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急性期一般入院基本料

急性期一般入院基本料

【診療報酬改定シリーズ 2018年度改定への対応②】医療保険・診療報酬委員会 委員 西本育夫

 第1回の稿でもお伝えしているとおり、限られた財源の中、現在の診療報酬制度を維持していく上で、とりわけ重要課題となっているのが、一般病棟の3分の1以上の病床数を占めている7対1病床の削減である。

 7対1病床に対する財政当局の認識
 国の財政全般のあり方を検討する、財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会が、2017年11月29日に示した「平成30年度予算編成に関する建議」では、「急性期病床の適正化」として、次のように述べられている。
 高齢化の進展や人口の減少に伴い、急性期や高度急性期病床のニーズは客観的に見ても減少していくことが想定される。「7対1入院基本料」を算定する病床は、これまでの要件見直しにもかかわらず、ごく穏やかな減少にとどまっており、今後転換するとの意向も医療機関からは殆ど示されていない。7対1入院基本料には、「重症度、医療・看護必要度」を満たす患者が25%以上との要件はあるものの、残り75%の患者の状態については問われておらず、評価項目に当てはまらない患者も相当割合存在している。地域医療構想において、急性期から回復期への転換が求められていることも踏まえ、7対1入院基本料について、今後どの程度病床数を適正化していくかの見通しを示した上で、これに向けて「重症度、医療・看護必要度」などの算定要件の一層の厳格化を行うべきである(一部の内容を省略)。
 これに加えて建議に示されている資料には、「平成26年度改定において7対1病床を他の病床等へ9万床転換させると見込んでいたのに実現に至っていない」ということを意味するような図も掲載されている(右図参照)。
 真摯に急性期医療の提供に取り組んでいる身からすると「何をか言わんや」であるが、現時点では、①重症度、医療・看護必要度の厳格化、②7対1病床から10対1病床や回復期等への転換、③看護職員配置に重点を置かない診療報酬体系、などがさらに推し進められることを想定しておいた方が良さそうである。
 この建議の内容のとおり、という訳ではないが、今回の診療報酬改定では、実際に「重症度、医療・看護必要度」が厳格化されている。社会保障費等の財源の配分を行う立場からすると、この厳格化で7対1病床を意図する病床数まで削減したいところであるが、果たして思惑どおりに事が運ぶかは疑問である。今回の改定で7対1病床の大幅な削減が実現すれば厳格化は一服するであろうが、削減が叶わなかった場合は、今後、第2、第3の厳格化策が実施される可能性は極めて高い。しかしながら、仮にでも7対1病床の削減を急ぐあまり、今後、矢継ぎ早に厳格化ルールが示されて、急性期医療そのものが崩壊に至るようなことは絶対にあってはならない。

 入院基本料再編の影響
 一般病棟入院基本料(7対1、10対1)は、従来の5段階制から7対1の直下に2つの基準が追加されて合計7段階になった。
 厚生労働省医療課の改定説明資料では、従来のルールでは7対1から10対1に転換した場合は200床の病院として年間約1.2億円の減収が見込まれ、経営に与える影響が大きいため、その間を埋め合わせる基準を設定したとのことである。入院料1(7対1)は1,591点、入院料2(10対1)は1,561点、施設基準だけを見ると看護配置数は大幅に緩和されるが、点数差は30点(300円)である。
 では、入院料1(7対1)と入院料2(10対1)がどの程度、経営に与える影響があるのかと言うと、上記に示された200床の医療機関をモデル(※)とした場合、入院料1(7対1)に対して入院料2(10対1)の看護職員の配置はすべて常勤として40名程度は少なくて済む。年間500万円/人の人件費が必要だと仮定すると約2億円/年の人件費が削減できる。診療報酬の減収は2,200万円/年程度なので、差し引き年間1億7千万円以上の増益が見込める。もちろん、これは机上の計算なので、どこの医療機関でも同じ増益が期待できるという訳ではないが、現在の入院料を再検討する医療機関は多いかも知れない。

 地域の連携体制も変化
 このことに加えて、7対1病床は今回の改定で在宅復帰先の位置づけが見直された。7対1病床に対しては要件が緩和されたわけであるが、平成26年度の診療報酬改定以降、7対1病床の在宅等復帰先病床として位置づけられていた、回復期リハ病床、地域包括ケア病床、在宅復帰機能強化加算を算定する療養病床、在宅支援加算型や在宅復帰強化型老健などは大きな影響を受ける可能性がある。
 この詳細については紙面の関係で後の稿に譲るが、7対1病床の転換先の選択によっては地域の中の連携体制が大幅に崩れてしまうことも念頭に置く必要がある。
 (※)看護職員の1人当たりの月労働時間を150時間として40床を5病棟として仮定。

財政制度等審議会「平成30年度予算編成に関する建議」参考資料Ⅱ-1-4(2017年11月29日)

 

全日病ニュース2018年6月15日号 HTML版

 

 

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