全日病ニュース

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地域枠医師の条件を厳格化し、キャリア形成を支援

地域枠医師の条件を厳格化し、キャリア形成を支援

 厚生労働省の「医療従事者の需給に関する検討会・医師需給分科会」(片峰茂座長)は6月15日、8カ月ぶりに審議を再開し、早期に実行可能な医師偏在対策を大筋でまとめた。2008年度以降の医学部の臨時定員増により、今後地域枠で卒業する医師が増加することを踏まえ、地域枠医師の条件を厳格化し、キャリア形成を支援するとともに、地域医療支援センターを通じた医師派遣を強化するなど、地域枠医師に的を絞った対策を実施する。
 喫緊の課題である医師確保対策については、①医師の働き方改革②医師偏在対策・需給推計③医師養成過程─の3つの課題がある。医師の働き方改革は、近く設置予定の「働き方改革実行計画を踏まえた検討の場」で、労働時間短縮策や時間外労働規制の検討を行う。医師養成課程については、「今後の医師養成の在り方と地域医療に関する検討会」が、現在地域医療に配慮した専門医制度を議論しているが、卒前・卒後の一貫した医師養成のあり方も議論する予定。
抜本的な医師偏在対策は今年中に結論
 医師偏在対策・需給推計は、医師需給分科会のテーマであるが、「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」が開かれている間は中断していたため、今回8カ月ぶりの開催となった。医師需給分科会は、法改正を含めた抜本的な医師偏在対策を議論する予定で、今年中のとりまとめに向け、議論を進める。あわせて来年に2020年度以降の医学部の臨時定員増の取扱いを決めるため、改めて医師需給推計を行うことになっている。
 一方、来年度から新たな医療計画が始まる。医療計画では医療従事者の確保について記載する必要があるが、医師需給分科会の議論が遅れ、記載ができていない。法改正を含む抜本的な医師偏在対策を記載することは難しいため、早期に実行可能な医師偏在対策を盛り込むことになり、そのための議論を同日の医師需給分科会で行った。
地域枠医師に絞った対策示す
 早期に実行可能な医師偏在対策として、今後増大する地域枠の医師に対する働きかけに的を絞った。医師不足に対応するため2008年度以降に実施した臨時定員増の学生が卒業し始め、2017年度は合計で1,152人となり、2024年にはピークの9,676人になる見込みだ。
 地域枠の学生は、地域医療に従事することが期待されているが、従事の条件は千差万別で、必ずしも地域定着につながっていない。
 厚労省の提案は、地域枠を卒業する医師のキャリア形成を支援するとともに、地域枠の条件を厳格化。都道府県に設置している地域医療支援センターを通じ、医師派遣機能を強化するもの。
 地域医療支援センターとへき地医療支援機構との統合や医療勤務環境改善支援センターとの連携も促す。具体的には以下のような取組みを実施する。
 地域医療介護総合確保基金を活用した医師修学資金貸与事業の改善を都道府県に促す。基金を活用しない場合も含め、7点を改善策としている。①地域枠医師のキャリア形成プログラムを必ず作成②その際に大学(医学部・附属病院)と十分連携③原則地域枠の入学生は地元出身者に限定し、大学所在地都道府県で臨床研修を受けるようプログラムに位置づける④勤務地や診療科を限定⑤就業義務年限のばらつきを是正するため、自治医科大学の年限に合わせる⑥特定の開設者主体に派遣先が偏らないようにする⑦出産、育児等想定されなかったやむを得ない事情が発生した場合は、柔軟に対応する─。
 ⑥の派遣先については、全日病副会長の神野正博委員が、「一部の都道府県が地域枠医師の配置を公的病院に限定している。設置主体により配置の可否を決めるべきではない。社会医療法人や、へき地病院に対して人的支援や患者受入れ支援を行う民間医療機関に対しても、地域枠医師の派遣調整を行うべき」との意見を書面で提出した。
 厚労省は、当面の医師の負担軽減策も提案した。具体的には、地域医療支援センターの派遣調整にあたって、◇へき地以外でも代診医師の支援を行う◇グループ診療を可能とするよう同一医療機関に複数の医師派遣を斡旋する◇へき地以外でも遠隔での診療支援を行う─。医療勤務環境改善支援センターとの連携に関し、派遣候補となる病院に勤務環境の確認を事前に行い、派遣後は継続的に近況を聴取し、勤務環境の課題を把握。医療勤務環境改善支援センターが改善策の助言などを行う。
 また、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を活用するなど、若手医師の主体的な参画を促す様々な関わりにより、地方勤務の意思がある若手医師へのアプローチを提案した。
 例えば、フェイスブックに若手医師向けのポータルサイトを開設し、興味を引く情報を配信することや、「高知に見学に来たら3万円の補助が出る」と記載した病院見学のチラシを配布する高知県の事例などが示された。
法改正含む抜本的対策が必要
 これらの提案に対し、委員から異論はなかった。これを受け、厚労省は地域医療支援センターの機能強化のため、来年度予算案の概算要求に向けた作業を進めるともに、基金事業の助成対象の詳細を詰める。都道府県に対しては、これらの提案が実行に移されるよう通知を出す方針だ。
 早期に実行可能な医師偏在対策は了承したものの、委員からは、法改正を含む抜本的な医師偏在対策を実施しなければ、対策は不十分との指摘が相次いだ。神田裕二医政局長は、「医師の適正配置の議論」を含め、同分科会で秋以降、抜本的な医師偏在対策を議論する方針を示した。なお、次回から、山内英子・聖路加国際病院乳腺外科部長、堀之内秀仁・がん研究センター中央病院医療連携室長が委員に加わる。

 

全日病ニュース2017年7月1日号 HTML版

 

 

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