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大学病院側 プログラム自由化や2年間の短縮見直しを提起

大学病院側 プログラム自由化や2年間の短縮見直しを提起

【医師臨床研修部会】
基礎系研究と臨床研修の両立で議論。研修病院側は研究医用プログラムの導入を提案

 

 2015年度に実施する医師臨床研修制度の見直しを検討している医道審議会医師分科会の医師臨床研修部会は7月18日の会合で研究医養成問題について議論。
 基礎医学の研究に進む医師が減少していると危機感を募る大学側の委員は、「臨床研修と大学院の両立を可能にするためにはより柔軟なプログラムの見直しが必要」と声高に語った。勢いのあまり、医師臨床研修制度の廃止議論を提議する委員も出現した。
 文科省などの調べによると、基礎系の博士課程入学者に占める医師免許取得者(MD)の割合は、近年、臨床系に比べると顕著に低下している。
 大学側は入学定員に「研究医枠」を設けて奨学金や学部・大学院一貫コースを提供するなど、多様な方法で研究に進む医師の確保に努めている。文科省も2010年度から19年度まで、条件を満たした医学部の定員に3名の上乗せを認めるという「研究医枠」を設けた。
 研修医で医学博士の取得を希望する者は、臨床研修病院で36.2%、大学病院では44.7%いるが、「2年間の空白はあまりに大きく、志しも低下してしまう」と大学側委員は嘆く。
 こうした結果、基礎系大学院で学ぶ学生に占めるMDの割合は30%以下へと低下しているだけでなく、基礎医学系教員(助手・助教)のMD割合も1990年代の50%から今や30%以下にまで下っているという。
 医師の基礎系研究者を確保・養成するためにどうすべきか。日医は「基礎医学に進む場合には後年あらためて臨床研修を受けることができるようにする」よう提案しているが、日本医学教育学会は「研修期間中の大学院における研究は原則として認めるべきではない」との見解を表わすなど、関係者の間でも意見は分かれている。
 山下委員(山形大学医学部長)は、大学病院中心の研修病院群を編成して医局主導の運営を実現した上でプログラムの自由度を高め、色々なバリエーションを認める必要があると、講座制を軸としたローテートの中で研究医を養成していく方法を提案した。「臨床研修と基礎研究の間の自由な行き来」を求めるなど、研究医を臨床研修の理念・到達度とプログラムの枠組みからフリーにするという発想である。
 これに対して、清水委員(聖隷浜松病院副院長)は、「研究者の養成と臨床研修は分けて考えるベきだ。医師臨床研修制度は国民的ニーズであり、研究に進むからといって2年間の研修を例外にするというのはいかがか。処遇面の工夫や研修から得る成果の研究への還元など、両立を可能とする環境の確保を考えることが大切ではないか」と述べ、制度の枠内で対応すべきとする研修病院の見解を鮮明にした。
 神野委員(社会医療法人財団董仙会理事長・全日病副会長)も、「国家戦略として基礎医学にきちんとした処遇を与えていくことには賛成であり、研究医養成用のプログラムがあってよい。ただし、今のコンセプトは臨床研修に2年間専念するというもの。したがって、現在のプログラムをさらに弾力化するのではなく、研究医養成用のプログラムを別に設けるというかたちで対応するべきではないか」と述べ、研修病院として、大学医局の“臨床研修自由化論”に反対する意見を表わした。
 かくて、研究医養成の問題は医師臨床研修制度の現行枠組みをめぐる議論へと発展した。
 大学病院側の現行制度批判は、「プログラムの今程度の自由度では不十分である」「早くから専門に進む機会を与えないとだめだ」といった従来からの意見にとどまらず、「臨床研修制度が研究医志向を阻害しているのは、これを終えないと院長や開業医になれないという絶対的制約があるからだ」と制度の根底にまでおよんだ。
 さらには、医師法の「2年間の臨床研修」規定をめぐる中で、「この制度は10年たった。その間、医学教育はモデル・コア・カリキュラムやCBT・OSCEの実施、診療参加型実習の試みと大きく変わってきた。生涯教育を含めた医師養成の大きな枠組みを考えると、もはや臨床研修制度は廃止し、ストレートに専門医研修につなげてはどうか。5年ごとにマイナーチェンジを繰り返すのではなく、ここで、日本の医師を養成する仕組み全体を議論してもよいのではないか。廃止の議論はこの部会で可能か」(小川委員=岩手医科大学理事長・学長)と、医師臨床研修制度の廃止議論を提起するにいたった。
 同じ大学病院側でも、山下委員は「廃止とは別に、本当に2年間いるのかという問題がある。到達目標を別の方法で習得できるやり方があれば、その部分を(プログラムから)削り取るとか、もっと自由に選ぶ仕組みにしていくことが大切。私は2年もいらないと思う」と発言、廃止論にまでは踏み込まない姿勢をのぞかせた。
 廃止議論の提起は臨床研修プログラム自由化論のインパクトを強める効果を期待してのものとみられるが、大学病院側の本音を吐露した点で注目される発言だ。