全日病ニュース

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有事の医療提供体制の構築に努める

有事の医療提供体制の構築に努める

【招聘講演1】中川俊男・日本医師会会長

 新型コロナの感染拡大に立ち向かうため、今年1月14日の政府と医療関係団体の意見交換で、私は菅総理に、「病院団体をはじめ、公立病院も公的病院も民間病院もすべて、究極の臨戦態勢をとる。日本医師会、日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会は、新型コロナ病床を確保するための対策組織を新たに設置し、できるところはすべて、躊躇なく、患者を受け入れるべく有事の医療提供体制の構築に努める」と申し上げた。
 その具体化として、日本医師会、四病院団体協議会、全国自治体病院協議会から成る「新型コロナウイルス感染症患者受入病床確保対策会議」を設置し、「新型コロナウイルス感染症患者の病床確保等に向けた具体的方策」をとりまとめた。その中では、都道府県医師会と都道府県病院団体・支部による協議会の立ち上げと、新型コロナ治療中の患者のみならず、回復患者を受け入れる後方支援体制のさらなる拡充が重要であるとした。また、JMAT(日本医師会災害医療チーム)のスキームも活用した「地域の医師・看護師等の派遣、地域の医療機関での患者受入策」もあわせて示した。
 一方、厚労省は、2月16日付の事務連絡で、重症患者は、大学病院や地域の基幹病院等の高度な集学的医療を提供できる医療機関での受入れを中心に整備し、中等症患者は、重点医療機関が中心的な役割を担うこととした。そして、地域医療構想調整会議や医師会・病院団体等による協議会を含めた地域の調整の場を活用しつつ、医療提供体制の強化に取り組むことを求める考えを示した。同受入病床確保対策会議には、2月24日の第3回会議から厚生労働省が加わり、迫井正深医政局長に出席いただいた。

政府に対し強力な対策を求める
 日本医師会・各都道府県医師会は、新型インフルエンザ等対策特別措置法・災害対策基本法に基づく指定公共機関・指定地方公共機関であり、医療の専門家集団の立場で対策を実施する責務を担っている。緊急事態宣言下の新型コロナ対策では、思い切った流行対策を講じる「ハンマー」と、感染者数が少ない範囲で生活様式を実践する「ダンス」を使い分ける「ハンマー&ダンス」が必要である。「ハンマー」は欧米ではロックダウン、日本では強い緊急事態宣言を意味する。経済的インパクトが大きくなってしまうが、このまま感染拡大が続けば、「ハンマー」を振りかざす必要が出てくる。
 8月3日の政府と医療関係団体の意見交換で菅総理は、入院は重症患者や特に重症化リスクの高い者に重点化するとの方針転換を図る考えを示した。入院に関する政府の方針転換に対し、「リスクの高い患者には中等症も適切に含まれると考えてよいか」と確認すると、田村憲久厚労相は「中等症2は当然だが、中等症1でも、医師が重症化のリスクが高いと判断すれば入院」と回答した。
 新型コロナ患者にどのような医療を提供するのか、入院医療が必要なのかを判断するのは政府や行政ではなく、患者を診察した医師である。かかりつけ医であり、担当医である。
 感染が爆発して患者が増え続けると、十分な病床と医療従事者を確保することは到底できない。日本医師会は最大限努力して頑張ると同時に、何が何でも感染拡大を極力抑え込む対策を最優先すべきと考える。そのことを政府に対し強力に求める。

 

全日病ニュース2021年9月15日号 HTML版