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ホーム全日病ニュース(2022年)第1002回/2022年2月1日号2022年度の診療報酬改定率は0.43%に決定

2022年度の診療報酬改定率は0.43%に決定

2022年度の診療報酬改定率は0.43%に決定

【厚労・財務大臣折衝】不妊治療の保険適用と看護職員等の処遇改善で0.40%分

 2022年度の診療報酬改定率が昨年12月22日、後藤茂之厚生労働大臣と鈴木俊一財務大臣の大臣折衝により、決定した。改定率は0.43%のプラス改定となった。国費300億円に相当する。0.43%のうち、看護職員等の処遇を改善する特例的な対応でプラス0.20%、不妊治療の保険適用のための特例的な対応で0.20%に相当する財源を用いる。あわせて、反復利用できる処方箋であるリフィル処方箋の導入による医療費低減効果がマイナス0.10%、小児の感染防止対策の医科分の加算措置の廃止でマイナス0.10%を見込み、これらを除いた改定率はプラス0.23%となる。
 このような改定率の範囲内で、診療報酬の個別的な配分を決める中医協での議論が本格化する。ただし、今回の大臣折衝では、看護配置7対1の入院基本料を含む入院医療の適正化など、診療報酬改定の具体的な内容まで大臣折衝での合意事項が文書に記載されることになった。これにより、中医協の議論は一定の縛りのなかで、展開されざるを得ない状況にある。
 また、薬価改定は▲1.35%、材料価格改定は▲0.02%であり、本体改定率と差し引きしたネット改定率は、▲0.94%である。現在、政府はネット改定率という考え方をとっていないが、ネット改定率のマイナスが続いている。

年齢制限設け不妊治療を保険適用
 改定率は0.43%で、このうち0.40%分は使途が明確に決められた。不妊治療の保険適用のための特例的な対応がプラス0.20%分、看護の処遇改善のための特例的な対応の分がプラス0.20%である。これを除くと、ほとんどゼロ改定になるが、前述のとおり、リフィル処方箋による医療費低減効果で0.10%分、小児の感染防止対策の医科分の加算措置の廃止で0.10%のマイナス効果を見込んでいる。
 不妊治療の保険適用は、菅義偉前内閣が発足してすぐに決定された政策だ。このため、中医協総会では、2021年度の初めから保険適用の具体策を検討してきた。2022年度改定で不妊治療の保険適用を実施するため、2021年1月から2022年3月まで、従来の助成金の制度を拡充しており、保険適用への円滑な移行を図る考えだ。
 現状では、自由診療である不妊治療のうち、どの医療技術を保険適用し、その他の医療技術をどう取り扱うかについては、2021年12月15日の中医協総会で大枠が固まった。日本生殖医学会(大須賀穣理事長)などによる生殖医療ガイドラインで推奨度が高い医療技術を保険適用する方向で合意を得た。推奨度が低い医療技術は先進医療での実施が検討され、ガイドラインに記載されていない医療技術は自由診療に残ると考えられる。
 対象者は、「不妊治療と診断された特定の男女」。女性は治療開始時点で43歳未満という年齢制限を設ける。40歳未満は1子につき6回、40歳以上43歳未満は、1子につき3回に制限される。男性の年齢制限はない。保険適用は2022年度から実施されるが、助成金の制度からの円滑な移行のため、2022年度予算案では、年度をまたぐ一連の治療に対して、経過措置として助成金を支給することとしている。

看護職員等への収入を3%引上げ
 看護職員等への処遇改善のための特例的な対応は、岸田文雄内閣が重視する公的部門の再分配政策の強化の一環で、2021年11月19日に閣議決定された「コロナ克服・新時代開拓の経済対策」を踏まえている。経済対策では、看護、介護、保育、幼児教育など現場で働く方々の収入の引上げなどのため、公的価格のあり方を抜本的に見直すとともに、賃上げの具体的な水準が示された。
 看護については、2021年度補正予算により、2022年2月から収入の1%程度の引上げ(月額4,000円相当)を前倒しで実施し、10月以降に診療報酬改定を念頭に、3%程度(月額12,000円相当)の引上げを実現するとの方針を示していた。大臣折衝では、2022年度診療報酬改定で対応することが明確化され、処遇改善にあたっては、介護・障害福祉の処遇改善加算の仕組みを参考に、予算措置が確実に賃金に反映されるよう、適切な担保措置を講じることを求めている。
 対象は、地域でコロナ医療など一定の役割を担う医療機関に限定される。具体的には、救急医療管理加算を算定する救急搬送件数が年200台以上の医療機関と三次救急を担う医療機関とした。また、看護職員だけではなく、看護補助者、理学療法士・作業療法士等のコメディカルの処遇改善にこの処遇改善の収入を充てることができるよう柔軟な運用を認める。
 診療報酬に占める国費の割合は4分の1程度で、2022年度は10月以降の実施のため、半年分の国庫が確保されているが、2023年度以降は1年分になる。追加で必要となる国費140億円程度については、「(消費税により)社会保障の充実に充てる歳出の見直しにより、安定財源を確保する」と明記した。この文言は、2023年度予算編成で、社会保障関係費の削減により、追加分の財源を確保することを示唆する。
 一方、介護・障害福祉職員の処遇改善については、2022年2月から収入の3%程度(月額9,000円相当)を引き上げ、2022年10月以降もその水準の処遇改善を続けるために、臨時の報酬改定を実施する。

リフィル処方箋で「再診の効率化」
 リフィル処方箋とは反復利用できる処方箋である。例えば、90日分の内服薬を患者に投薬するため、30日ごとに薬局で調剤して交付する場合、医師は30日分の処方箋を、繰り返し利用できる回数(3回)を記載した上で発行する。医療機関を受診する回数が減るため、「再診の効率化」につながるとし、マイナス0.10%の効果を見込んだ。現在でも分割調剤という仕組みがあるが、あまり普及していない。効果は、分割調剤とは異なる仕組みをどのように設計するかによるため、効果の検証も求めている。

コロナの小児感染防止特例を廃止
 小児の感染防止対策の医科分の加算措置は、新型コロナの感染拡大を受け、医療機関などが感染予防策を講じる上で、小児に対する医療においては、濃厚接触しやすく、訴えなどの聴取が困難であることなどに配慮し、6歳未満の乳幼児への外来診療などを評価したものだ。具体的には、小児特有の感染予防策を講じた上で、外来診療などを実施した場合、初再診にかかわらず患者ごとに、医科で100点、歯科で55点、調剤で12点を特例的に算定できることとした。
 2020年12月15日から算定できるようになり、2021年10月1日からは点数が半分になっていた。2021年度限りの措置とするマイナス0.10%の効果は医科のみの分で、歯科・調剤では、特例的な加算は廃止となるが、報酬の他の項目に「感染防止等の必要な対応」として、充てられることになった。

薬価頼みの構造は今回も変わらず
 薬価はマイナス1.35%で、国費1,600億円の削減効果がある。2022年度予算編成で、夏の概算要求段階で6,600億円であった社会保障の高齢化等に伴う増加額を4,800億円まで圧縮でき、診療報酬本体をプラス改定にできたのも薬価のマイナス改定のおかげであり、薬価頼みという構造は今回も踏襲された。マイナス1.35%のうち、薬価調査により把握された市場実勢価格に合わせた引下げがマイナス1.44%で、ほかに不妊治療の保険適用のための特例的な対応がプラス0.09%(50億円程度)となっている。また、材料価格はマイナス0.02%(20億円程度)となっている。
 昨年12月3日に公表された薬価調査速報値によると、平均かい離率は7.3%。市場実勢価格に合わせる際に、調整幅2%を適用した。2021年度予算編成における初の中間年改定では、調整幅2%に加えて、新型コロナの影響に配慮し、さらに0.8%分を緩和したが、今回は適用されなかった。
 今回の大臣折衝では、診療報酬・薬価等に関する制度改革事項も盛り込まれた。大臣折衝により改定率が決まるが、その配分は基本的に中医協の議論に委ねられるのが通例だ。しかし、今回は不妊治療の保険適用や看護の処遇改善のための特例的な対応以外の改定事項についても、さまざまな縛りがかかることになった。
 具体的には、以下の文言が盛り込まれた。
◇医療機能の分化・強化、連携の推進に向けた、提供されている医療機能や患者像の実態に即した、看護配置7対1の入院基本料を含む入院医療の評価の適正化
◇在院日数を含めた医療の標準化に向けた、DPC制度の算定方法の見直し等の更なる包括払いの推進
◇医師の働き方改革に係る診療報酬上の措置について実効的な仕組みとなるよう見直し
◇外来医療の機能分化・連携に向けた、かかりつけ医機能に係る診療報酬上の措置の実態に即した適切な見直し
◇費用対効果を踏まえた後発医薬品の調剤体制に係る評価の見直し
◇薬局の収益状況、経営の効率性等も踏まえた多店舗を有する薬局等の評価の適正化
◇OTC類似医薬品等の既収載の医薬品の保険給付範囲の見直しなど、薬剤給付の適正化の観点からの湿布薬の処方の適正化

全世代型社会保障の実現
 診療報酬改定以外についても、さまざまな事項が大臣折衝で合意されている。
 2022年10月1日から2023年3月末までの間に実施するとしていた、一定の所得がある後期高齢者の医療費の患者負担2割への引上げは、最も早い2022年10月1日から実施することを決めた。すべての世代が公平に支え合うという全世代型社会保障の趣旨に沿ったものだ。
 患者負担割合だけではなく、全世代型社会保障の実現に向け、医療提供体制に関わるさまざまな改革を推進していく方針が示された。
 地域医療構想に関しては、公立・公的病院だけではなく、民間病院に対しても対応方針を策定し、検討状況の公表を求める。薬価改定は毎年実施するとともに、2%の調整幅のあり方を検討する。都道府県医療費適正化計画は実効性を高めるための法制上の措置を講じる。
 かかりつけ医機能の明確化と、患者・医療者双方にとってかかりつけ医機能が有効に発揮されるための具体策を検討する。生活保護受給者の国保・後期高齢者医療制度への加入を含めた医療扶助のあり方を中長期的な課題として検討する。
 「医療法人の事業報告書等をアップロードで届出・公表する全国的な開示システムを早急に整える。アップロードによる届出は2022年3月決算法人から開始する」との文言も明記された。ただ、この文言について厚労省は、骨太方針2021の趣旨と同様との見解を示している。

 

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