全日病ニュース
人口減少を見据えた持続可能な病院経営
人口減少を見据えた持続可能な病院経営
【学会企画シンポジウム2】地域医療構想を推進し町づくりに参画
地域医療構想をテーマとしたシンポジウムでは、ウィズ・ポストコロナと人口減少時代を見据えた病院経営のあり方について、4名の演者が登壇し、各病院の取組みを紹介した。
亀田信介・太陽会理事長(全日病理事)は、病院を地域の共有資源として捉えるパラダイムシフトの重要性を指摘した。人口減少が進む千葉県安房医療圏における「房総メディカルセンター構想」や「房総メディカルFIRM」の考え方を紹介した。同法人が参加する地域医療連携推進法人の房総メディカルアライアンスを活用するという
近森正幸・近森病院理事長は、高知県中央医療圏において、地域医療構想調整会議での議論以前に、高齢重症患者の減少が始まったことから、近森病院を高度急性期病院にするという「逆張り」の経営戦略について解説した。「マネジメントの本質は選択と集中」と述べ、高度急性期医療への特化や、地域医療機関との紹介・逆紹介による密接な連携推進による機能分化、多職種による病棟常駐型チーム医療などの取組みを紹介した。
鈴木邦彦・志村大宮病院理事長(医法協副会長)は、無医地区・限界集落のある茨城県常陸大宮市における地域密着型の病院経営について、「中小病院は地域と運命共同体」と述べ、行政との連携による町づくりの重要性を強調した。多世代地域交流拠点の設置・活用やイベント開催の事例のほか、コロナ禍での配食や買い物代行など、地域住民のニーズに応じた新たなサービスを提供していると説明した。
全日病副会長の神野正博・恵寿総合病院理事長は、石川県能登中部医療圏の持続可能な病院経営について、「統合(integration)、変革(innovation)、価値創造(inspiration)の3つの『I』」の重要性を強調した。少子高齢・人口減少社会は、患者減に直結し、従来のままでは医療提供は自ずと縮小してしまうことは明らかであるからだ。
コロナ禍がその必要性を加速させており、「新たな日常」を前提にした医療提供体制の変革が急務であるとした。
3つの「I」を実現するための事業戦略と事業展開については、「けいじゅヘルスケアシステム」を紹介。特に、すべての患者を1つのIDで管理するシステムなど、ICTによる業務効率化を地域全体へ繋げる考えを示した。
医療は社会のインフラ
座長の高橋泰・国際医療福祉大学教授は、ポストコロナで世界が変わり得る分岐点を問いかけた。
亀田理事長は、「コロナ禍により、競争から協調、所有から共有への価値変換が起こりつつある。DX(デジタル・トランスフォーメーション)によっても、所有という概念が大きく変化すると思う。また、医療は社会インフラで、根底にはSDGsの考え方がある」と、今が社会的な価値の概念の変革期にあるとの認識を示した。
近森理事長は、地域医療構想について、「地域医療構想調整会議で急性期の機能を明確化する議論がうまく進まない」と指摘。地域医療構想の考え方を改めて共有する必要があるとした。
亀田理事長は、「地域医療構想の根本的な問題は構想区域にある。もう一度、どう位置づけるか検討すべき。合理的な根拠で区域を決めないと具体的な調整ができない」と述べた。
最後に、高橋教授が「ポストコロナに対し、ポジティブで先の見える経営者の意見を聞けた」と所感を述べた。座長の全日病の中村康彦副会長(上尾中央総合病院理事長)は、「新型コロナだけでなく、さまざまな嵐がやってくる。病院団体として状況を共有し、連携しながらやっていきたい」と述べ、シンポジウムを締めくくった。
全日病ニュース2021年9月15日号 HTML版