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患者目線で経営基盤をリストラクチャリング
―ニーズに寄り添った医療で地域に不可欠な存在に

患者目線で経営基盤をリストラクチャリング
―ニーズに寄り添った医療で地域に不可欠な存在に

【シリーズ●病院事務長が考えるこれからの病院経営③】医療法人財団寿康会 寿康会病院 事務長 今井 信雄

 医療政策が大きく変わりつつある中で、経営の一翼を担う病院事務長の役割はますます大きくなっています。シリーズの第3回は、寿康会病院の今井信雄事務長にご寄稿いただきました。

病院事務長に求められる
役割やスキル

 事務長の主な役割と業務とは何でしょうか。その役割は、病院の規模や機能、経営主体の違いにより異なると思います。しかし、医療の質と経営の質は車の両輪であり、経営の一翼を事務長が担う責任は、必然的に重くなります。
 私が考える事務長に必要な素養は、「穏やかに感情を抑え、全体を見回すことができる広い視野」、そして「フットワークを常に軽く維持できる、行動力」です。なかでも行動力が一番重要だと考えています。
 他方、病院経営のデータ管理も重要です。医師がエビデンスにこだわるように、事務長は経営データに強くなければなりません。点数を確保し経営を維持する上でも、地域医療圏において経営戦略を立てる上でも、データを無視した経営は有り得ません。データを作る能力も、探す能力も、読む能力も、いずれも要求されるようになっています。それらデータを分析し、ベンチマーク(比較可能な重要参考指標および基準対象)から病院の現在の立ち位置、今後の方向性を導くことは事務長の役割だと考えます。
 周知の通り診療報酬改定によって、病院経営は大きく左右されます。病院は、医療制度の制約を大きく受けています。事務長は、常に日頃からネットワークを維持しながら国の誘導政策には敏感な対応が求められるので、それなりの準備が必要です。医療政策の動向を正確にフォローし、データを作り、ベンチマークを設定して、組織全体を導く能力が事務長に求められます。そうした行動のプロセスと結果を、「医療マネジメント能力」と言うのかもしれません。
 事務長の仕事には、トップの理事長から意向を引き出し、その考えをイメージに起こし、言葉できちんと伝えられる表現力も求められます。そして、その言葉を使ってスタッフを動かす。医療に関する知識はもちろん必要ですが、トップの考えを汲み取りつつ、現場目線にも立って「ビジョンとリスクを如何に言語化するか」という能力が決定的に必要だと思います。

医療政策の方向と当院の対応

 社会保障費の抑制を目的とした財政政策により、病院を取り巻く経営環境は厳しさを増してきています。また、地域における少人数世帯、独居世帯の増加に応じて社会問題が構造化してきた現在、これらを反映して、病床機能の役割分担、地域包括ケアの拡充、在宅医療や介護の充実等の政策が、加速度的に進められています。また、少子高齢化が急速に進む中で2025年には、いわゆる団塊の世代がすべて75歳以上となる超高齢社会を迎えます。団塊世代が後期高齢者化する時代には、患者・利用者の視点に立ち、切れ目のない医療・介護の提供体制の構築が、地域の医療機関の大きな役割となっていきます。
 このような環境変化(社会保障費の政策的抑制、地域における少人数世帯や独居世帯等の増加など社会問題等)に適切に対応していくためには、計画の根拠となる基本的な考え方を理解しつつ、「対象(患者)に向き合う」という原点に立ち返り、患者様中心の医療の提供に無骨に邁進することが重要である、と日々考えています。患者様目線で経営基盤をリストラクチャリング(再構築)して行くことこそ、私たち中小規模病院の唯一生き残る手段である。そう考えています。
 医療を取り巻く諸政策等の激動時代だからこそ、「原点に戻り、患者様目線での対応を心掛け、患者様を家族のように、大事にケアしよう」。これをテーマに掲げ、現場に届く言葉に換え、患者さんのニーズに寄り添った医療を提供する。患者さん中心の医療・介護、地域に必要となる病院のあり方を職員全員で考え、同様に言葉にして地域住民に伝え、地域の皆さんが安心して過ごせるように気を配る。その積み重ねがあって初めて、その病院はその地域に不可欠な存在となります。患者様および家族と、そして地域住民にそうした思いが広まれば、働く職員にも間接的に思いが伝わり、結果として医療現場のモチベーションが引き上げられていく。病院は、地域の中で信頼されなければ生き残って行けません。これが病院の宿命なのです。

働き方改革、地域医療構想、地
域包括ケアシステムへの対応

 私たちのような中小規模病院が地域医療を支え続けていくためには、時代の流れに沿った経営戦略が必要となります。繰り返しますが、地域における自院の立場や役割、求められる機能を見つめ直し、愚直にこれに向き合って行けば、結果としておのずと「地域医療構想に対応したかたち」に変わっていきます。地域医療構想の中で自院のポジショニングを明確にして把握することや、そのポジションに応じてどの病院機能を選択するのか、自院の状況や地域の医療ニーズを把握して方向性を打ち出し、計画を立てて日々の行動を管理していく。これが病院事務長に与えられた役割です。
 現代の日本の医療政策は、地域包括ケアシステムの構築に邁進しています。とはいえ、地域社会にそれが伝わっているでしょうか。地域への発信、広報やコンセプトの徹底など目配せが必要です。とりわけ地域の各医療機関や介護事業者との連携が重要です。それを「医療連携室の業務範囲」として矮小化することなく、院長、事務長、看護部長も管理職を全員動員して、直接的に法人の考え方、求める患者様に伝えていく機会をもっと設けなければなりません。事務長がどんどん外に出て、相手の「顔を見て」ネットワークを構築し、小さな一次情報を収集し発信していく活動が重要なのではないでしょうか。
 地域包括ケアシステムの確立には、それを支える総合医の養成が重要となります。当院でも、全日病の総合医育成の研修制度に常勤医師を参加させ、病気を診て治すだけでなく、地域を診る医師、老化を診る医師として、必要に応じて専門医と連携する総合診療医が今後増えていくことを期待しています。

病院に求められる経営改革

 病院を取り巻く環境が激変期にある中、病院経営は厳しさを増しています。そこにはマネジメントを担う人材が必要不可欠になります。
 昨今の経済環境、制度改革の変化に対応できる組織体制と人材を育成することが重要となるため、職員の意識改革、育成システム化を至急進めるべきであると思っています。そのために、事業計画・予算書をしっかり作成してそれを基にして各科の目標を設定する。目標があれば職員は行動につながります。この差が病院の二極化につながってくるので、経営企画を考える人材の養成が不可欠となります。この部分の基盤を強化した幹部職員の確保と育成が、これから病院が生き残れるかどうかのカギになると思います。
 病院内で、事務部門、看護部門、医療技術部門の志を持った幹部職員がマネジメントを担うようにするべきであると考えています。そこは、適任者を選ぶのでなく、育成する経営人の強い意志と協力が必要であり、それによって育成プランというプログラムができるのです。病院経営に参加させることであると思います。重要なポジションを特定し、志をもった人材を育てることが次世代のリーダーを育成する経営改革の基盤となります。
 このように、転機を迎える病院経営は人材育成が不可欠であるため、国家資格者である職員を組織に帰属させることにより、マネジメント力を発揮して各部門職の職員満足度を高めれば、患者満足度も高くなり、医療の質も上がり、経営改善に繋がるのではないかと考えています。

病院組織に必要な
人材の育成と確保

 これからは「病院が選ばれる」時代に入って行きます。職員の質を高めていくことは当然として、地域医療を掲げて取り組んでいるわれわれ病院の理念とビジョンを地域社会に理解してもらい、その理解を超えていく業務の遂行を心掛けていく。それが遂行できなかった病院が淘汰されていく。そう考えています。
 人事管理には、「公平性の担保」が不可欠です。医療機関を組織的に運営していくためには、スタッフの昇進・昇格・異動を公平に行うことが何よりも重要です。その意味で、昇格規定制度を作り、運用の中で随時修正していくことこそ、事務長の重要な仕事だと考えています。この点で中小規模病院は、人事機能が未熟なまま現在に至っています。民間企業にように、異動と昇進のシステムを早急に構築するべきだと焦りを感じています。
 最低限の知識スキル、例えば医事と医事法規、また病院経営を左右する医療制度や診療報酬、介護報酬等の動向の知識をベースに、人事管理能力を適確に評価して昇進人事を進めることに加え、財務指標をもとに病院経営の柱となる事業計画や経営戦略の策定・実行・コスト削減および業務改善など、収入確保のための集患・増患対策の作戦があるかどうかであると思います。
 しかしながら事務職に関して、特に医事課スタッフについてはスペシャリストとしての育成が重要と考えています。病院全体の動きを診療報酬といった指標データ(エビデンス)によって把握が可能になっているからです。病院全体のパフォーマンスとコストが見えるデータの宝庫を活用し、運営に提案するぐらいに積極的に関与する姿勢が求められます。そのためには、医事課スタッフの位置づけを特化し、専門教育することが重要となるのではないでしょうか。

最後に

 日々、私自身が心がけている事としては、医療を取り巻く制度の変化に細心の注意を払いつつ、常に好奇心をもつこと、そして常に内省し自問自答する癖をつけることでしょうか。トヨタ生産方式のノウハウ「5つのWhy?(いわゆる『なぜなぜ分析』:問題の原因・要因を、なぜ、なぜを繰り返して追求していく)」を、日々の私自身の基本姿勢と位置づけています。
 地域で求められていることは何か、なぜそれが求められるのか、なぜ自院がそれを徹底できないのか?…。事務長として、自問自答を繰り返す毎日を過ごしています。

 

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