割程度)の地域枠を確保しても、地域の必要医師数の確保が不十分の場合は、都道府県が地域枠の設置を要件とする臨時定員の設定を要請することを可能とする。
 地域枠の医師は地域定着率が高いといっても、100%ではない。9年間の従事要件後の定着率が確認されていないほか、従事期間中でも様々な理由で、離脱する場合がある。離脱理由では、「希望する進路と不一致」が最も多く、次いで「留年・国試不合格等」、「結婚」となっている。このため、厚労省は医師供給推計において、医師定着率の実績値を反映させると説明した。
 神野委員はさらに、「9年間の従事要件のうち、特定の地域での診療を義務とする期間は4年以上。実際の期間はプログラムにより異なり、その期間を割り戻して反映させるべきではないか」と問いかけた。

キャリア形成プログラムの充実
 地域枠の医師は卒後、都道府県のキャリア形成プログラムに基づいて、研修・診療に従事する。厚労省は、医師を目指す者が地域枠に対し、より一層魅力を持てるようキャリア形成プログラムを充実させることを課題とした。
 具体的には、◇医療機関の所在地域の魅力を伝えるなど、地域に愛着を持てるようにする◇地域医療に従事することを希望する医師が、その意志を継続できることを支援する◇専門医取得に必要な経験や技術を得ることが可能なキャリア形成プログラムを策定する◇各都道府県の取組み事例を共有するなど技術的支援を行う─などの対応策が示された。

 

全日病ニュース2020年12月1日号 HTML版