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ホーム全日病ニュース第806回/2013年8月1日号高齢者医療における病院の役割(2)

特別鼎談/高齢者医療における病院の役割:後期高齢者医療の設計は日本の医療を変える作業!

特別鼎談/高齢者医療における病院の役割(2)
後期高齢者医療の設計は日本の医療を変える作業!

病院も意識改革が必要。フリーアクセスの議論が避けられない

■フリーアクセスをめぐる議論が避けられない

織田 地域に密着した病院は今後どうあるべきかということを考えると、やはり、高度急性期についてはフリーアクセスが問われているのではないでしょうか。同じ急性期でも、高機能・高密度の医療を提供する高度急性期病院と、増えてくる高齢者を診る一般の急性期病院と、地域には2つが重要だと思うのです。その両域で色々なニーズが出てきているわけで、そこを、急性期だからということで一緒にしてしまうのは危ういと思います。
丸山 日本は、未曽有というべきか、世界が経験したことのない超超高齢社会に突入しています。したがって、医療のあり方も、外国のまねをしていてはだめだと思います。日本が先進的に何かを生み出さない限り、世界の問題は解決しないのです。
大島 実は社会保障制度改革国民会議でフリーアクセスの問題がとりあげられました。そこで、私は、直接にはフリーアクセスという言葉は使いませんでしたが、「いつでも好きなところで自由にお金の心配をせずにかかることができる医療を、必要な医療に適切な場所でかかれるようなシステムに変えないとだめだ」といった趣旨を申し上げました。相当に覚悟をして言ったわけですが、私に対する非難や反論はまったく出てこなかった。本当に流れが変わったなと感じましたね。
丸山 むしろ、今の医療の状況では正論じゃないですか。フリーアクセスの話をすると、必ずイギリスの人頭式という話になってしまいます。ところが、やり方はいろいろあると思うんですよ。日本なりのフリーアクセス改革というのはあり得ると私は思っています。
大島 あり得ますね。私は当たり前のことを当たり前に言っているだけですから。今までタブー視されてきて、みんな思っているけれど言うと大変なことになるということがわかっていることを、ただ口に出して言ってみただけなんですが…。
織田 先日、フリーアクセスについて問う医師向けのアンケートがインターネットでありましたが、高度急性期病院に限っては、「もうフリーアクセスなくすべきだ」というのが8割でした。
丸山 皆保険を守るためにフリーアクセスは制限していくと言ったほうがいいんだね。
織田 少なくとも特定機能病院と名のつくところは、これはもうフリーアクセスはなくして、やっぱり紹介型にきちんとしていくべきですよね。
大島 私は、特定機能病院とか、本当に超急性期はもう外来をやめろと言っているんですよ。そんな必要ないですよ。
織田 あくまでもそこに送るトリアージは地域の病院が担って、そして紹介していく。それが今後の色々な連携へとつながっていくんですよね。それを、我々が自ら声を上げていく。そういうことの必要性を自覚することが大切ではないでしょうか。

 

■高齢者救急はプライマリ・ケアで支える

丸山 私は、プライマリ・ケアというのは、介護とかの職種と医療職も含めた大きな塊で支えるというマインドが醸成されれば、相当部分がここで支えられるはずと思っています。
大島 例えば、1999年と2009年の10年間で高齢者の救急搬送が激増しています。高齢者救急の内訳は心不全が25%、誤嚥性肺炎が24%、尿路感染症が20%などですが、救急部門をもつ200床とか300床の病院に聞くと、どこも、救急搬送される高齢者の80~90%は2次以下だと言います。重症は極めて少なくて、中症から軽症がどっと増えているわけです。
織田 私の地域でもまさにそのとおりです。今や85歳以上の救急搬送が急激に増えていますが、そのほとんどが肺炎とかで、決して高密度な医療が必要ではないんです。
丸山 そうです。ですから、プライマリ・ケアで支えられるはずなんです。
織田 それを高度急性期病院に搬送されると、これらの病院は後方支援機能や在宅につなぐ機能を持ち合わせていませんから、本人もアンハッピーなんです。やはり、地域の急性期病院に行く方が本人にも幸せであるはずなんです。
丸山 それは、高度機能病院も困っているんですよ。
大島 そうです。公的を含めて、3次救急に特化しようと腹を括ってやっているところは、「もう何とかしてくれ」と本当に悲鳴を上げています。そういう人たちがICUを占拠するために重症の手術ができない、だから、「こんな状態では、若い人、本当に3次救急が必要な者への医療ができない」と。あるいは…。
丸山 医師が折れてしまう。
大島 そうです。こういう悪循環がもうはっきりと出ているんですね。ところが現実は、3次救急の整備に力を入れ過ぎた結果、全体としては過剰です。ところが、経営面からみると、2次の患者であろうが、初期であろうが、3次救急で入院させると診療点数が全然違う。診療報酬がまったく違うから、それで病床を埋めていくという状況が起こっている。その結果、2次救急がどんどんなくなってしまっている。
織田 そのとおりです。
大島 それにもかかわらず、2次救急の診療報酬は全然上がらないんです。
丸山 そのために、ますます2次救急の病院はやっていけないんです。
大島 その結果、何が起こっているかというと…。
織田 そう、2次救急が潰れると地域全体が不幸になってしまう。
大島 間違いなく壊れます。
織田 地域の一番身近な救急病院が消えていくというのは非常に残念なことです。救命救急センターへの補助を出し過ぎたために、各地に乱立してしまった。

 

■地域でハブ的機能を発揮する中小病院

織田 高度な先進医療をやる病院は広域圏ごとに必要です。ただ、高齢患者に関しては、それにふさわしい急性期医療、ターミナルであったり、リハビリであったり、色々なケアマネジメントと、多様な機能を持ち合わせている病院にかかるのが幸せなことではないか。そこからシームレスに在宅につながっていく形を考えていかなくてはいけないと思います。
 高度急性期から在宅にというのは無理ですから、高度急性期は高度急性期としてやりつつ、高齢者を対象とした急性期医療の提供体制を地域でどうつくっていくかということを考えなくてはいけません。その中心になるのが、多分、地域に根差した顔の見える関係のある中小病院ではないかと思います。
丸山 私はある程度の業務独占をするべきだという考えです。つまり、後期高齢者医療は我々中小病院に任せろと。我々の手でそれを実現するような仕組みをつくっていければよいのですが。
大島 独占という言葉が適切かどうかはわかりませんが…。
丸山 確かに適切ではありません。正確には「我々がやります」ということです。そうすることが、また、生き残る道でもあります。我々はそういう方向に向かうべきだと思いますね。
大島 まったくそのとおりです。今までは、みんな超急性期を初めとする病院で終わっていたから問題にならなかったのですが、これからは高齢患者が地域の方に来る。実はこの部分は非常に需要が大きいんです。この需要の大きいところをみんな引き受けようとすると、一つには、開業医のかかりつけ医と地域の病院との関係の問題が生じます。
丸山 そうです。
大島 次に、そこのところの議論は今まではないがしろにされてきたのですが、実は、こうした患者はこれまでも自分たちが引き受けてきたわけです。本当に、いわゆる中小の病院が今までは全部引き受けてやってきたんです。ただ、これからは需要の大きさがまったく違う。しかも、新たに認知症だとか、あるいは老年症候群だとか、これまで学んできた中にはないものが出てきている。なかったけれどやってきたのは事実です。しかし、ここまで多くなり過ぎてしまうと、一体それをどう体系化していくのか、あるいはどう研修していくのかという問題が出てくる。こういうものと一体に議論されないとだめなわけです。
丸山 そうです。我々が包括的に引き受ける、そのために頑張るということを示すことが大切なわけですが、一方で、沢山の診療所があって、日々頑張っておられて、それも含めて日本の医療が成り立っています。我々中小病院は、その先生方にとってのハブ的役割を、決して上位ということではなく、互いに連携を保って、何かのときには任せてくださいという、そこのところをしっかりやらないといけません。
大島 そうです。実は、フリーアクセスの議論というのは、今、先生が言われたハブ機能なんですよ。だから、そのハブ機能をシステムとしてどういうふうに構築していくか。それは多分、相当面倒な議論になるだろうし、相当面倒な役割になるかもしれません。そこは、我々を信用してくれと言うしかないと思うんですね。
丸山 ないですね。実績で示していくしかない。
大島 そうです。システムとしてそれをどう解決していくのか。それをつくっていかないと。その一番いい方策は、やはり、病院団体がシナリオを提案すべきでしょうね。

 

■地域医療を守る、国民の健康を守るという自覚

丸山 今日は、私どもがプライマリ・ケア検討プロジェクトを立ち上げたことの意味そのものが議論のテーマになったような気がします。とにかくニーズに応えていくということ、それと医療人としての矜持というか、国民を守るんだという気概がないとだめだと思うんですよね。
大島 そのとおりです。国民の健康を守るというところは、ぜひ、押さえていただきたいと思うんです。
織田 我々は地域医療を守るのが使命だと思っています。そういう意味では、プロジェクトの議論で確認された、「在宅医療・介護と認知症を手がけていく」という、地域ではたす役割の自覚は本当に大切だと思います。これまで、一般病院は余り声を出さずにきましたが、今や一番ニーズが膨らんできている領域でも、こうした課題に取り組んでいかないと医療改革にきちんと対応できないし、それこそ、日本の医療を変えることもできないと思いますね。
丸山 この前、厚労省から発表がありましたが、予備軍を含めた認知症は、MCI(Mild Cognitive Impairment)を入れると900万弱と推計されています。これは、日本だけが経験し得る新しい世界です。だからテキストがないわけですよ。
大島 すべてが実験です。
丸山 だからこそ、我々中小病院が立ち向かっていく必要があると思いますね。
大島 まったくそのとおりですね。このデータでも、救急の認知症合併が全体の70%いっています。
丸山 私の患者にも認知症の方がいますが、3次救急の現場に行くと、現実に非常に混乱を招いています。認知症がある上、褥瘡、嚥下性肺炎、糖尿病、高血圧症があるという患者が運び込まれるわけですから。それが95歳としますと、やはり、我々は、その人のエンド・オブ・ライフをどう一緒につくり上げてあげるかということを考えざるを得ない。ただただ延命という方向でやるのではなく、そこは患者と対話して、家族とも丁寧に話し合いながらやっていきたいものです。
大島 そこは、やはり団体として宣言していくということではないですか。救命や延命ももちろん大事ですが、それは平均寿命が50歳、60歳の時代の医療です。平均寿命が80歳、90歳の今はその考え方だけで通る時代ではないということを、はっきりと宣言してしまうことですよね。
織田 今の若い先生達がかわいそうなのは、救命救急センターにもそういう患者が来ますが、いくら頑張っても治って帰るケースはない。そのためにモチベーションが維持できないというんです。だから、そういう患者は地域の医療機関がちゃんと受けて、高度な救命救急は治して帰す医療に専念する、それこそ、社会復帰できる人をどんどん受け入れていくという体制づくりをしなくてはいけないと切に思いますね。
丸山 そうです。まさに、我々は、やさしく医療ができる体制を包括的につくっていく必要があるということですよね。
織田 そのためには、我々も意識の改革をしなければいけないですね。
丸山 先進病院のミニ版をつくるという発想ではなく、日本の医療を変える新たなシステムをつくるという発想だと思うんですね。
大島 まったくおっしゃるとおりです。私はいつも言うのですけれど、時代が変われば医療も変わるわけで、最初の問いはどんな医療が必要なのかというところがスタートのはずですが、それを今までの延長上で考えてしまうために、あるべき論をとばして制度論に入ってしまう。しかも、政治や行政は国民の声というのを一番強く意識する。そういった状況の中で、医療団体が将来の方向にきちんとした羅針盤を出すことなく、パイの取り合いにばかり参加してきたというのが今までの状況なのではないですか。
丸山 最初の話に戻りますが、私どもは全日本病院協会の中にプライマリ・ケア検討プロジェクトを立ち上げましたが、その目的というか意味づけというのは、今日の議論で言いつくされたような気がいたします。先生には、ぜひ、今日のような考え方を国民会議で引き続きご発言いただくとともに、我々病院団体が果たすべき役割に関して、これからもご助言をお願いいたします。

 

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