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ホーム全日病ニュース(2020年)第955回/2020年2月1日号健康支援室TMGFit の健康増進支援への取組み

健康支援室TMGFit の健康増進支援への取組み

健康支援室TMGFit の健康増進支援への取組み

 超高齢社会を迎え、「健康寿命の延伸」が課題となっている。こうした中で、戸田中央医科グループ(TMG)では、健康運動指導士を活用した健康教室により、地域の健康づくりに取り組んでいる。病院の社会貢献活動を紹介するシリーズの第1回では、健康増進支援を通じた社会貢献活動について報告していただいた。

① 社会貢献活動の始まり
 私達の健康支援室TMGFitが所属する医療法人横浜柏堤会は、神奈川県に拠点を置いています。神奈川県では、2014年に黒岩知事が病気の予防・治療だけでなく、心身の状態を整え改善する「未病を治す」取り組みを表明しました。未病の改善、健康維持増進は我々医療人に課せられた重要な使命の一つと考えます。
 さらに国の健康づくり政策である「健康日本21」では、基本方針として「国民の身体活動や運動についての意識や態度を向上させ、身体活動量を増加させること」や「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」、「社会生活を営むために必要な機能の維持及び向上」といった考え方を示して国民の健康づくりを進めようとしています。
 しかし、これらの健康づくり政策には、いくつかの課題があります。例えば、身体機能の向上の方法や目標設定等について、具体的に何をすればよいのか示されていないため、運動の方法や取り組み方は個人に委ねられているのが現状です。そこで、健康増進の専門家の関わりが必要であると考えます。
 このような中で、当法人の理事長である横川秀男は、健康運動指導士の資格と活動内容にいち早く着目し、2010年に法人内施設である戸塚共立メディカルサテライト健診センター主催の「メタボ予防改善教室」において運動指導を取り入れました。これが、健康増進を通じた地域貢献の始まりとなりした。その後、2012年に「戸塚共立健康支援室」を開設し、横浜市戸塚区を中心とした地域住民への「運動教室」を定期的に開催することになりました。2018年には、健康志向の高まりを受けて、当法人が所属する戸田中央医科グループ(以下TMG)がグループとして取り組む活動と位置づけ、名称も「健康支援室TMGFit」と改め、活動を広げました。

② 健康支援室TMGFitの概要
 健康支援室TMGFit は、TMG が担うトータル・ヘルスケアネットワークの一部であり、健康運動指導士が予防医学に基づく運動教室を開催し、地域貢献を進めるチームです。「健康づくりは幸せづくり」をモットーに「出張運動教室」「会員制運動教室」「健康づくりセミナー」を展開しています。現在、法人内に健康運動指導士が10名在籍しており、全員がより高いスキルを身につけるために、日々研修と研鑽を積んでいます。また、所属が医療法人ということもあり、専門的な知識やアドバイスを医師に相談できる環境を活かして、より高い水準の運動教室を心がけています。

〇健康運動指導士の役割
 健康運動指導士とは、「保健医療関係者と連携しつつ安全で効果的な運動を実施するための運動プログラムの作成および実践指導計画の調整等を担う者」をいいます。健康運動指導士の養成事業は、生涯を通じた国民の健康づくりに寄与する目的で、1988年に厚生大臣の認定事業として創設され、生活習慣病の予防を通じて、健康水準の保持・増進に大きく貢献してきました(公益財団法人健康・体力づくり事業財団の資料より)。こうした取り組みの結果、健康志向が高まり、多くの方が運動の必要性を認識するようになっています。
 しかし、現状を見ると、運動習慣のある者の割合は2017年時点で、男性35.9%・女性28.6%(2017年国民健康栄養調査より)と決して高い数字ではありません。
 健康支援室TMGFitの会員制運動教室のアンケート調査でも、「一緒に運動をする仲間が欲しい」「どんな運動をすればよいかわからない」といった回答が多く寄せられています。このアンケート結果から、健康運動指導士は個人にあった運動メニューを提供するとともに、地域の活性化のためにも地域住民同士の輪を広げることが必要だと感じています。

③健康支援室TMGFitの活動状況〇出張運動教室
 「出張運動教室」は、外部の施設などから依頼をいただき、健康運動指導士が訪問して約10項目のプログラムの中から目的に沿った運動教室を行うサービスです。訪問先としては、病院や介護老人保健施設、グループホームやサービス付き高齢者向け住宅、行政や横浜市地域ケアプラザ(横浜市独自の様々な取組みを行っている施設)などがあります。出張運動教室は私たちの活動の8割を占めており、参加者の方にわかりやすく、楽しみながら体を動かしてもらうことを心がけています。
 なかでも肩こり解消の運動、認知症予防の運動といったプログラムが人気を集めています。特に認知症予防の運動は、要介護になった原因の大半は認知症であるとの報道もあり、どの地域でも需要があると感じています。健康支援室TMGFit では、このような需要に対して国立長寿医療研究センターが開発した、「コグニサイズ」を習得し、運動教室に役立てています。
 介護老人保健施設などの高齢者の多い場所では、活動量の確保を目的とした運動を行います。利用者の中には車いす使用の方もいるため、座ったままでも運動ができ、少しでも体を動かし血流量を上げる内容を心がけています。地域団体や行政それぞれで依頼内容は異なりますが、定期的な開催を希望されることがほとんどです。依頼件数も増えていて、健康に対する意識の高まりを実感しています。

〇会員制運動教室
 会員制運動教室は現在、横浜市戸塚地区と横須賀市浦賀地区の2か所で実施しています。戸塚地区は2014年から月1回の運動教室を開催しています。運動教室を始めた当初は1回の教室に10名程度の参加者でしたが、2018年12月現在で117名に増えています。参加者が増加した背景には、地域の方の健康志向が高まったことに加え、私達の行った地道な広報活動の成果でもあると考えています。
 当法人の地域住民向け医療公開講座の開催も広報活動の一つです。地域医療公開講座で運動教室を開催し、会員制運動教室を開催していることを知った地域住民の方が、教室に入会していただけるケースが多くありました。そして、会員数が増加したため、教室の回数を増やし、現在では月4回開催をするまでになりました。
 運動プログラムとしては、その季節にあったメニューや話題性のある運動を取り入れ、一年を通して参加したいと思えるように努めています。例えば、年明けには正月太りを解消するための運動、桜の時期になれば正しい姿勢を確認しながら、近くの川沿いを歩きながら花見をするといったプログラムです。
 また、日本人の自覚症状の中でも1位2位を争う肩こりや腰痛対策をテーマにした教室では、会員様同士をつなげるためのレクリエーションやアイスブレイクを取り入れるなど仲間づくりにもつながるよう工夫し、多種多様のプログラムを提供しています。参加されている方の中には自分で地域の方に運動を教えている方や遠方から戸塚の運動教室に参加するなど、健康意識の高い方が増えてきています。
 浦賀地区では2018年に会員制運動教室が始まりました、現在の会員数は約30名です。開始からまだ約2年目であるため、今後は会員数を増やすとともに会場の確保など浦賀地区においても活動を増やしていきたいと考えています。
 戸塚地区と浦賀地区の両方の会員制運動教室に共通するサービスとして、「健康手帳」を配布しています。日々の運動記録を書く欄を設け、運動のやり方に関する解説を載せています。この運動教室では、体力測定を実施していますので、その測定項目に沿った内容を掲載しています。会員の方からは自分の努力が見え、会員同士のコミュニケーションに役立つとして好評を得ています。

〇健康づくりセミナー
 2018年に健康増進をグループ全体の取り組みとした際に事業を拡大し、企業向けの健康づくりセミナーを開始しました。企業向けセミナーの依頼は年々増加しています。出張運動教室との大きな違いは企業側の要望に対して最適のプログラムを提供できる、言わばオリジナルプログラムができる点にあります。
 横浜市の健康福祉局保健事業課のデータによると、健康リスクが低い場合と高い場合では労働生産性に年間113万円もの差があることがわかっています。企業では、業種や職種によっても抱えている問題や健康に対する志向が違うため、企業側の意見を取り入れてプログラムを作成することは私たちにとってもやりがいがあり、企業の生産性向上にもつながる活動であると感じています。
 例えば、建設関係の企業でセミナーを開催した際には、事前打合わせで関節痛や違和感がある方が多いと伺ったので、姿勢を整える運動や関節に直接アプローチする内容のセミナーを行い、好評を得ました。また、社員の方の中には特定保健指導を受けていない方や運動に興味がない方などもいらっしゃるので、健康づくりセミナーを通じて健康へ意識が向くような工夫も大切です。
 平均寿命や定年年齢が延びている昨今、働く世代が健康寿命を延ばし、生産性の低下につながらないようにサポートすることも私たちの大切な役割だと感じています。

④ 今後の展望
 今後は、「介護予防」「健康寿命の延伸」「未病の改善」を視野に入れたメディカルフィットネスや特定保健指導の補助等による総合的、継続的な教室を企画していく予定です。現在は集団指導に特化しているため、より個人にあった指導を取り入れることも必要です。専用のスペースが課題ではありますが、メディカルフィットネスの導入は当法人として前向きに検討しています。メディカルフィットネスでは、医師が発行する運動処方箋に基づいたプログラムを提供します。さらにグループ外の医療機関とも連携を図ることで、活動の幅を広げ、より多くの方に利用してもらう地域密着型の施設として定着していくことを目指しています。
 今後も地域をはじめ、団体・企業・行政等へのアプローチを引き続き行い、健康の大切さ、運動の意義について一人でも多くの方に理解され実践してもらえるようなプログラムサービスの提供に努めていきたいと思います。

 

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