全日病ニュース

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新型コロナと世界と人文知を語る

新型コロナと世界と人文知を語る

【特別記念講演】大原謙一郎・大原記念倉敷中央医療機構会長

 私は、一般社団法人「人文知応援フォーラム」の代表理事も務めている。いまの世のなかで、大事なのは人間トータルとしての知的パワーだ。同フォーラムはそのパワーを人文知と呼ぶとしたら、それを日本でもっと盛り立てていこうという有志が集まった団体である。
 一昨年10月に策定した人文知応援フォーラム設立宣言では、人文知について、「文化を愛で、芸術に親しみ、人文学を身につけることを通じ、自ずから人の心の中に生まれてくる、しなやかで強靭な知の力である。それは、人生をより豊かにし、世界に通用する人材を育てる力の源泉になると同時に、社会の姿を整え、国の立ち位置を固め、ひいては、世界を和やかに保つためにも力を発揮する」と謳っている。
 さまざまな要素が複雑に絡み合い、社会の根底を支える価値観さえ揺るがされかねない今の世界に生きる日本では、そのような人文知を磨くことは非常に大事なことである。
 今年2月には、結集したみなさんと一緒に「コロナという災厄に立ち向かう人文知」のテーマで大会を開いた。
 個人の自由や人権をどこまで重視しながら、この疫病との戦いを進めるか。これは日本のなかだけでなく、世界でいろいろな人がいろいろな戦い方をしている。先進国では3回目のワクチン接種をしようという段階まで来ているのに、ワクチンが届かない国もある。
 私たち民主主義の理念は、今後とも世界の一つの指導理念だと信じているが、本当に妄信していいのか。いろいろな価値観と共存して、初めてコロナと戦えるのかについて今後考えていかなければいけない。
 日本中のまちで、「人文的な知恵と科学的な知識」、「医療の体制と社会の動き」、「人類の持つ価値観と世界における日本の立ち位置」などをいろいろ考えてほしい。こうしたことを総合的に考えることを「人文知」と呼んでいるが、人文的な知恵と力を発揮しながら新型コロナと世界は戦っている。
 倉敷の大原美術館は、世界の文化・民芸と日本のアート・クリエーションを一緒につながっていくことを考えている立場である。これは大原美術館だけでなく、日本中でチャレンジをしている人たちがいる。
 私は文化・芸術・人文学の復権のために戦ってきたが、地方の論理と主張のためにも戦ってきた。国中あらゆるところに、世界一流の地方がある国が本当に風格のある国だと思っている。日本はこうした国であってほしい。
 倉敷・岡山もそういった一流の地方でありたいと願っているし、そうであるために私たちは文化と芸術と人文学、地域社会のあり方、地域医療のあり方といった問題を総合的に考える人文知を倉敷の地で磨いていきたい。
 日本全国で磨いていけるような世界になってほしい。もちろん、医療人として果たす役割はあるし、あるいは一個の人間、一つの地方として果たす役割はある。倉敷や岡山と一緒に、そういった使命を果たしていってほしい。

 

全日病ニュース2021年9月15日号 HTML版