全日病ニュース

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医療法人制度見直しのポイント

医療法人制度見直しのポイント

施行日別の改正内容を確認する

全日本病院協会監事 五十嵐邦彦

1 はじめに
 平成27年9月28日に公布された医療法の一部を改正する法律の施行日が、平成28年3月25日公布の政令第81号により決定された。本稿では、医療法人制度の見直しに係る改正に関して、施行日別にポイントを解説する。
2 平成28年9月1日施行①医療法人のガバナンスの強化
 この改正は、医療法人の機関それぞれの権限と責任を明確にするもので、理事の忠実義務、任務懈怠時の損害賠償責任等を規定し、理事会の設置や社員総会の決議による役員の選任等に関して法整備したものである。従来から、医療法人運営管理指導要綱等に基づき事実上なされていたものが大部分である。改正に伴う重要な変更点としては以下のようなものがある。
○理事、監事の理事会への本人出席
 医療法人と役員との関係は、委任に関する規定に従う(第46条の5第4項)とされ、受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う(民法第644条)とされている。この善管注意義務は、その人の職業や社会的地位から、一般的に要求される程度の注意義務のことと解され、個人的な能力や資質に着目して委任を受けた者であることから、自ら会議に出席し、協議と意見交換に参加して、責任ある議決権の行使をする必要があるとされている。
   これに伴い理事会議事録には出席した理事(定款等で理事長のみとすることは可)及び監事が署名(記名押印)することが法定化されている。
○理事の関係する一定の取引の理事会承認申請義務
 理事は、法令及び定款(寄附行為)並びに社員総会(評議員会)の決議を遵守し、医療法人のため忠実にその職務を行わなければならない(医療法第46条の6の4準用一般法第83条)とされている。これは、結果責任を負うという意味ではなく、法人の役員が、その地位を利用して、自己又は第三者の個人的利益を図るために法人の利益を犠牲にすることを禁じる規範とされている。この義務を具体化した制度として、理事が自己又は第三者のために医療法人の事業の部類に属する取引をしようとするとき、理事が自己又は第三者のために医療法人と取引をしようとするとき、医療法人が理事以外の者との間において医療法人と当該理事との利益が相反する取引をしようとするときには、当該理事は、理事会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならないこととされている(法第46条の6の4準用一般法第84条)。
 なお、医療法人の理事は、その任務を怠ったときは、当該医療法人に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負うこととされているが、理事が理事会の承認を受けずに自己又は第三者のために医療法人の事業の部類に属する取引をしたときは、当該取引によって理事又は第三者が得た利益の額は、前項の損害の額と推定することに加え、理事が自己又は第三者のために医療法人とした取引又は理事以外の者との間において医療法人と当該理事との利益が相反する取引によって医療法人に損害が生じたときは、当該取引に関する理事会の承認の決議に賛成した理事までもが、その任務を怠ったものと推定されることとなる点に注意しなければならない(法第47条)。
○理事長の理事会に対する職務執行状況報告の義務化
 社員総会で定款等の決定と役員の選任をし、選任された理事全員で構成する理事会で業務執行の決定と理事長の選定をし、選定された理事長が業務執行を実行するというのがガバナンスの枠組みである。したがって、理事長は、原則として、3箇月に1回以上自己の職務の執行の状況を理事会に報告しなければならないことが法定化されている(法第46条の7の2準用一般法第91条)。
 なお、厚生労働省医政局長通知「医療法人の機関について」(平成28年3月25日医政発0325第3号)が発出されているが、定款変更に当たっては、当該通知の定款例を鵜呑みにせずに、各法人が当事者意識を持って対応することが必要である。
医療法人の分割の制度化
 合併に関する規定の整備は、第6次医療法改正により平成26年10月1日より施行済であるが、今回は、分割に関する規定の整備が行われた。厚生労働省医政局長通知「医療法人の合併及び分割について」(平成28年3月25日医政発0325第5号)が発せられているので利用を考える法人が参照すべきだが、税法上の問題が別途生ずるので、この点も実行計画に当たっては充分に留意すべきである。
3 平成29年4月2日施行
施行日が2日となっている意味
 施行日が遅い項目は、「医療法人の事業運営の透明性の向上」に係る部分である。施行日が4月1日ではなく、4月2日となっているので、3月決算法人は、平成30年4月1日から平成31年3月31日の事業年度分から適用することとなる。この改正に係る項目は実務適用上準備に時間が係るものなので、このような配慮がなされた。したがって、3月決算以外の法人は、事実上早期適用になるので、留意が必要である。
医療法人会計基準に準拠した計算書類の作成
 前事業年度の決算における事業収益が70億円(社会医療法人は10億円)以上又は負債総額が50億円以上(社会医療法人は20億円以上)の法人は、医療法人会計基準(厚生労働省令第95号平成28年4月20日と医政発0420第5号通知から構成)に準拠した計算書類を作成することが義務付けられた。当該省令通知は、平成26年2月に公表された四病協医療法人会計基準を基礎として作成されており、内容に重大な差異はないが、注記表として整理されていた内容は、医療法施行規則の改正で純資産変動計算書と附属明細表を独立した計算書類とし、上記医療法人会計基準省令で「重要な会計方針等の記載及び貸借対照表等に関する注記」とするように明確な整理がされている。
 なお、届出様式通知も同時に改正され、医療法人会計基準省令適用外の法人であっても純資産の部の表記は、当該省令に合致したものとされている。
関係事業者との取引の状況に関する報告書の導入
 今回の改正で、事業報告書等を構成する独立した報告書として、役員と特殊の関係がある事業者との取引の状況に関する報告書を作成する制度が導入された。具体的な関係者の範囲と報告書に記載すべき取引の範囲は医療法施行規則第32条の6に定められている。この新制度は、規模に関係なくすべての医療法人に適用される。
決算の届出と公告
 従来から医療法人の事業報告書等は、一定の範囲の対象者に事務所にて閲覧に供するほか、都道府県知事へ届出をし、その届出がされたものは一般閲覧に供されていた。この点は改正されていないので、上述のとおり、事業報告書等の内容が増加した分、対象となる情報が増えることとなる。また、新たに前事業年度の決算における事業収益が70億円以上又は負債総額が50億円以上の場合と社会医療法人については、定款に定める方法により、貸借対照表と損益計算書の公告が必要となる。 ⑤公認会計士等による監査
 事業報告書等は、すべて監事監査の対象となるが、上記医療法会計基準省令が適用になる法人に新たに公認会計士又は監査法人の監査が義務付けられることとなった。行政の監査と異なり個々の法人が委任契約により監査を受けることになるため、準備期間を考慮して早めに選定をすることが望ましい。
 なお、公認会計士等監査の対象は、財産目録、損益計算書、貸借対照表、重要な会計方針等の記載及び貸借対照表等に関する注記に限定されている。注記事項の中には、「関係事業者に関する事項」が含まれており、「関係事業者との取引に関する報告書」と同じ内容を注記することとなっているので、事実上、同報告書の内容も監査の対象になる。

 

全日病ニュース2016年7月1日号 HTML版