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ホーム全日病ニュース第806回/2013年8月1日号部門別収支調査の中止に診療側...

部門別収支調査の中止に診療側が反対。議論は仕切り直しへ

部門別収支調査の中止に診療側が反対。議論は仕切り直しへ

部門別収支調査の中止に診療側が反対。
議論は仕切り直しへ

【中医協・基本小委】
「病院に負担大きく、改定の基礎資料には難しい」とコスト調査分科会

 中医協の診療報酬基本問題小委員会は7月24日に約8ヵ月ぶりに開かれ、診療報酬調査専門組織「医療機関のコスト調査分科会」から2012年度部門別収支調査結果の報告を受けた。同分科会は調査結果報告と併せて、原価調査(部門別収支調査)を今回をもって中止することを提起した。
 この提案を支払側は支持したが、診療側の委員はこぞって原価調査の継続を求めたため、基本小委の意見は賛否が分かれた。そのため、委員長の森田朗中医協会長(学習院大学教授)は「事務局と相談の上、何らかの対応を次回提議する」として、議論を預かった。

 

 「医療機関の部門別収支に関する調査研究」は、03年7月に設置されたコスト調査分科会において、医療機関のコスト分析を行なう代表的なアプローチとして採用され、同年度から12年度までの10年間実施されてきた。
 病院の収支としては医療経済実態調査があるが、その診療科別収支は不明であった。そのため、診療科別に費用と収入を把握する方法として部門別収支調査に着手したもの。
 コスト調査分科会は、03年3月の閣議決定(健康保険法等の一部を改正する法律附則第2条第2項の規定に基づく基本方針)が打ち出した「診療報酬体系の見直し」の一環に、「医療機関の運営や施設に関するコスト等に関する調査・分析を進め、疾病の特性や重症度、看護の必要度等を反映した評価を進めるとともに、医療機関等の機能の適正な評価を進める」方針が示されたことを受けて設置された。
 診療科別の直接原価を把握する一般原価調査と間接的原価(中央診療部門費用の各科への配賦係数)を得るための特殊原価調査からなる部門別収支調査は、08年度まで6回にわたる調査を重ねた結果、09年7月の基本小委は「精度の高い調査手法が確立した」と評価。
 以降、調査手法の簡素化を進めることで調査対象医療機関を拡大し、診療科別収支調査のデータを診療報酬改定の基礎資料とするべく、12年度まで調査方法の改善を試みてきた。
 その12年度調査結果をまとめた7月17日のコスト調査分科会で、事務局(厚労省保険局医療課)は、これまでの部門別収支調査を以下のように総括してみせた。
 (1)この手法は原価計算の1手法としてほぼ確立した。
 (2)一方、この調査に回答する病院の負担が大きく、中小を含む全国病院の収支を代表するデータをこの原価計算から把握し、改定につなげていくことは難しい。
 (3)また、診療科は原価計算の単位としては適切でなく、したがって、この手法で得られる診療科別収支のデータを改定に結びつけることも困難である。
 事務局のこの総括は部門別収支調査の中止を示唆するものであり、7月17日の同分科会は、「全員ではないが、概ね、(事務局の)総括で一致した」(基本小委における田中分科会長の発言)。その結果、同分科会の発議として、基本小委に「部門別収支調査の中止」が諮られたもの。
 この提起に、支払側の白川委員(健保連)は、「これ以上の調査は(病院におけるITの)投資が必要というのであれば簡単にはいかない。その使命は終えたのではないか」と述べ、コスト調査分科会の考え方を支持した。
 さらに、「部門別調査の結果を改定に結びつけるのは難しいと思う。2号側はコストを積み上げることによって点数の引き上げを期待しているが、我々からすれば、(逆に)コストを引き下げろという話になる。そもそも、企業が原価を調べるのは、価格の適性を探ることと収支の改善が目的。そのためにはコストをいかに下げるかが大切であり、原価調査はそのためにあるからだ」と論じた。

 

「コストを把握するよい方法を分科会で検討してほしい」

 この見解に診療側は反論を加えた。
 西澤委員(全日病会長)は、「ベースとなる材料をもたずに診療報酬を議論しているのが現状であり、こうしたデータは絶対に必要である。部門別収支調査については、病院の間にも、病院間を比較するベンチマークとして有効という声が強い」と病院界の声を代弁。
 「03年の閣議決定はコストを反映した診療報酬体系を目指す方針を掲げた。それを受けて分科会が設置され、10年かけてここまできた。この10年間、診療報酬は何ら変わっていない。これを止めたとして、では、ほかによい方法があるのか」と質した。
 その上で、「診療科以外にも適切な分析単位があるのではないか。ぜひ、分科会で検討してほしい。改定への目先の反映は無理としても、診療報酬をエビデンスベースへ変えていくために、調査研究はぜひ続けるべきである」と、次善の策をもたずに中止を提案することに強く反対した。
 鈴木委員(日医常任理事)は「定点観測で続行する。あるいは診療科以外の単位を考えてはどうか」と提案、万代委員(日病常任理事)も「半数近い病院が調査結果の活用を考えている」と指摘するなど、調査研究を続行する必要を訴えた。
 一方、公益側の関原委員(日本対がん協会常務理事)は、「電力やガス等値上げに承認を要する業種は、すべて、コストを勘案してプライスを決めている」と発言、公定価格の決定プロセスも基本的にはコストの積上げになっているとして、白川委員のコスト反映否定論をたしなめた。
 こうした議論に、コスト調査分科会の田中会長は「基本小委が他の方法で原価調査を模索してほしいと決めていただければ分科会として対応は可能だ」と発言。部門別収支調査の廃止は止むを得ないものの、原価調査の研究は引き続き可能とする見解を示した。
 基本小委の森田委員長は「分科会の提案に対する基本小委の意見はまとまっていない。この取り扱いは私に預からせていただき、事務局と相談の上再度提案したい」と議論を引き取った。